第12話 ギルド報告
リュウ達三人はギルドに戻ってきた。扉を開け中に入ると中の様子が気のせいか騒がしかった。
恐らく今回の盗賊襲撃の情報がギルドに入ったため先程出された盗賊の遺体回収や周辺捜査の類のもので
美味しい依頼の取り合いをしているのだろう。
リュウ達がギルド内に入ってくるのを見つけて二人の男達が足早に駆け寄ってきた。
『おい!お前たち!聞いたぞ!50人の盗賊と戦ったんだって?よく無事で帰ってこれたな?』
『うむ、心配したぞ。無事で何よりだ』
二人の男は碧き大海のメンバー、ジョセフとゴードンだった。
『心配させてゴメンなさい。でも、大丈夫よ。こちらは全員無傷だったから』
この周辺を縄張りにしている50人の盗賊団といえば、”蠍” の筈だ。 手配ランクAやBも数人いるのにハンターランクBのソフィア達が無傷で済む筈がない。一体何があったというのか。 ジョセフ達はソフィア達の無事な姿を見て安堵すると共に釈然としなかった。
『あのう、お話中申し訳ありません。少しよろしいでしょうか?ソフィアさん、ユリンさん、リュウさんのお三方にギルド長がお話があるそうです。こちらに来ていただけますでしょうか』
ソフィアとジョセフの会話は一旦中断され、俺たちはギルド長が待つ二階奥の部屋へと案内された。
案内された部屋は社長室の様な雰囲気の調度品の大きな執務机と来客用の三人掛けのソファーが置かれていた。
『急にお呼び建てしてすいません。私はギルド協会の会頭とこのローグギルドのギルド長を兼務しているナターシャといいます。 ソフィアさん以外は初めましてですね』
挨拶とともにソフィア達は3人掛けのソファーに掛ける様に促された。
ギルド長は女性だった。年齢としては30代半ばといったところだろうか。いまでも目を見張る程の美人だが、もっと若い頃はすごかっただろう美貌と見事なプロポーションはタイトなスカートとブラウスのシルエットからでもわかる。金色に近いブロンズの長い髪は艶やかだ。
『お久しぶりです。ナターシャ様』
『初めまして。碧き大海のユリンです』
『初めまして。ハンター見習いのリュウです』
三者三様にナターシャに挨拶をする。
『今回は大変な事件に巻き込まれたわね。ギルドにも一報が入って概略は知っているけど、当事者のあなた達に詳しい話を聞かせてもらいたかったのでここに来てもらったの』
盗賊に襲われていたのは領主の娘であるクリスティーヌ達なので襲われる経緯は知らされていなかったが、彼女達と出会ってからの行動についてはナターシャに細かく説明をした。
とはいえ、リュウの人間とは思えない武勇伝についてはどうせ信じてはもらえないだろうから適当に端折っての説明ではあったのだが。
『それにしても、あなた達はよく無事で帰ってこられたわね。盗賊50人の手練れ相手だと騎士団一小隊でも討伐は難しいと言われているのに・・・』
ちなみにこの世界の小隊とは30人前後の小規模な隊編成のことを指し、5個以上の小隊の集まりを中隊、3個以上の中隊を大隊、大隊が複数で連隊と呼んでいる。組織が大きくなるにつれてまとめる指揮官の位が高くなる。
『実質的には私とユリン、護衛長の3人で10名の盗賊を仕留めました』
その時の状況を正直に話すソフィアだった。
『そして、これがその10人の識票です』
リュウからジャラリと鎖付きの識票10本がナターシャの前に並べられる。
あの時はソフィア達も生き残るのに精一杯で倒した盗賊の識票回収や、増してや自分達が倒した10人の識票をリョウがきちんと選別して保管していたことに驚いた。
『ちゃんと自分の倒した敵の評価は貰わないといけないですからね』
ナターシャがギルド職員を呼び、職員が識票を確認した。10人は手配ランクCが3人、Bが2人だった。
盗賊自体が犯罪なので盗賊団の一員であること自体が処罰の対象となるが、指名手配の様な凶悪な犯罪を犯した者を優先てきに処罰するためにランク付けを行っている。
ちなみに賞金は 無名が1金貨、Cが10金貨、Bが50金貨、
Aが100金貨となっている。
