第5話 三の試練

ようやく第三の試練へと来た。

7年で2つということは、やはり早くとも20年以上は掛かるものなんだろう。 白翁仙人は下界では刹那の時間と言っていたけど、一体どの程度の時間が経っているのだろうか?


リョウはふと浦島太郎の話を思い出していた。竜宮城から戻ってきたらかなりの時間が過ぎていたというのが現実だったら笑えない話だ。でも、今回は浦島太郎の話と逆だから問題ないか。 否、周りが時間が進んでいないのに自分だけ歳をとってしまったらやはり問題だろう。白翁仙人の話では問題ないという事なので今は信じるとしよう。どちらにしても途中で諦めて戻るという方法は聞いていないのであった。


<修練 魂>

”強き魂を持つ者よ 満ち溢れた魂を解き放ち

  新たな道へと その力を示せ”


『三の試練は魂なのか。何をやればいいのやら・・・

ここでは質問も出来ないので長い時間を掛けて自分で考えて答えを出さないといけないんだよな。まあ、それが試練なんだろうけど』


ここにあるのは広場の真ん中に台座があり、その上に丸い水晶玉のようなものが鎮座しているだけだった。


『これは占いでよく見る水晶玉の様なものか? そういえば魔法使いと水晶玉って関係が深かったのをアニメで見たことあったな』


リュウはここでの体験やヒントをゲームやアニメの記憶から得ることが多い。 それだけこの世界がファンタジー要素満載ということなのだろう。


リュウは波動で気を放出して水晶玉に当ててみたが何の反応もなかった。 波動ではなく別の何かを当てる必要があるみたいだ。


『そういえば、アニメで魔法はどの様に使ってたかな? 確か呪文の様なものを唱えたりしてたよな。 あと杖みたいなのも発動の鍵になってたりしたような・・・』


ここには参考になる呪文も魔法の杖もない。お手上げだった。


『おーい、クロ~、魔法ってどうやるんだ~?教えてくれ~!』


リュウは冗談と藁にもすがる思いでクロに話しかけた。木陰で昼寝をしていたクロは伸びをしながらすくっと起き上がり、スタスタとリュウの足元までやってきた。


”にゃ~!”(何か言ってるように感じる)


”ブオオオオーーー!!”


驚くことに、クロの口から火炎放射器の様に火が放射状に放たれたのであった。


『うおお!なんだお前!魔法が使えるのか!!っていうか、俺の言葉がわかるのか???』


『そう驚くでない。あまり試練者に関わってはいかんので黙っておったんじゃ』


クロが魔法を使うことにも驚いたが、まさか人間の言葉を喋るとは、それ以上に驚いてリュウは腰を抜かしそうになってしまった。もちろん、腰を抜かしたりはしないのだが。


『其方が魔法を教えて欲しいというから手本を見せたまでじゃ』


『おお、そうか。ありがとう。』


『それにしてもリュウよ、其方の今までの試練は見事だったぞ。妾の助言なしでよくも試練達成を短い期間で成し遂げたものよ』


『短いって、7年もかけて2つしか試練達成してないけど・・・』


『なにを言うとるか。試練なんぞ一つ10年単位じゃぞ。それどころか、達成できずに断念する者が殆どじゃ』


『うーん、そう言われてもピンとこないんだよな・・・』


『何れにせよじゃ、其方は魔法を使える様にならんとこの先は進めんぞ?』


『ああ、そうだった。魔法というのは気の放出とは違うんだよな?』


『うむ。根本的に発動の素となるものが違うぞ。気は覇気という精神力の源じゃ。魔法は魔力を使うものじゃからの』


『その魔力を使うっていうのが全然イメージできないんだよ。なんか発動のための呪文とかが必要なのか?』


『その辺は修練の度合いと魔法の種類にもよるかの。 先程妾が使った魔法は火息ファイヤーブレスというもので、龍などは息をするのと同程度で吐きおるわい。人間が魔法を使う場合は魔力が少ないこともあって杖で瞬間的に増幅させたり、呪文を唱えて魔法を構築せぬと発動せんことが多いみたいじゃの』


『やっぱり人間には簡単に使えるもんじゃなかったんだな』


『うむ、じゃが其方の魔力は人間のものと呼ぶには当てはまらぬものをもっとるぞ? 其方は何も感じんのか?』


『うーん、俺の住んでた世界には魔法という概念はなかったんだよ。だからそれを使うとかどんな魔法があるだのは全然わからないんだ』


『左様であったか。ではまず魔力を感じるところから始めねばならんようじゃの。 大切なのはイメージをすることじゃ。 魔法をどういう形で発動させるかを頭の中にイメージをするのじゃ』


