第6話 ひとときの団欒

「それでは言葉に甘えて頂かせてもらうよ」


湯気の立つ出来立ての珈琲を少しの間眺めた後、ゆっくりとカップに口を付ける。



「うむ、さすが言うだけあってこれは極上な味だな」


響も俺が味に満足したのが嬉しいようで、今まで見た中で一番良い笑顔を浮かべていた。


ブラック独特な苦味もなく、口通りも良いから珈琲が、苦手な人でもこれはいける気がする。


「琴音も飲んでみたらどうだ? 旨いぞ」


「……いらない」


琴音は視線を外に向けたまま、即座に否定する。



「ははは、そうか。この旨みは大人にならないと分からないかもしれないな」


「それより……大丈夫?」


先程とは違い視線を真っ直ぐこちらに向けて、琴音が問いかけてくる。


「ん? 何がだ?」


「寒気とか……ない?」


着替えや髪を乾かしていた時は特に何も言って来なかったが、俺の事を気にかけてくれていたようだ。


「いや、今の所問題無いぞ。響が早々にケアしてくれたおかげかな」


「それはよかった」


俺の言葉に琴音はほっとした様子で、こちらをじっと見つめてくる。


「俺の事心配してくれたんだな。琴音は優しいな」


「ん」


琴音はあまり言葉を発する方ではないが、静かな佇まいは優雅だし、響も紳士的な振る舞いと笑顔を絶やさない物腰は心地良いが、今は和んでいる場合ではないため、また次のアクションを起こす事にした。

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