第11話 盗賊襲撃

ノルマのコヨーテの皮5枚を2回分の達成を遂げたリュウ達は早々とローグの街に戻ることにした。


『討伐依頼の納入部位になるコヨーテの皮は10枚分貰ってもいいですか? 残り2匹分の皮と牙や肉はお好きなだけどうぞ』


『見習い討伐の同行は私達もギルドの正式依頼となっていますので無報酬というわけではありませんが、貰ってもよろしいのですか?』


『はい、この前は小銭の持ち合いがなかっただけでお金に困っている訳でもないので大丈夫ですよ』


リュウの申し入れを快く受け入れるソフィアだった。魔法はともかくアーチャーのユリンは戦闘では弓矢の消費が伴うのでコストのかかる職業なので助かった。 

盾職も装備がそれなりに痛むし、近接武器のアタッカーも武器は消耗してしまう。 一番コストの掛からない職業は魔法士やサポート職業などの後衛職だろう。


しかし、本格的な戦闘となると魔法士は魔力を回復するために高価なマナポーションの使用が余儀なくされるし、他のサポート職も魔力を温存して味方への回復をヒールポーションなどを使用するのでそういう意味では不公平とはなっていなかった。


そう考えていると周辺検知に人影が検知された。 走っているのか3人がこちらの方に近づいてくる。 その3人の後方200メートルくらいに20人程の集団が追ってきている。

この20人の集団は赤い色なので盗賊か何かだろう。そろそろ視界に入るだろう。


『助けてください!!追われています!』


若い女性の声だった。


3人の内訳は男一人と女が二人。 男は重装備の騎士で恐らく護衛役だろう。 兜をかぶっていて年齢はよくわからないが、30才前後といったところか。


先程の声の主の若い女性は服装から貴族かなにかだろうか。

この草原を走ってくるには相応しくない恰好だ。

必死に走ってきたのだろうブロンズの長い髪が乱れきっている。

年齢は16才から17才、元の世界で言うと少し幼さが残る女子高生といった感じだ。


もう一人の女性は彼女の付き人なのか侍女なのか。背筋がピンと伸びていて規律正しい家庭教師というイメージがする二十代半ばくらいに見える。


『私はマキワの領主の娘、クリスティーヌと申します。移動中の馬車を盗賊に襲われ逃げてきました。 護衛10人と付き人もいましたが、今は護衛長と侍女長の二人しか残っていません』


少女が今にも迫ってくる盗賊を気にしながら手短に状況を説明する。

かなり危機的な状況にも関わらず、取り乱さず適切な対応をしているのでリュウは感心をしていた。


『状況はわかりました。残念ながら私達も3人しかいません。なんとかこの場をしのぎつつ応援を呼びましょう』


ソフィアが状況を理解して助太刀をする旨返した。


『リュウさん、とりあえず女性二人を安全な場所まで避難誘導をお願いします。私とユリン、護衛長さんの3人でこの場を食い止めます。

その間に援軍の要請をお願いします。門番に緊急事態を告げると即刻対応してくれるはずです』


『わかりました。それではソフィアさんとユリンさんのお二人に護身用の武器を渡しておきます。魔力や弓矢が消耗したら使ってください』


そう言うとリュウは空間ポーチから2本のスティックを取り出した。


『これは光の魔力が込められた魔道具です。柄の底部を押すと起動して光の柱が出ます。通常は剣の長さですが、柄の親指部分の上にある突起を押すと3倍の長さに伸びます。この長さでけん制をすれば

敵も容易には近づいてこれない筈です』


そう説明すると一本ずつ魔道具を渡した。 この魔道具は宇宙大戦映画で登場するライトサーベルそのものだ。 魔力蓄積して動力源としているため、フォースの力がなくても誰でも使えるようになっている。

しかも、3倍の長さに伸びる機能はリュウのオリジナルである。


魔力の蓄積というのは本来簡単なものではない。ファンタジーでは賢者の石の様なものが媒体として必要なはずなのだ。

しかし、リュウはそれには何の苦労もなかった。修練場で転がっていた石の中にこの賢者の石と呼ばれるものがゴロゴロ転がっていたのだ。

流石は仙人の住む世界だ。


意味もなく二人にライトサーベルを渡した訳ではなかった。日頃剣を振るわない二人に重量のある剣では体力消耗が激しすぎる事と、

剣は刃先に触れてはじめて殺傷性をもつ武器だが、ライトサーベルは超高熱温度の光収束で生成されいるため少しかすっただけでも相手に大ダメージを与える。 剣でツバ競り合いをすると非力な女性

では力押しで体制を崩され致命的だが、ライトサーベルだと剣すら瞬断するので文字通り一刀両断なのである。

まさに超チートな能力武器だった。


続いてリョウは護衛長にも武器を渡す。これは武器にもなる防具だった。 左右の両腕に装着するカイトシールドだ。 これも単なる盾ではない。アルミニュウムを素材として亜鉛・マグネシウム・銅を

