第1話 雨の降る山道
ザーー……
気がつくと俺、東城誠は降りしきる雨の中、誰もいない山道で一人ぽつんと立っていた。
「……確か山奥の友人宅に向かっていた所だったと思うが、こんな場所でも
『あれ』に遭遇するとは思わなかった」
先程の閉ざされた空間でのSOSは夢や幻ではなく、俺が現実世界で受ける事ができる救難信号。
誰かがこの山の中で助けを求めているのだ。
普通に考えるとありえない現象だが、小さい頃から幾度となく発現しているので驚きはなく、これまでも可能な限り解決してきた。
じいさん曰く「これはお前の役割なので、深く考えずに困っている人を助れば良い」との事だ。
まあ犯罪やら怪異やらが多発するご時世なので、人を助けるポジションが存在しても良いんじゃないかと思って、行動するようにしている。
なので脳裏に映った別荘も、この辺りにあるなら探してみたいのだが……
「まずは雨宿りできる場所を、探すのが先決か」
一応傘、兼商売道具を持ってはいるが、横からの風が強いため、あまり役目を果たせていない。
そのせいで頭からシャツ、ズボンまで濡れてしまっており、少し気持ち悪かったりする。
とりあえず第一目標を、雨宿りができる場所を探す事に決めて、人通りの無い山道を一歩一歩登っていく。
ちなみに今回の目的は、先日まで同じ大学の友人だった高崎 隼人(タカサキ ハヤト)からデータを返してもらい、明日の午前10時までに大学のクラウドストレージにアップロードする事だ。
高崎とは一緒に飯を食ったり、遊びに行ったり、怪異について相談する仲だったが、先日「こんな現代社会に生きていては、駄目になる!」と言って、突如大学を辞めた事に驚いたが、その後スマホを解約してこの山奥に引っ越してしまったため、連絡も取れなかったりする。
なので、俺は今こうして車1台がやっと通れるほどの細い山道を、登っているのだ。
「ん? あそこに何か建物があるな」
雨で視界があまり良くないため、もう少し近づかないと判別はできないが、建物の特徴からして、今見える建物が該当の『別荘』だと思った。
まあ今向かっている建物が、該当でなくとも、軒先で雨を凌ぐ事はできるので、俺はそこまで歩いていく事にした。
ピシャ ドーン!
眩いほどの光と共に、空に雷鳴が響き渡る。
稲光がしてからすぐに落ちる音がするので、かなり雷が近づいてきているようだ。
吹き付ける雨風に負けないよう、必死で建物まで歩いてはいるが、雨がより強く降るため、地面もどんどんぬかるみ始める。
大事な傘が風で折れてしまわないように気を配りながらも、何とか第一目標の建物に辿りついた。
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