第7話

 昼休みの教室は雑談で溢れ帰り、たまに笑い声や叫び声が混ざりこむ。クラスメート達はお互いに仲の良い人同士で固まり、お互いに机を合わせていた。窓の外では体育の授業があったのか、サッカーボールを片付けている生徒がいた。

 午前の授業が終わって昼休みに入ると、私は友乃の姿を探した。朝のうちに友乃に会いたかったが、私は遅刻をしてしまった。原因は寝坊だ。昨夜は昌平のことで頭が一杯で、眠ることが出来なかった。布団の中でキャーキャー暴れていたら、気が付いたら朝になっていた。必死で走ったのに無情にも、始業のベルは私が校門をくぐる100メートル手前で鳴っていた。他の休み時間中に声を掛けようとも思ったが、タイミングが悪く声を掛けることが出来なかった。

 どうしよう、居ない。教室を見回しても、友乃の姿は見当たらなかった。もしかして、私のことを避けているのだろうか。そんな考えが頭をよぎって、寒気を覚える。友乃という友人が居なくなったら、私はどうすればいいのだろう?


「あはは、一番乗りだった~。」

 教室の中でオロオロしていたら、ガラリと扉を開け、能天気な声を響かせながら友乃が教室に入ってきた。手には購買の袋を提げている。時計はまだ12時を少し回ったばかりだ。どうやらコイツは授業を少しばかりボイコットして、フライングで購買へ向かったらしい。

 私は友乃の席に向かい、そこに自分のお弁当を置いた。

「不良娘はっけーん。先生にチクられたく無かったら、デザートを分けなさい。」

 私は椅子に座り、お弁当を広げながら言う。どんな答えが返ってくるかと思ったら、目の前にトン、とヨーグルトが置かれた。なんと、フルーツヨーグルトだ。顔を上げると、友乃が勝ち誇った笑みを浮かべていた。

「ウフフ、何の為に早く教室を抜け出したと思ってるの。これを入手すする為よ。おかげで、競争率の高いコレを二個も手に入れることが出来たわ。」

 そして、友乃は自分の前にも同じものを置く。続けてサンドイッチとジュースを並べる。

「で、どうだったの?」

 そう言う友乃は、いつもの友乃だった。私の、大事な親友の、普段の顔だ。私は親指を突き出し、笑った。友乃も親指を突き出してグッジョブと言って笑った。

 二人でいただきますをし、食べ始める。友乃はサンドイッチを頬張りながら喋った。

「それにしてもつまんないなぁ、成功しちゃったんだ?綾が振られたら、ボクの出番かなぁって思ってたのに。」

 トンでもないことを口にする。私は口の中のものを噴き出しそうになりながらも、必死で飲み込んだ。

「ちょっと、なんてことを言うかな?昌平は渡さないんだから。友乃の場合は、昌平と話すにも私の許可を取ること!」

 つん、と顔を背ける。本当になんてことを言い出すことやら。というか、半ば本気で言っていないだろうかと疑ってしまうが、多分それは無いだろう。

「うわ、既に自分のモノ宣言。独占欲強すぎじゃない?」

「いいじゃない。友乃の好きにさせたら、昌平に何されるか分かったもんじゃないもん。」

「うわ、ひどい言われよう。こんなんじゃあ、もう昌平君を抱いて遊ぶこと出来ないじゃん。」

 今度は駄目だった。私は丁度飲んでいたジュースを噴き出してしまった。友乃はきったなーい、と言いながらのほほんとサンドイッチを口に運んでいる。しっかりと避けていたらしい、自分の昼食ごと、全部。

 友乃はたまに人の頭を自分の胸に抱きこむ癖がある。私も何度もやられたことがあるし、他の人がやられていることをたまに目撃する。なんだ、つまり友乃は昌平にもあんなことをしていたというのか。というか、男子にまでそんなことをしていたのか、コイツは。怒りを通り越して、なんかもう、疲れた。

「駄目、絶対禁止。」

「ん~、じゃあこれからは綾ので我慢するか。」

「お願い、今はやめて。お願いだから手を離して。」

 私の頭にしっかりと固定された手を握り、私は抵抗する。友乃はニッコリと微笑んでいて、まるで力を入れているようには見えない。だが、腕はしっかりと力が入っていて、私も全力で抵抗しているのに少しずつ友乃の胸に顔が吸い込まれている。

お弁当が、と言おうとして下を見たら下にはお弁当が無かった。というか、机ごと脇へと移動していた。おい、いつの間に移動した。



 そして、いつも通りの時が過ぎていく。いつもより若干、騒がしい午後が。今日は友乃と駅前にでて服を買おう。そして週末には昌平とデートしよう。



 ―――もう、会おうと思えばいつでも会えるから。


 ―――あの嘘つきな正直ものと。

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嘘つきな正直もの 由文 @yoiyami

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