第10話 対峙

「東城様、どうかされたのですか?」


いつも笑顔な響が、今は真顔でこちらを睨み付けている。


これはもう秘密を隠すのではなく、力でどうにかする事に切り替えたのだろう。


「琴音はどこに行ったんだ?」


「これから起きる事は琴音様にはお見せしたくないので、

 一旦隔離させて頂きました。そして念のため別荘の施錠も」


あのガチャガチャと聞こえてきたのは、施錠の音か。



あと人が中に入れる場所としたら、玄関横のウォークインクローゼットくらいなので、琴音はあそこに閉じ込められているのだろう。


「琴音様から鍵の在りかをお聞きしたのでしょう?

 東城様と親しくなれば鍵を託すと思って泳がせていたのですよ」


陰りの宿った冷たい視線で響がそう問いかけてくる。


「まあ確かに鍵はもってはいるが」


「東城様には何の罪もないですが、

 妹のために犠牲となって頂きます」


妹……響は妹を助けるために動いていたのか。


でも鍵、恐らく頑丈な鉄扉の鍵をなぜ琴音が持っていたのだろう。


琴音が悪意をもって、響の妹を閉じ込めるとは思えない。


まだ俺が知らない何かがあったとしても、俺はそれを追求するだけだ。


「だが俺も事情を知らないままやられるつもりはないので、

 抵抗させてもらうぞ」


傘を片手でくるくる回して肩に乗せると、響に対して睨みを利かせる。


「その傘で対応すると言う事ですか?」


「使うは使うけど、この商売道具の本領は今ではないからな。

 さて事情を話して頂くとしますか」


傘を肩に乗せたまま、じりじりと前に出て相手との間合いを詰めて行く。



「私も琴音様を護衛するために、

 格闘術を身に付けておりますので、弱くはありませんよ」


響はそう言ながら軽く笑みを浮かべると、床を蹴らず重心の移動を利用して、間合いをぐっと詰めてくる。


「打撃じゃなくて、近接技で動きを封じるつもりか」


響の掴みかかろうとする手を、傘で弾いて軌道を変え、その勢いを利用しながら僅かな隙を狙って響の足を払う。


響はバランスを失って床に倒れこむが、俺はそこで手を止めず、すぐさま傘の先を響の顔に突きつける。


「打撃目的ではなく、杖術ですか……珍しいですね」


響が仰向けのまま一息吐くと、横に転がり再度間合を取った。


「響も琴音を守る事を配慮した上で技を昇華してたのだろうけど、

 それでは戦えないぞ?」


「東城様の身のこなしを見ればそれは分かります。

 でも琴音様に背いた上に、自分に課した制約まで破る訳にはいきません!」


響は静から動へ瞬時移行し、再度真正面から掴みかかって来るため、俺は傘で払おうと前に出そうとするが、すぐに手を止める。


「下段か」


予想通り響の重心が下方に変化したため、ギリギリまで引き付ける。


「狙いはいいけど」


響の回し蹴りがカウンターの間合い入った瞬間、傘の手元で引っかけて響を転倒させる。


「途中で動きを変化させても、

 始動を完全に隠す事はできないから、今のようになる訳だ」


まあ少しでも反応が遅れたら直撃を受ける事になるので、難しい判断になる訳だけど。


「虚をついたつもりでしたけど、これも対応されますか」


と言っても「回し蹴りだけでは、人を転倒させられないのは分かっていますけど」と響が言葉を付け加えて、その場で立ち上がる。

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