第4話 二の試練

次の試練の場にやってきた。

一の試練に三年も掛かってしまったのであと四つ試練をクリアしないといけないと考えると、白翁仙人の言う数百年掛けてとういうのはどうか判らないが、かなりの時間が必要なのは確かなようだ。それにこういった試練は段階が上がるにつれて難易度も上がるのが相場だ。


先程は試練達成で次に進めることに喜んですぐさま門をくぐってしまったのだが、前の試練場に忘れ物をしていたことに気が付いた。


『しまった!クロに何も言わずに来てしまった!』


恐らくどこかで見守っていたであろうクロに別れを告げずにこちらに来てしまったのだ。 言葉が交わせる訳ではないが、もう会うこともないだろう友との別れに寂しさを覚えるリョウであった。


気を取り直して、次の試練の看板の前に立ち課題を覗く。


<修練 捷>

”捷き者よ 疾風の如く進むべし

  時に勝る時 汝は進むべき道を得るであろう”


次の試練は”捷”速さを求められるみたいだ。

戦闘においての敏捷性は何よりも大事だ。どんなに力が強くても緩慢では当てることが出来ないし増してや躱すことも出来ない。


前方に見えるのは所謂障害物競争のような障害物や仕掛けを躱しながら進む類のものだった。

当然、簡単には行かせてくれないのだろう。試練と呼ばれるものなのだから普通の人間にはクリア出来ない様になっているはずだ。


先ずは小手試しにどんな仕掛けがあるのか、攻略法を含めて探ってみることにした。


この試練は一番手前の策の横に設置されたレバーを上げて仕掛けを作動させるらしい。レバーが上がると歯車が回転し各仕掛けが連動した動きをさせるみたいだ。

リュウはこの機械仕掛けが巧妙に出来ているので感心して見ていたが、今回は構造を調べに来たのではなく試練に来た事を思い出し、攻略を始めた。


最初の仕掛けは巨大な丸太の振り子を避けながら前に進むもの。 その次は手前から順に崩れる床を崩れる前に渡り切る。その間にも左右の壁のあらゆるところから丸太が飛び出し進行を妨げる。 それが終わると広場に抜ける。


広場では空から落雷が降り注ぐ。数も場所もランダムだ。

落雷に当たると死にはしないものの、しばらくスタンするため身動き取れずにあっけなくタイムオーバーとなってしまう。


そして最後が暗闇の部屋。これはどんな仕掛けがあるかすらわからない。落とし穴、吹き矢、天井落下など暗闇の中で何かわからないまま試練の失敗となる。


ざっと挙げればこの程度のものだが、ここの試練は特別製で地場の影響か通常の2倍の重力が掛かっている。魔法で言うグラビティだ。早く動こうにも動けないのだ。


リュウは最初の関門丸太の振り子の部分だけをクリアするのに3カ月を費やした。3か月も経つと通常重力状態と同じ感覚で移動が可能となった。

ただし、その程度の事ではその先では通用しない。

脚力や単なる反射神経だけで対応するのでなく気を上手くコントロールすることがポイントである事に気づかされる。

これは一の試練の時と同様である。 どうやらここの試練では通常の人の力以上の潜在能力を引き出すことが目的らしい。当然、その能力は自らが試行錯誤で考え出さなければならない。


ここでも食糧は入り口近くにある木に成っている果実だ。各試練場にあるらしい。

白翁仙人様は朝晩一つずつでいいと仰られていたが、試しに昼に1つ食べてみたのだが、空腹感がなく夜には食べる気が起こらなかった。どうやら一日2個が最大摂取量の限界らしい。


そして驚いたのが、一の試練で別れたはずのクロがいつの間にかこの試練にも顔を出す様になったのだ。

ここは門でしか繋がっていない筈なのにいやはや不思議な猫だ。何事もなかったかの様にリュウの試練を丸くなって寝ながら眺めている。


クロと再会してリュウは少しばかりヤル気が出てきた。この誰もいない空間に一人というのは、やはり孤独感が強くて猫の話し相手でも居ると全然違うもののようだ。 

クロのリアクションが低いのはきっとツンデレなのだろう。リュウはそう思うことにした。


修練の中で、リュウは脚を踏み込む際に気を爆発させてその勢いで体を動かす瞬歩を覚えていた。 これを応用すれば何もない場所でも空気に爆風を当てて反発させることも出来る。

更に脚だけでなく、体の特定の場所を指定して発する様にすれば、体が叩きつけられる様なダメージも緩和させることが出来る。これは戦闘の防御としてかなり有効な手段だった。


2年経つと瞬間移動と残像の重ね合わせで分身の術が使える様になった。 最初は2体の分身を5分間が限度だったが、今では10体を2時間程度は維持できる。下界で使うのならもっと出来るだろう。

分身の術の発動中は分身体でも実在のものとして存在できるので使い方を工夫すれば戦略として使えるだろう。”だってばよ”が口癖の忍者少年がよく使っていた技だ。


リュウはこの分身をセンサー代わりに罠に対するバリケードとし、本体と分身を常に入れ替わりを行える訓練を重ねていた。ここまで出来ると落雷広場までは難なく通過出来ている。


問題なのは最後の暗闇の試練だ。見えないところを速く動くというのは非常に難易度が高い。

しかも罠が襲ってくるというオマケ付きだ。


試行錯誤の上、リュウは一つの技を編み出すことに成功した。

分身の術の応用で360度或いは任意の範囲角度に気の分身を飛ばす事で検知のセンサー代わりにする、所謂レーダーの様なものが出来るようになった。 頭の中に自分を中心としたレーダー図があり、障害物や接近体があれば赤く表示されるという感じで、こうなればいいという強い思念を込めて形にしていったものだ。 ここまで二の試練開始から4年が経過。

最初の試練からは7年だ。


試練達成する頃にはレーダー検知は常時起動させておく事が出来る様になり、寝ている時にも索敵は有効にしたままなので非常に使い勝手の良いスキルだった。


最後の暗闇の部屋を抜けると小さな小部屋に抜け出た。暗闇からは判らなかったがここは普通に光がある部屋だ。この部屋に到達すると同時に一の試練と同様に門が開き、次の試練へと向った。


今回はクロへの声掛けは忘れなかった。

というか、リュウは試練達成してこの部屋にいるというのに、何故クロは何事もなかったかの様に、この部屋で昼寝しながら待ってたんだ?どうやってきた? とツッコミどころが満載だった。


クロは”ニャ~”と返事したが、どうやら細かい事は気にするなと言ってるみたいだったのであまり深く考えない事にしておこう。


そして三の試練へとステージが移った。

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