第7話 最終試練
クロの教え方が良いのか、リュウとクロの相性が良いのか仙術の習得は順調に進んだ。 それなりに時間を費やしたのだが、リュウが独自に術の応用を編み出したりする寄り道で掛かった時間の方が多かったのだ。
しかし術が多彩であることは術者の才能を物語るものでもある。リュウは貪欲なまでに仙術を極め尽くした。
結局仙術の修練を終えるのは5年の月日が経過した後であった。
『さてリュウよ。もう妾達が其方に教えることはもう何も無いと言えよう。こちらの想像以上の出来栄えじゃ。自信をもって良いぞ』
『そうかあ、結局長年掛かった訳だけど、仙人の修行はこれとは比べものにならないくらい長いんだよな』
『左様じゃな。仙人は神として求められるものが必要じゃからの。まあ、それはよい。 まだ全ての試練が終わった訳じゃないぞ。気を抜くでないぞ』
『え?まだ何かあったのか?』
『この先が其方の実力を試す最終試練じゃ。その力の全てを出し切り仙人長に認められれば合格じゃ』
『そういえば仙人長ってまだ会ったことないよな?』
『最終試練を行えば嫌でも顔を合わせることになるわ。どうじゃ、用意はいいか? ここでは狭いから別の場所に移動するぞ』
人の姿に戻った鈴鳴がそう言い終わると二人は別の場所に転移した。
転移された場所は荒野と呼ぶのが近い何もない広い場所だった。
その何もない場所の100メートル先に体長50メートルはある緑の龍が地から離れ空中に浮かんでいた。
『これって七つの星の球を集めたら出てくる龍じゃないよな?』
龍を間近に見た冗談の様な本気のリュウの感想だった。
『力ある者よ。長い間待ちわびたぞ。我が名は龍王。我と拳を交えその力を我に示せ。 それが最後の試練だ』
『どうやら本気でやらないといけないみたいだな。この場所は全力で戦っても平気なのか?』
クロに聞いたつもりのリュウだったが、その答えは龍王から返ってきた。
『うむ、ここは強力な結界を張っておる。心配いらぬ』
『じゃあ、龍王様に胸を貸していただきます!!』
言うと同時に瞬間移動をしたリュウは龍王の腹に波動の拳を叩き込んだ。と、リュウは思っていたが、実際には龍王に届かず、拳は龍王の覇気で押し返された。 磁石が反発するかの如く。
後ろに押されるリュウめがけて龍王から吐かれたブレスをリュウが躱す。すると先程までリュウがいた場所の地面や岩が熱で溶かされて飴の様になっていた。
『あぶねえなあ、当たると一巻の終わりだな』
リュウは万物創生で龍殺しの剣ドラゴンスレイヤーを作り出す。
素材はこの地あるアダマンタイトに少量のチタン、マグネシウムを加えた合金を即席で作った。
出来上がった剣を構えて、リュウは十文字斬を繰り出す。斬撃には纏っていた気が放出され威力として上乗せされる。
拳では当てることもできなかったが、ドラゴンスレイヤーの斬撃は龍王の鱗に傷を与えていた。
『ちっ、今ので傷だけなのか。どんだけ硬いんだ?』
龍王は逆に傷がついたことに驚いていた。 彼の予想ではこの勝負ダメージは一切入らないと思っていたからだ。
『思ったよりやるな。驚いたぞ。 ならば儂も本気でやらねばの』
龍王から出される威圧感が5割増しになって放出される。
通常の人間なら立つどころか、意識を保つことも出来ないレベルだ。
龍王の巨大な身体が残像として消え、尻尾の強力な打撃がリュウを襲った。
あまりのスピードの速さにリュウは反応できず、攻撃をモロに受けた。
リュウはそのまま300メートルほど吹き飛ばされた。実は吹き飛ばされたのは態とであった。 あまりの攻撃の強さに抵抗しようものなら胴体が真っ二つにされていた。 危険を察知したリュウは攻撃の衝撃を分散させながらあえて吹き飛んだのだ。もちろん、リュウは無傷だった。無傷とはいえ、痛みはある。
『いたたたた。。すごい威力だなあ。体がボロボロになるところだったぞ』
体中の骨と筋肉が悲鳴をあげそうでリュウは気を失わないように必死で耐えていた。
『それじゃあ、こっちも本気でやらせてもらわないとな』
リュウは覇気を5割増しに放出した。それと同時に回復系魔法の”完全治癒オールヒール”を唱える。 これは回復魔法と仙術の万物創生を複合させ、細胞をダメージを受ける前に再生させる究極の回復魔法だ。この術は部位の欠損なども瞬時に治すことができる。 一瞬でリュウの体は最初の状態に復活する。
リュウは一点を集中してターゲット照準を合わせていた。その一点とは先程の傷を付けた鱗だった。 鱗の傷は長さ10センチ程度で一番傷の深い位置、深さとしては数ミリ程度の大した傷ではないが、そこをロックオンさせる。
集中力を最大にさせると同時に空間から光のビームを放つ。
その数、50本。 あらゆる角度からのレーザービームは一点に収束され、龍王の硬い鱗をも貫いて肉体を貫通して反対側に突き抜ける。
”グオオオオオオオオオ”
