第6話 真の目的

三の試練を終えてクロと一緒に次の試練へと進んだ。


『リュウよ、よくぞここまで来たのう。試練という振るい落としは三までじゃ。ここから先の四と五は認められたものにのみ伝授する仙術じゃ』


『ってことは俺は合格ってことか?それに仙術って一体なんだ??俺は仙人になるのか?』


『まあ、そう慌てるでない。仙人になるには過酷な修行を何千年も重ねて始めてなれるもんじゃ。これからの修行に入る前に其方には真の目的を話ておかねばならんだろう。白翁から何も聞いておるまい?』


『白翁仙人は修行してこいとだけしか言ってなかったぞ?』


『よくそんな言葉だけで来る気になったのう。其方は馬鹿なのか?』


『・・・・・・』 言葉を返せないリュウだった。


『ちょっと待っとれ。あやつも呼ばんとの』


それから数分後、目の前に知った顔の老人が突然現れた。


『お久しぶりです。白翁仙人様。お元気でしたでしょうか』


『ほっほっほ。お主からは儂と別れて長い年月が経っておったのじゃったな。儂にとってはさっき別れたばかりじゃわい』


『おい、リュウよ。妾と白翁との口の聞き方が随分と違うでないか』


『だって、クロは猫じゃん』


『ほっほっほ。なんじゃ、リュウにはちゃんと話とらんかのか』


白翁仙人が話終わると同時にクロが煙に巻かれ、煙の中から小柄ではあるが華麗な長髪の女性が現れた。


『えええ!?クロが人間に変身した!!』


『勘違いするでない。妾が猫に化けておったんじゃ』


予想外の展開に久々に腰を抜かしそうになるリュウだった。もちろん腰は抜かしてないが。


『妾も白翁と同じく仙人の一人、名は鈴鳴(りんめい)じゃ。こう見えても白翁よりも偉い副仙人長じゃぞ』


『う~ん、どうしても最初からの猫のイメージがあってピンとこないなあ・・・』


『まあ、今はそれは置いておく。白翁を呼んだのは何故其方をここに呼んで修行をさせたかじゃ。 ちと話は長くなるが良いな。


この世界には七賢者と呼ばれる七人の仙人が頂点に立っておる。人が神と呼ぶのも妾達のことじゃ。 この修練場は未来の仙人を育てるために素質のある者を選び出し、修行を行わせる場所なのじゃ。

寿命が無いに等しい仙人じゃが、何れは昇華して最終的には体を持たぬ魂だけの神という存在になる。その欠員を補うために常に仙人候補を選んでおかなければならないのじゃ。

其方は別に仙人候補という訳ではないのじゃ。


実は、500年程前に一人の仙人が邪に落ちて鬼神となってしまったのじゃ。はじめの頃は特に影響はなかったが、ここしばらくで力をつけてきて邪気を漂わせ悪鬼を多数従える様になってきたのじゃ。 このままでいくと人間が邪気に取り込まれて全て悪鬼になってしまう恐れがある。それで鬼神に立ち向かう者として其方に白羽の矢があたったという訳じゃ』


『仙人ってすごく強いんだろ?7人もいるなら鬼神を倒せるんじゃないか?』


『それが出来ればよいのじゃがな。 仙人は互いに干渉することが出来ぬ様になっておるのじゃ。鬼神とはいえ、元が仙人であるから我ら仙人が奴を退治することが適わぬ。全くもって歯がゆいことじゃ。』


『まあ、理由はなんとなくわかったけど、何で俺なの?』


『正しくは其方は鬼神を成敗する者達の一人じゃな。今後鬼神達がどういった攻勢に出てくるかわからんからの。 様々な立場の者が警戒にあたる必要があるのじゃ。』


『まあ、ここでの経験は俺にとってはすごく楽しく充実したものだったから、俺としては感謝してるんだ。この世界の役に立つなら引き受けてもいいと思ってる』


『そう言ってもらえると助かる』


その後、リュウは鈴鳴と白翁から鬼神についての詳細や今後どの様なことが起こり得るかを詳しく聞かされた。

話を聞きながらリュウは自分がこの世界に来たのは偶然ではなく必要として連れて来られたのではないかと考えていた。 白翁仙人はさぞ偶然を装っていたが、今考えると不自然な事だらけだった。