この国の通貨単位は1銀貨で千円に相当する。従って、盗賊一人を討伐すると最低でも10万円が報酬として貰えることとなるのだ。
『それと、これは俺が倒した分です』
ジャラジャラと先程の4倍にあたる40枚の識票が所狭しと並べられた。
流石の量の多さに、その場に居た全員が驚いた。
その場に居たギルド職員が引き続いてリュウの討伐した40枚の識票を調べる。
Cランク:15人
Bランク:5人
Aランク:2人
だった。これだけで賞金合計が618金貨、日本円に換算して6180万円にもなる。
『この数をたった一人で倒したというのですか!しかも、Aランクが2人もいるのですよ!!』
なにやらナターシャが妙に興奮気味に話ししている。それもその筈、Aランクの討伐対象となれば、下手すれば小隊どころか大隊クラスの討伐体制で挑んでも返討ちにされることがあるのだ。
『ああ、それと忘れてました。この街に来る前に、こいつも倒しましたよ』
そういいつつ空間ポーチから辻斬りドウザの識票を見せる。
『ええ!!?これは辻斬りドウザの識票ではないですか!!彼は何度討伐隊を差し向けても返討ちにされる手に負えないS級に匹敵する手配者ですよ!』
なんだか興奮しすぎたナターシャの顔が怖い。せっかくの美人が台無しだ。
『辻斬りドウザの賞金額は今現在で5000金貨に上がっています。これは国庫金の報奨額も加算されています』
ギルド職員が何やら資料を見て淡々と話す。
金貨5000枚というと日本円換算で5億円だ。宝くじ当たる様な途方もない金額である。
だが、リュウは辻斬りドウザとの闘いを思い出してみるが特に印象のない手応えのない輩にしか思えなかった。
『それで、リュウさん。あなたは今日この街にやってきたのよね?何故この事件に関わっているのかしら?』
クールダウンして美人に戻ったナターシャがリュウに質問をした。
『はい。まあ偶然といばそうなんですが、今日ハンター登録したところ、見習の討伐依頼を受けたので、ここにいる碧き大海の方に同行してもらってコヨーテの皮を採取してたんですよ。で、終わって帰る途中にお嬢さん達と遭遇したという全くの偶然ですね』
リュウの言葉を聞いて嘘を言っていないことはわかるのだが、なにやら思うことがあるらしくしばらく考え込んだ。
『よろしい。みなさん、お手間をとらせました。討伐報酬はあとで窓口で手続きして受け取ってください。
あ、それから、リュウさんにはまだ話があるのでここに残ってもらえますか?』
リュウを残して二人はギルド長の部屋を後にした。
この二人、今日は散々な目にあったのだが、リュウからは国宝級の武器を貰えたし、賞金首で1350万の3頭分の額がそれぞれに貰えるのだ。臨時収入としては多すぎる額であった。
災い転じて福となす とは正にこの事だろう。
一方、部屋に居残りの如く命じられたリュウだが、タナーシャは全員が出るのを待って、部屋の外に人がいないことを目で見て確認してから扉の鍵を掛けた。
『ちょっと今から大切な話をするので人払いさせてもらいました。そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ』
先程の興奮顔とは全然違い笑いながら笑顔でナターシャはリュウに話しかけた。
『ひょっとしてだけど、貴方はこの世界の人ではないでしょ?』
『どうしてそう思うのですか?』
軍の経験で誘導尋問の耐性があるリョウは警戒モードでナターシャの問いに応える。
『なんとなくかしら? 貴方は私がいくつに見える?』
『そうですね、美しい理想の30代といったところでしょうか?』
『あら、なかなか見る目があるのね。』
笑いながらナターシャは応えた。どうやら彼女的には満足できる回答だったようだ。
『でも、こう見えても私は既に500年以上も生きているのよ。信じられないでしょうけど。』
『エルフとかの種族は非常に長命だと聞きましたがその類なのでしょうか?』
『あら、よく知ってるのね。でも、私はエルフではないの。正しくはエルフと人間の間にできた子、ハーフエルフなの。本来のエルフとしての魔力は持っていないのだけど、長命なところは引き継いでいるみたい』