『そのイメージする魔法ってどういうのがいいんだ?』


『そうじゃのう、先ずは左右の掌を合掌より少し間を開けて、その間に火の玉を出現させるイメージがよかろう』


『ふむふむ、こういう感じかな?』


リュウはその場に胡坐をかいて座り込み、ヨガの合掌ポーズに近いかたちで火の玉を出現させるイメージを頭の中に思い描いた。


『まあ、しばらくはその練習の繰り返しじゃの。じきに変化が現れてくるじゃろう』


リュウはクロから教わった練習方法を続けたが、変化が現れたのが三日後だった。

左右の掌の表面が少し熱く感じるようになってきたのだ。


『おお!何か熱くなってきた!』


『そうか。ならばもっと強く念じてみるがよい』


リュウは更に強く念じてみると、その念じる強さに応じて手の先が光り発光が強弱に変化するようになった。


『あとは火の玉を形成するだけじゃな』


光を放つまではよかったのだが、火の玉がなかなか出ずにいた。

ようやく形になってきたのは1カ月後のことだった。


『人間の魔法士はどれくらいで魔法が使えるようになるんだ?』


『そうじゃのう、素質にもよるが、魔法が使える素質があれば其方のやっている練習は一週間ってところかのう』


『ってことは、俺はそいつらよりも劣ってるってことか・・・』


自分が劣っていると知って少しリュウはショックだった。


『勘違いするでないぞ。其方は膨大な魔力を保有しておるのじゃ、それがいきなり魔法を発動させるとどうなると思う? そうなったら魔力の暴走が起こって危険な状態になるのじゃ。 其方の体は本能的にそれが解っておるから少しずつ慣れる様に仕向けておるのじゃ』


『ふむふむ』


判ったのか判らないのか判断のつかないリュウの反応だった。


『それじゃあ、必要な手順を経れば大きな魔法が使えるようになるってことだよな?』


『うむ、そういうことじゃな』


リュウは少しやる気が戻った。結構単純な性格である。


そして火の玉が成形できてからのリュウの魔法習得スピードは早かった。

火玉(ファイヤーボール)

火壁(ファイヤーウォール)

火柱(ファイヤーフィールド)


火系魔法の習得に半年。水系・土系・風系にそれぞれ3か月と

1年半の年月で四属性の魔法を習得できた。

火以外の魔法も基本 玉・壁・柱 のような三種の構成となる。

水は火と同じ。土は


土玉(アースボール)

土壁(アースウォール)

土雷(ライトニング)


ライトニングは広域雷魔法となる。

風系は


風斬(ウインドスラッシャー)

風壁(ウインドウォール)

竜巻(トルネード)


となる。 これらは全てリュウが自分でイメージして構成した魔法である。これ以外にも想像して編み出せば使えるようになる。


『そういえば、クロの使った火息(ファイアーブレス)は習得できてないよな?』


『あの魔法は種族による特殊系統じゃ。人間にはちと難しいかもしれんのう』


リュウは火遁業火なんとかの術と叫びながら口から火を出す背中に団扇マークのある少年のアニメを思い出していた。


『まあ、火系三種でも使い方で同じ効果が得られるから別に構わないんだけどね。 でもまてよ。火を放出するときに同時に風を起こせば火力が更に増すんじゃないか?』


『ほう?どうやら気付いたようじゃの。別属性を組み合わせる複合魔法というやつじゃ』


『火を放出しながら風の渦を出せば凄そうだな。名付けて火嵐ファイヤーストームだな』


『まあ、そう簡単に出来るものではないがな。やってみるがよい』


リュウはファイヤーストームの発動練習を始めた。

やはり二つの魔法の同時発動は難しいらしく、習得するのに三カ月の月日を要した。


日々魔法を連続で唱える練習をするが、リュウは魔力の枯渇というものを経験したことがなかった。アニメとかでは大魔法一回でガス欠になったりとかあったのでそういうものかと思っていたのだ。


『なあ、クロ。魔力って使うと減ると思うけど、どのくらいまで使えるもんなんだ?魔力の回復も自然回復だよな?』


『確かに、普通の人間の魔法士なら小さい魔法でも数発を放てばなくなるじゃろう。 だが、其方は魔力が異常なまでに多い。魔力の多さと多大な魔力の回復力があるから恐らく余程のことがない限り魔力が枯渇することはないじゃろうな』


『そうなのか?やっぱり魔物の血肉を喰ったりしたからかな?』


『それも多少はあるじゃろうが、それよりもこの地で其方が食べておる果実があろう。あれは養仙桃といってな、食べるだけで体力と魔力が蓄積されていく貴重な食べ物じゃ。仙人の主食といっても良いの』


『なるほど。あれを食べると力が漲るんだよな。魔力にも影響があったんだな。 でも、それじゃあこの場所に居続けてあの果実を食べているだけでもかなりの成長になるんだよな?』


『うむ、そうじゃな。だがいくら立派な身体や膨大な魔力があってもそれを使いこなせる器がなければ意味がないじゃろう』


『もっともな話だな。 ところでこの試練の達成って、水晶玉に魔法を当てるだったよな? 今まで覚えた魔法でいけるのかな?』


『試してみるがよい』


リュウは水晶玉へと向かい、一番強力なファイヤーストームを発動させ、水晶玉めがけて飛ばす。 水晶玉が発光して透明の水晶が下から色が変わり始める。 水晶玉の半分くらいまで色が変わり、そこで変化が止まる。


