第5話 カムフラージュ

「ほんと今日みたいな突然の集中豪雨には、ほとほと困り果てるよな。

 琴音は何か最近困った事は無かったか?」


「洗剤の箱……」


洗剤の箱?


小さな声ではあったが、確かにそう発言した。


しかし洗剤の箱だけでは意味が分からないため、琴音に聞き返そうとしたところで、俺は口をつぐんだ。


言葉少なな琴音なので、響に聞かれたくない重要な言葉と判断し、響に先程のやり取りを悟られないように、カムフラージュする。


「そうか。朝は洋食より、和食を食べたいのか。ちなみに今日は何食べたんだ?」


当然琴音は俺の問いかけの意図が分からないため、少し考えた後にパンと目玉焼きと答えた。


「俺は今日定食屋で魚定食を食べたぞ。

 魚にご飯、味噌汁に生卵。この定番が最高だよな」


「……生卵は嫌い」


「珈琲お待たせ致しました。

 生卵……何のお話をされていたのですか?」


響は明るい声で「失礼します」と付け加えて、持ってきた珈琲サーバーからカップに注ぐ。


「いや、琴音は朝御飯に何を食べたかなと思って、話をしていたんだよ。

 それにしてもこの珈琲は良い匂いだな。

 いつも飲んでる安物のインスタントとは物が違う感じがする」


「琴音様は珈琲は苦手なのでお飲みにならないのですが、

 正親様が珈琲が大好きな方なので、

 厳選に厳選を重ねた最高の物を使わせて頂いているのです」


響の「どうぞ」と言う言葉と共に珈琲が置かれ、珈琲の香りが鼻腔をくすぐる。


珈琲に睡眠薬のような物が入っていないか気になるが、珈琲の味を気にする響の眼差しに嘘は無いと判断して飲む事にした。


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