龍の巨大な鳴き声が響き渡る。
『そこまでじゃ!』
鈴鳴が戦いの終わりを告げる。意外とあっけない幕引きだった。
『何故止める!儂はまだ負けておらんぞ』
龍王が戦いの中止を不満として声を上げる。
『何を言うか。双方がこれ以上本気になればどちらも少なくないダメージを与えるのは明白じゃ。龍王よ、この戦い見極めが目的じゃろうに』
『・・・・・・』
鈴鳴の指摘にクールダウンして冷静になった龍王は言葉が返せなかった。
白熱のあまりについ本気になってしまった様だ。
『うむ、そうだったな。 リュウよ、この試練合格だ。儂に怪我を負わせる者は800年ぶりだぞ』
龍王はリュウに試練の合格を告げると煙とともに体が消え、その消えた後に一人の男が立っていた。
『おお!!やったー!全く勝てる気はしなかったが助かった!って・・・あなたも変化していたのか???』
『うむ、儂が仙人長の龍王だ。リュウよ、お主の力、この目で確かに見せてもらった。 まだ粗削りではあるが、確かに真の勇者としての実力は持っておる。 精進して鬼神を倒すのじゃ』
『ありがとうございます。 あ、ちょっと待ってください』
リュウは目の前の龍王の脇から流れる血を見て回復魔法を唱える。
『おお、すまんの。 じゃが、もう傷口は塞がって元通りになっておったのだ。いらぬ気を遣わせてしまったな』
『そうだったのですか。まあ、服もきれいになったことですし』
『ははは、そうじゃな。服が破れたままだったな。また一本取られたわ』
龍王は先程の戦いでリュウの力が見れた事、そのリュウの力は想像を越えるものだったことに満足だった。
『見事試練を乗り越えたお主には褒美をやらんといけぬな。仙人の修行には千年を要するに無理があるが、その片鱗の力を授ける』
そう言うと龍王の前に一つの光る玉が現れる。 その光は神々しく見るだけで神の力が宿っているとわかる代物だ。
その光る玉がリュウの前へ向かっていき、リュウの胸の中へと納まっていった。 全てが収まるとリュウの体が一瞬眩いくらいに光を放った。
『その玉を宿す者は我ら神の弟子である証。その力は今後困難に遭った時に力となるだろう』
リュウは自分の変化が信じられなかった。神になるというのはこういう事なのか? 五感の全てが洗練され、何倍もの感覚に増幅された様な感じで世界の果ての音が聞こえたり、視えたりできるその力に驚いた。
驚異の力に驚くのだが、もう自分は人に戻れなくなってしまったんじゃないかと不安にもなった。
『さあ、リュウよ行くがよい。更なる力を得て鬼神を討つのだ』
仙人長の龍王の言葉でリュウは白翁仙人と別れた元の場所に戻ってきた。
修練場では30年以上の月日が経っていたが、恐らくこの世界では一瞬の出来事だったに違いない。
隣には人の姿の鈴鳴が立っていた。
『リュウよ、其方はまずここから一番近い国”マキワ”を目指すと良いじゃろう。
この世界では出生と同時にその者の存在を証明する識票というものが与えられる。識票には名前や職業、賞罰などが表記される。 先ずは其方の識票を渡しておく。肌身離さず持っておくのじゃ。識票がないと犯罪者扱いされることもあるから気を付けるのじゃぞ。』
識票にはこう書かれていた。
氏名:リュウ
年齢:25
職業:旅人
賞罰:なし
やはり元いた世界の時より若返った感じだったが、年齢が32才でなく25歳と7歳も若かった。 職業の旅人ってなにするんだ? 山の麓でテントを張ってギターを弾くのか? と、くだらない事を考えるリュウだった。
『わかった。もらっておく。まずはマキワだな。この世界にもギルドはあるのか?あるならまずはそこで仕事をこなして生活資金を稼がないとな』
『うむ、どの街にもギルドはあるぞ。ギルドは職の斡旋だけでなく、治安維持や商いの取引などを総括している組織じゃ。 生活資金じゃが、これを渡しておこう。其方ならすぐにでも大金を得られるじゃろうが、持っていて邪魔にはなるまい』
そういって手渡された小袋には金貨が10枚程入っていた。
早速もらった小袋を自分の空間ポーチにしまいこんだ。
『ありがとう。助かる。クロ・・・じゃなかった鈴鳴仙人。ここでお別れだな。いろいろ面倒を見てくれてありがとう。』
『何を言っておる。妾も一緒に行くのじゃぞ。とは言え、この後に七仙人会があって其方の事を報告をせねばならぬから後日合流という形になるがの。 それと、この世界では仙人と呼ばんでくれ。何かと厄介じゃからの。鈴鳴と呼ぶがいい』
『わかった。それじゃ後で合流な、鈴鳴』
鈴鳴を見送って一人マキワを目指すリュウだった。
今のリュウの能力なら、街の場所の察知や瞬歩で一瞬の移動が可能なのだが、久しぶりに戻ってきた世界なのでゆっくりと歩きながら旅を満喫することにした。
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