『そうだったのですね。それでその若さでギルドの会頭なのですね。納得できました。』
『そうね。勝手に周りが老齢で引退していっちゃうんだもんね』
『で、ハーフエルフの貴女がなぜ俺が異世界人だと思うんです?』
『私の様に長く世の中に生きていると世界でいろんな人に会う機会もあるのよ。その中に神様と呼ばれる人達も含まれているわ』
『ナターシャさんは神様にお知り合いがおられるのですか?』
『まあ、知り合いというか腐れ縁というかね・・・』
『なんじゃ、その知り合いとは妾のことかの?』
突然リョウの背後から聞いたことのある人の声がした。いや、人ならばリョウが気配を気付かない訳がない。
『貴女!突然この部屋に入ってこないっでっていつも言ってるでしょ!』
『そう怒るでないわ。妾も用があってここへ来たのじゃ』
声の主は鈴鳴だった。どうやら二人は知り合いの様だ。
『リョウよ、待たせたのう。お主の事を報告して済ませようと思ったのじゃが、久しぶりに七仙人が集まったもんじゃからやれ宴だの煩うてのう』
『やっぱり、あなた達は知り合いなのね』
『うむ、リョウは妾の弟子じゃ。試練を達成して鬼神の討伐をする者じゃ』
『あの仙人の試練を成し遂げたというの?』
『そうじゃ。すごいじゃろう』
『なるほど、それなら盗賊なんて束で掛かっても足元にも及ばないのもうなずけるわ』
鈴鳴とナターシャの会話は普通に鬼神とかも出てきてるし大丈夫なのかと不安な顔をしているリュウだった。
『リュウよ、心配するでない。こやつはこの世界での我らの協力者じゃ。其方と合流してから紹介するつもりだったのじゃが、手間が省けたのう』
『それにしても、朝から偶然とは思えない話の進み具合じゃない?貴女、何かしたでしょ?』
『ふん、他愛もないことじゃ、リュウの腕慣らしも兼ねて悪党を引き合わせただけじゃ。掃除にもなったじゃろう』
『やっぱりそうだったのね。でもこれだけ派手な事したら、私はいいとして領主が黙ってはいないわよ?』
『そこは其方がうまく取り繕えばよいじゃろう』
『結局尻拭いをこちらに押し付けるわけね』
『そう怒るでない。ほれ、土産の酒も持ってきてやったぞ』
どうやら鈴鳴はナターシャの扱いに慣れているらしい。手土産に気を良くしたナターシャはその後は文句を言わなくなった。
『で、これからどうするんですか?』
二人の会話を見ていたリュウだが、とりあえず今後の事を確認してみた。
『まずは今回の実績で貴方をAランクのハンターに昇格させます。Aランク賞金首を討伐した貴方が見習いだなんて何の冗談かと思うわよ。 それに、近いうちに領主から招集がある筈だから、それまでどこかに待機をしておいて。 招集には私も同席できる様根回しはしておくわ』
いきなり見習いからAランクとは3階級特進なんてどこの殉職刑事だといいたくなる。
『了解しました。それで、今朝この街に来たばかりで泊まるところとか全然考えてなかったんですが、どこか適当なところはありませんか?』
『そうよね。それならギルドの宿舎を利用するといいわ。一般の宿舎ではなく迎賓用とAランク以上のみが利用できる施設なので設備も整っているわ。 それに、私もそこを利用しているので
もし夜が寂しかったらいらっしゃい』
『こらこら、妾ですらまだリュウに手を付けておらぬのに勝手に手を出すでないぞ』
そういうのはフォローになっていない。この先が思いやられるリュウだった。
それにしてもAランクハンターの恩恵がこんなところで受けられるのは有り難いことだった。
ギルド長の部屋を退出して一階の窓口で賞金精算を行った。総額5600枚以上の金貨など普通は持てる量ではない。リュウはとりあえず、手持ちとして1000枚の金貨を受け取り、残りは併設されるギルドの銀行に口座を作り預けることにした。
午前中は事務的に処理をしていた銀行員風のギルド職員の女性だが、気のせいか頻繁にこちらを見ている様な気がする。
目が合うと頬を赤らめて俯いているように見えるのはきっと気のせいだろう。
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