とは言え、今更どうすることもできないのでとりあえずは話に身を任せて流されてみることにした。


『では、そろそろ仙術の訓練に入るとするかの』


『ところでクロ・・じゃなかった鈴鳴仙人、もう猫の姿にはもどらないのか?』


『ん?妾のこの姿では何か不都合があるのか?』


『不都合って訳ではないんだけど・・・』


リュウは鈴鳴の姿を見て落ち着きなく返した。 鈴鳴は小柄だが所謂美人というか超のつく程の容姿端麗で体の割には胸も大きく、年齢は不詳だが若く見えるためリュウとしてはかなりストライクゾーンだったりした。

だから余計に緊張してしまって集中できないのであった。


『其方も可愛いとこがあるんじゃのう。この体とて仮初のもので理想と呼ぶに近い形じゃ。まあ、修行に専念できんのも困るじゃろうから猫の姿に戻るとするかの』


そう言って煙とともに元のクロの状態に戻った。

リュウはクロに戻ってホッとすると共に少し名残惜しい気持ちも無きにしも在らずだったみたいだ。


『さて、仙術なのじゃが、その力は偉大で通常では決して人の得ることの出来ぬ妖術じゃ。 妾はそなたに仙術の基本的なところのみを教えるだけじゃが、それを素にどういう形にするかは其方の努力次第じゃな。


仙術は大きく分けて三つじゃ。

1つ目は空間を操る”空間操作”

2つ目は時間を操る”時間操作”

3つ目は形あるものを作りあげる”万物創生”じゃ


空間操作はこの世界から別の世界を繋ぐ力じゃ。別世界とこの世界は自由に往来できる。今までに行ったことのある場所に限ってじゃが、別世界を介してこの世界の別の場所に繋げば瞬間移動という離れ業も可能じゃ。

あとは、別世界に部屋や倉庫を作り利用することも出来る』


『おお!さらっと言ってるが、それってスゴイ能力だな。別世界に行けるのは俺一人なのか?』


『いや、其方が共に行く者を念じればその者も同行は可能じゃ』


『やっぱりファンタジーはこうでないとな』


『なにを判らぬことを言っておる。で、次じゃ。時間操作じゃが、時間を止めたり流れを遅くすることが出来る。時間移動や過去に遡ることが出来ぬのじゃが、世界の時間を止めて自分だけがその停止世界で行動することが可能じゃ。但し、停止世界では時間操作の術が使える別の者は止めることが出来ず、相手の術でも行動は可能じゃ』


『なるほど。危機一髪って時に使えそうだな。 あ、そうだ。いいこと思いついた。魔法みたいに仙術を複合させる事って出来ないのかな? 例えば、空間操作で作った世界の時間を止めるとか。倉庫で使えば食べ物とか腐らないだろ?』


『なかなか面白いことを考えるのう。其方の努力次第だが出来ると思うぞ』


『いやいや、アイテムボックスの時間止めはファンタジーでの定番だからな』


『まあ意味不明なことを・・・』


『じゃあ、逆に作った空間の時間を進めれば、熟成や発酵もあっという間だな。なんか面白くなってきたな』


リュウは時間のかかる料理素材もこの能力があれば一瞬で出来ることを考えた。


『最後に万物創生じゃが、これは文字通り、あらゆる物を作る力じゃ。残念ながら生命を生み出すことはできんがな。 自分の知識にあるものを創ることが出来る能力じゃ。但し、無のものは創れん。素材がないものは創れんからな。 例えば、近くに木があったとすれば、その木を消費して机や椅子を形にできる』


『それは便利な能力だな。じゃあ、近くに鉄の鉱脈があれば武器とかも作れるな? 鉱石や宝石の採集も簡単だよな?』


『うむ、索敵範囲にあれば集めることができるぞ』


『それって何気にすごい力だよな。 索敵範囲ってどの位が可能なんだ?』


『その者の魔力というか胆力に比例する。其方であれば目視できる範囲くらいは容易いじゃろう』


『ってことは10キロ四方ってとこかな?あと、生命は創れないってことだけど、死んでる人を生き返らせることは?例えば、死因となった部位を作り直して蘇生させるとか』


『其方に人体の構造や医療の知識があれば或いは可能かも知れんが、蘇生術は仙人であれば使用可能じゃが、その方法であれば其方でもそれに匹敵する事ができるかも知れんの』


リュウは軍にいた時に暗殺術と併せて解剖学や医学を習得しより効率的な暗殺方法に役立てていた知識が使えると思っていた。成績優秀なリュウは下手な医学生よりもよほど優れた知識を持っていたのだ。


一通りの説明を受けてリュウは仙術の修行を開始した。

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