第1話 サバイバル
どのくらい時間が経ったのだろうか、ひんやりした空気にリュウが目覚める。 先ほどまで運転中だった筈なのに今は地面に立っている。怪我もした様子はない。しかもトンネルの中にいたのに今は真っ暗な
山の中にいる。
『一体どうなったんだ??』
リュウは今の状況は理解出来ず混乱していた。
しかし、軍の特殊部隊で数多くの修羅場を潜り抜けてきたリュウにとっては その混乱も一時のものであった。 冷静に状況を分析することに集中させる。
『まずは この場所は今までいたトンネルとは異なる場所であることは確かなようだ。乗っていた車もないし、鞄は助手席の上に置いてあったが周りにはないな?』
とにかく ここに居てもしょうがない。リュウは民家が近くにないか探すことにした。人里が見つかれば知人に連絡して迎えに来てもらう事もできるし なんとかなるだろうと考えた。
『それにしても肌寒いな。。』
リュウの住んでいた日本の季節は初夏で半袖で普通に過ごせたので今のリュウも半袖のポロシャツ姿だ。
やはり山奥で標高が高いのと夜なので気温が下がっているのかとリュウは考えた。それにしても温度が低すぎないか?リュウはそう思った。
『やはり体温の低下で長時間いるのは危険だからはやくこの森から抜け出さないといけないな』
森の木々はかなり高く生い茂っているため月明かりは下まで届かず足元もよく判らないくらいに暗い。通常の人であればおそらく歩くことも危険な状況なのは確かだ。 しかしリュウは夜間偵察任務などで深夜の森を歩く事は朝飯前だ。 視覚に頼らず感覚で状況を掌握させる。
30分程歩いて小休止をしていた時に突然背後に気配を感じた。そして気配と共に昔から馴染みのある殺気を感じた。
”ヒュッ!!”
リュウが体をわずかに後方に退くと元いた場所に黒い影が走り、その延長上にあった木の幹がミシリと音を立てて切り倒された。
『おいおいなんだこりゃ?獣か??』
正面には月の輪熊に似た獣が二足立ちして両手を上げて威嚇してくる。
”ガルルルウウ”
どう見ても月の輪熊よりも大きい。全長が5メートルにも届こうかという高さで目が赤色に光っている。
『とにかくこの状況をなんとかしないといけないな』
素早くリュウも戦闘モードに切り替えた。
とはいえ、持ち物がないリョウには武器などはなかった。万事休す。
大熊が上か覆いかぶさる様に飛んでくる。
リュウは難なく大熊をかわして足元をすくう。
”ズドーーーン”
決して軽くはない大熊がバランスを崩して倒れる。
リュウはそのタイミングを逃さず 倒れた大熊の鼻柱を正拳で突く。
”グオオオン”
大熊が痛みと驚きで大声で鳴き叫ぶ。
咆える大熊の口に 先ほどの切倒された木の幹を突き刺す。
口から脳に掛けて木の幹が到達した大熊はうごく事無くその場に沈んだ。
『こんなでかい熊は初めてみたな』
何事もなかったかのように冷静な口調でリュウはつぶやく。
過去にも任務中に熊や猛獣に遭遇することは少なからずあったが、武器も持たずに戦って勝つリュウは やはり特殊であろう。
今回は木の幹でとどめを刺したが別にそれがなくてもリュウには何通りかの勝つべく手段があったのだ。
大熊の亡骸をじっくりと観察してみると やはり知っている熊とは異なっていた。吸血鬼の様に大きな牙が口から出ているのと、爪がモグラのカギ爪を更に長くしたシザーハンズにも似た鋭い鋭利な爪が生えている。
この牙と爪は武器になる。リュウはカギ爪をナイフ代わりに亡骸を解体していった。
寒さも凌ぐために熊の毛皮は丁度よかった。 生臭さが残っているのは我慢するしかないのだが。
とりあえず腹ごしらえをするため、周辺のおがくずと木の枝を集め木をこすって火を起こす。
これも軍でのサバイバルでは必須の作業だ。 運良く木の枝は乾燥していたためすぐに火が着いた。
熊肉を適当なサイズに切り木の枝に刺して火で炙る。 調味料がないので周辺に生えている草から香草を探し出す。 少しでも味があった方がいいだろう。
腹は満たされた。今日はここで野宿するしかない。 熊の死骸から離れた場所に毛皮を纏いリュウは眠ることにした。
眠るとは言っても意識は常に周りを警戒している。 周辺に気配を感じたらどんな状態にあってもすぐに起きれるのは今までの経験で積まれたスキルだった。
警戒しつつもやがて目に日差しが差し込み朝となる。結局何かの獣に襲われることもなく過ごすことができた。朝は昨晩よりも冷え込んでおり 霜が降りていることから初夏の季節ではないことがわかる。
『一体どうなってるんだ?ここは日本じゃないのか??』
リュウは日本ではなく季節が逆の南半球のどこかに来てしまったのではないか?と考えたりしていた。
『とにかく顔を洗って頭をスッキリさせよう』
近くに流れる小川でリュウは顔を洗った。
その小川で捕まえた小魚を焼いて朝飯とした。こういう状況では空腹な状態は危険度が増すため栄養が摂れる時には取らなくてはいけない。
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