一定比率で混ぜ合わせた所謂”超超ジュラルミン”だった。ひし形のカイトシールドの上部先端は鋭利な刃物がついており、ガードをしつつ、攻撃に転じられる強力なガード武器なのだ。

更に表面には硬質メッキを魔法コーティングしたので刃物でどうこうなることはない。


『おお!これはなんという軽さだ!信じられん』


護衛長はリョウから盾の使い方の説明を受けながら左右の盾を軽く振って驚きの声をあげた。

それもその筈である。鉄とアルミの比重では鉄の1/3近い軽さなのだ。 この世界にはアルミニュウムが埋蔵されてはいるのだがそれを精製したり使用する知識がなかっただけなのだ。


『それじゃあ、俺から念のために支援魔法を掛けさせてもらいます。

臨兵闘者皆陣列在前・・・』


リュウは3人にステータスアップの支援魔法を掛けた。その内容は全ステータス二倍の効果だ。 これにより生命力、魔力は最大値の二倍、腕力・体力などの各ステータス値も二倍になった。

効果時間は30分程なのだが、この世界では最上位の魔法士にも無理であろう支援魔法であった。


魔法を掛けられた三人は光輝き、その光が強弱に点滅している。


次から次へと信じられない事が起こっているので三人とも驚きがマヒしてしまったようで静かにされるがままになっていた。


『二人を連れて行きます。決して無理しないでくださいね。すぐに戻ってきますから』


『はい、リュウさんもお気をつけて』


『早く戻ってきてね!』


『お嬢様をよろしく頼む』


残る三人がそれぞれリュウに言葉をかけた。


こうしたやりとりに結構時間が掛かった筈なのだが、敵が襲ってこないのは何故か? それはリュウがあらかじめ敵の集団にスロウ魔法を発動させていたからだ、あと5分もすれば解除されて接触するだろう。


敵全てを長時間止めたり、殲滅させても良かったのだが、それをやると後で説明するのが面倒だったので少しは戦いの痕跡を残してあの三人にも手柄を分散しておく必要があったのだ。


チート武器を渡しておいてよく言うと思うだろうが、リュウとしては自分の生成した武器の使用テストもしたかったのだ。自分以外が使ってどの程度効果があるのか、それは今後の戦略に重要なデータだったのだ。

今後鬼神達と闘うにしても他の人間を巻き込まないとも限らない。能力には限界があるから武器や装備で底上げできるものならしたかったからだ。


『さあ、お二人とも俺について来て下さい。俺の名前はリュウといいます。

ここへはハンター見習いの討伐依頼で来ていました』


それを聞いたクリスティーヌと侍女長の二人は不安になった。あの場で一番戦力外を逃がすというのはセオリーだったのだが、この先的と遭遇した場合、護衛役としては一番の役不足だからだ。


少し進んだところで一旦止まり、リョウは再び二人に声を掛けた。


『必死で逃げたのでかなり疲れたことでしょう。』


そういうとリョウは二人に回復魔法を唱えた。 ただの回復魔法でなく龍王戦でも使った完全治癒だ。 しかもあの頃より術も進化しており体だけでなく身に着けている服や体の汚れ、髪の毛の乱れも何事もなかったかの様に元通りになっている。


『ありがとうございます。一体どうやって・・・』


クリスティーヌは疲れが全くなっくなったことと、服や体が馬車で移動する前の綺麗な状態になっているのに驚き、それが普通の魔法でないことくらい魔法を使うことのできない彼女にもわかった。


『あのう、リュウ様。少しよろしいでしょうか?』


侍女長も驚いてはいたが、それ以上に何か不安があったのだろう。リュウに問い掛けをした。


『なんでしょうか?』


『先程の敵は20人程いましたが、この辺を縄張りとする大きな盗賊組織は50人規模の集団だと聞いたことがあります。 残った3人の方達だけで大丈夫なのでしょうか・・・』