『どうやらまだ半分くらいじゃな。恐らくその魔法の三倍くらいの威力のある魔法じゃないと無理じゃろうな』


『そうか、残念だな。でも、まだまだ覚える可能性があるのなら覚えた方がいいよな』


意外とリュウは前向きだった。


『時間はいくらでもあるからの。役に立つ魔法も覚えておいた方がなにかと便利じゃぞ。例えば、回復魔法とかのう。 其方はあまり回復の必要がないかも知れんが、今後仲間になるであろう者達が怪我をせぬとも限らんからの』


『なるほど、確かに。それじゃ、そっちの系統もやってみる』


リュウはゲームで登場した回復魔法や状態異常回復、予防魔法、支援魔法などを思い出し、イメージで実現化させることにした。


四属性の魔法は無詠唱で発動できたが、それ以外の魔法は無詠唱では実現できなかった。 しかし、リュウは魔法という今までに存在しなかった夢のスキルが使いこなせるのがうれしかった。


自分の想像や工夫次第で実現できてしまうのだ。 クロは魔法について助言はしてくれないので全て自分で考える必要があり、試行錯誤で時間と労力を費やすのだが、その分かえって遣り甲斐となっていた。


魔法について教えてくれないクロだが、要所要所で解決の糸口となるヒントはくれている。


『リュウよ、詠唱とは即ち魔法を発動するための鍵よ。何故詠唱が必要なのか。理を作り、発動の道しるべを作る為よ』


『よくわからないけど、詠唱を唱えて念を込めながら発動させる魔法をイメージするって感じかな?』


『まあそんな感じじゃな。短い言葉ではなかなか纏まり切らないが故、ある程度の長さはあった方が良いのじゃ』


『そういえば、アニメとかの呪文って結構長いものが多いな』


『其方が知っておる呪文を使うてみるのがいいじゃろう』


リュウは何がいいか考えた。


『陰陽師は急々如律令・・・だったなあ、ちょっとイメージが違うなあ。

テクマクマヤコン? オカマチックだよな、絶対。。

八百万の神・・・は神道系だな。これも陰陽に近いなあ。

そういえば、忍者の呪文にカッコいいのがあったな。確か・・・

”臨兵闘者皆陣列在前”印を切りながらの動作に憧れたもんだ。よし!これにしよう!』


リュウが思い出したのは九字護身法と呼ばれる密教の呪印であった。

一つ一つの文字が神を表しており、非常に強力な呪法の印であり、この世界にその神々が存在するのかは不明であるが、リュウがこの先編み出すであろう魔法はこの呪印の効果もありとてつもない威力をもたらすものとなるのであった。


『なんと、初めて聞く言葉じゃが、その言葉には強力な力の存在を感じるぞ?其方はやはり面白い奴じゃのう』


クロはリュウの何気なく思いついたその言葉に驚くばかりであった。


呪印が決まった後のリュウは様々な魔法を編み出す事に成功した。


回復系は回復治癒魔法のヒール、状態異常回復のキュア。

これらを覚えるために自らの体を傷つけ、状態変化にさせた状態で発動の試行錯誤を繰り返す必要があり、非常に困難を極めた。


重力系のグラビティ

小さな隕石落としのコメット、更に強力なメテオ

そして重力系と隕石系を複合させた究極魔法”宇宙創成ビックバン”


この魔法は凄まじかった。小型のブラックホールを発生させ、重力を圧縮させて爆発させる技だったが、その威力は半端でなく大きかった。


最初はゴルフボール大の大きさで始めたのだが、爆風で自分も吹き飛びしばらく意識が飛んでしまったくらいの威力で、改良版として立方体の透明な防護壁を作りその中で爆発させるものに変化させた。

防護壁は範囲を限定させるためのもので、その大きさに制限はなく、例えば一つの星単位で囲って発動させることも出来たが、その場合、自分の居場所は星になくなるので常識の範囲で留めなくてはならなかった。


この究極魔法が完成した時、三の試練から既に10年の月日が流れていた。


『なあクロ、もうここに来て17年だったか?それ程年月が過ぎているんだが俺自身全然老けてる気がしないんだが?』


『それはそうじゃろう。ここは神の力で出来た特別な空間じゃ。ここで老いたり死んだりすることはないのじゃ。仮にここで老化すると戻った世界での時間は僅かなものに過ぎんことを考えると矛盾があるじゃろう』


『そうだよな。俺もそれが気になってたんだよ。それを聞いて安心した』


そして三の試練が終わる時がきた。


『リュウよ。もう既に其方の力は水晶玉の上限を遙かに超えるものとなっておる。従って、其方の魔法を水晶玉に発動させると壊れてこの空間が消滅する恐れがあるからのう。危険じゃなから三の試練は合格とするぞ』


『って、勝手に合格って決めて、クロにそんな権限あるのか?』


『なにを言っておる、失礼な。こう見えても妾はここの現場責任者じゃぞ』


リュウは言葉が出なかった。まあ、合格としてくれるならそれでいいか?

ということであっけな三の試練を終わらせた。

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