天空に住まう一族
第1話 神人と天空人
その城は、大空のはるか上にあった。
天に浮かぶ特殊な氷の大地、リベルラーシ。不思議で肥沃なその土地に建つ壮麗な城の名は、天空城という。そして、天空城とその周辺に暮らす人々を、空の民という。だが、地上に生きる人間たちは、既にその存在を、伝説でしか知らない。
リベルラーシが生まれたのは、伝説によれば神の御業によるのだという。
それは、気が遠くなるほどに太古の時代。
ある神が、天上界から空中に不思議な水をこぼしてしまった。水は、細かい粒となって飛び散ってしまったが、とても軽かったので地上に降り注ぐことはなかった。そしてこの水は、どんなに冷たい風が吹いても凍りつくことがなかった。
またあるとき、神の子どもたちが燃えている星を蹴り砕いて落としてしまった。その星の欠片は空中に広がってしまっていた水の粒の間に落ち、不思議なことに水を凍らせた。そして、その水が、それ以上欠片が落ちていくのを防いだ。不思議な水は、凍った後も空に浮かびつづけた。
またあるとき、ある女神が喧嘩をしていた二人の我が子を、罰として天上界から落としてしまった。子どもたちは堕ちていく途中で氷の大地とぶつかり、その衝撃からふたつの種族が生まれた。
氷の大地に生命が暮らすようになると、神たちはこれを見て、これからどうするべきか話し合った。そして、ひとつの種族に大いなる神々の力を、もうひとつの種族には大いなる神の飛行能力を与えた。
それから氷の大地に黄色い灰を撒き、いくつもの種類の種を灰のなかに降らせた。やがて灰のなかから緑が芽吹き、育っていった。
神たちは、ひとりずつ順番に、氷の大地に恵みを与えていった。そして、リベルラーシは日ごとに豊かさを増し、天空の楽園となっていった……。
リベルラーシのふたつの種族は、地上に命が誕生するより以前から、こうして栄えていったのだ。そして、地上の人間や精霊、妖精、動物たちとの交流の時代も到来した。ただ、現在では、その親交も絶えてしまっているが。
リベルラーシに暮らすふたつの種族とは、天空城の主の一族である
神人には、神たちから与えられたという伝説の、親から子へ受け継がれる法力という特殊能力がある。それは、電気、風、水、熱、そして昼の光と夜の闇を操る力で、あらゆる気象を制する力である。
これらすべての法力を扱えるのは神人だけで、彼らはこの力によって、地上の異常気象を治めるという使命を負っている。
現在、生きている神人は、天空城の城主であるイワン国王と、彼の息子のボリス王子、ただ二人だけだ。数百年前の異常気象を治めたとき、大勢の神人が自然の力に負けたのだ。
どれほどの力を持っていようと、やはり万能ではない。大勢の力を合わせたとしても、自然はときに彼らを打ち負かしてしまう。神人といえども、自然に生かされている存在なのだ。
だが、それほどの異常が起こるのは数万年に一度のことである。そして神人の寿命は長い。
法力は親の死によって子に継承されるので、現在の王子は気象を操る力は持っていない。しかし、いずれ再び神人が誕生するまでは、1人の神人がいるだけでも充分だろう。
地上の異常気象を治めるのが神人であるならば、地上の天候を監視する役目を持つのが天空人である。彼らは飛行能力を有し、神人に永遠の忠誠を誓う、誇り高い種族だ。
天空城の神人に仕える者、城下町で手職を持つ者。天空人には、いろいろな者がいる。
地上の人間と姿がまったく変わらないので、リベルラーシでは手に入らない品物を地上に求めに行く者もいる。ただし、そんなときでも彼らは決して人間に正体を明かすことはしないのだが……。
それから、天空人の中でも飛行能力や知性に優れた者は、地上を警邏する地候兵になれる。彼らは地上に住む者たちに姿を見られないよう、つねに注意していなければならない。それは商人である天空人と同様、地上の人間に正体を知られれば、惨い目に遭うことになるからだ。
彼らにとっての八年前、交易船に乗っていた商人の一人が地上で何者かに殺されるという事件が起こった。惨たらしい遺体には頭部がなく、そればかりか、胸を切り開かれ、脈打っていた大切な器官も奪い取られていた。
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