恐らく彼女は残した護衛長の事が心配なのだろう。長年仕えている者同士、少なからず親交があったのだろう。


『そうですね。確かに盗賊は50人くらいいるみたいです。しかも残りの30人はこの先で待ち構えてますよ』


リュウの索敵には既に30人の赤い影を捕捉していた。


『なのでお二人はこの木の陰で隠れていてください。他に盗賊は周辺にいないので大丈夫だとはおもいますが、油断はしないでくださいね』


『それでリュウさんはなにを?』


『もちろんあいつらを片づけてきますよ』


『無茶です!30人をたった一人でなんて、どんな英雄でも不可能です!』


クリスティーヌが本気でリュウを気遣って一人で行くのを止めた。

本来なら自殺行為である。止める方が普通なのだ。


『大丈夫、すぐ終わりますから』


そういうとリュウは二人の前から姿を消した。

視線を動かすとなんとリュウは盗賊の集団の目の前に立っていた。

ほんの一瞬視線を動かした瞬間なのに、リュウは200メートル先に

立っていたのだ。


『お前ら、誰かを待ってるのか?残念ながら待ち人来ずだぞ』


リュウは暇そうに座り込んでいた盗賊達に挑発的な言葉を掛ける。


『なんだ貴様!訳のわからない事言いやがって! 構わねえ、切り殺してしまえ!』


盗賊のリーダーらしき奴がそう言うと滅多殺しにしてやるという意気込みで30人の集団がリュウ目掛けて切り込んできた。


クリスティーヌは目の前の光景が信じられなかった。 むしろこれは夢だと言ってくれた方が納得できたかも知れない。


目にも止まらぬ速さでリョウは盗賊の攻撃を躱し、攻撃したか

どうかわからない動きで盗賊達は一人また一人と地面へと沈んでいく。


『なんて綺麗なんでしょう・・・』


クリスティーヌはリュウの戦いに見惚れていた。

1:30という状況下にありながら少しの危険を感じさせることのないリュウの動きを見て何かの舞踊を見ている様に錯覚させられる。


時間にして3分、いやもう少し短かったかも知れない。リュウの華麗な動きは敵の殲滅という形で終わりを告げた。


クリスティーヌが我に返った時には既にリュウはこちらに向かって歩いており、手には30人分の識票が握られていた。


『お待たせしました。お仲間のところへ戻りましょう』


最初にあった時の見習いハンターと一緒という絶望的な状況だったのを忘れクリスティーヌは英雄と言える人物と共にに行動することに安心感と幸せを感じていた。


殿の三人のところに戻ると盗賊の数は既に半数に減っており、こちらの三人は当然無傷で息切れをしている様でもなかった。


『お待たせしました。この先に盗賊が30人程いたのでこちらに戻ってきました』


それを聞いた三人は絶望的な状況に落胆した。


『それで、その30人の盗賊は?』


こちらに向かって来ているのだろうと思ったソフィアだが、念のためにリュウに確認をした。


『もちろん、殲滅しましたよ。ここもさっさと終わらせましょう。お三方はそこで休んでいてください』


そう言うとリュウは残り10人となった盗賊の集団に向かっていった。


リュウが指をパチンと鳴らすと、10本の細い光の棒が10人それぞれの額を貫いた。 盗賊とは会話をすることもなく正に一瞬の出来事だった。


『50人前、一丁あがり!』


20人の識票を回収してリュウが戻ってきた。


今まで三人で苦労してようやく倒すことできた10人を本当に一瞬で片付けることが出来るリュウに三人は恐ろしいものを感じた。


『護衛長さん、あとで人を来させますので盗賊の持ち物とかの回収をお願いできますか? 他の盗賊に奪われて使われるのも不味いので。

回収した物については回収に当たった人とここの碧のの大海の人達で配分してもらって結構です。 俺はお嬢さんをローグの街まで送っていきますので。

それから、盾は差し上げます。今回の報酬と俺の能力についての口止め料ということで』


『承知した。 それと、お嬢さんを無事守ってくれてありがとう』


『まあ困った時はお互い様だから。気にしなくていいですよ』


護衛長を残してリュウ達はとりあえずローグの街に帰ったのだった。


ローグの街は大騒ぎだった。ことの顛末を知らされて、残党がいないか騎士団の討伐隊が出動し、盗賊の亡骸で待っている護衛長のところにも依頼を受けたハンターが駆け付けた。


クリステーヌと侍女長も迎えの馬車が門前にやってきて屋敷へと向かって走っていった。


やれやれといったところでリュウとソフィアとユリンの三人はとりあえず、ギルドに報告に向かうことにした。


『リュウさん、お借りしていた魔道具、本当に助かりました。これがなかったら私達は早々と全滅していたと思います』


『うんうん、これってすごいよね!アーチャ辞めてこれ専門にしたいくらいだよ』


ソフィアとユリンはライトサーベルのお蔭で命拾いしたらしい。


『今回のお礼にそのサーベルはお二人に差し上げますよ』


『こ・こんな高価な物をいただいてよろしいのですか!? 恐らくこれくらいの物だと国宝級の価値があるはずです。売れば一生遊んで暮らせますよ』


まさか自分が貰えると思っていなかったソフィアが冷静になってとんでもない代物だということに怖気づいてしまう。


『あは、命あっての物ダネですよ。あの世にお金は持っていけませんから。危なくなった時には遠慮なく使って下さい。 十分に魔力が充填してありますが、なくなったら俺のところに持ってきてくれれば充填しなおしますので』


『やったー!見習い同行依頼請けてよかった!って、リュウは見習いなんて可愛いもんじゃなかったじゃん!ありゃ、Sランクって言われても信じてしまうよ』


喜ぶユリンの言葉にリュウは疑問に思う。


『ハンターのランクって上級のAまでなのでは?』


『確かに一般ではAの上級が最高位ですが、英雄クラスの伝説のハンターがSクラスになることがあります。とはいえ、なかなかなれるものではありません』


ソフィアが言うようにSクラスや英雄の存在は伝説となっている。過去に龍や魔物を討伐し、国を危機から救った存在だ。


そんな話をしながら三人はギルドへと戻ってきたのだった。

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