第2話
友乃が部活をサボることで問題を解決すると、駅前に出て二人でカラオケに行くことで決定した。
カラオケでは二人で熱唱しまくった。どのくらいか熱唱したかというと、かわいい女子高生二人組だというのに、部屋から出てきた時の反応は、近くにいた人が引いて距離をとるくらい。まあ、カラオケに行くといつもそうなんだけど、何がいけなかったんだろう?ラスト、演歌を立て続けに10曲熱唱していたのが部屋から漏れてたかな?ここのカラオケ、防音ボロいし。次からはポップスを中心にしてみますか。
会計を済ませ外に出るともう日は沈んでいて、街灯の明かりが点いていた。涼しい風が熱唱して温まった体をいい感じに冷やしてくれる。気持ちよかったのでそのまま風に吹かれていると、友乃がふと声をかけてきた。何よと素っ気なく答えると、綾は私の前に出てきた。その表情は、さっきまでのカラオケを楽しんでいた時のものではなく、本当に何かを心配しているかのようだった。
「あのさ、綾。何も無理する必要ないんじゃないかな?」
私は無理なんかしてない。そもそも、何を無理する必要があるんだろう。目を瞑りながら、友乃の声を聞き流す。
「だって、最近ずっと落ち込んでるじゃん。昌平君が越してからずっとだよ?番号知ってるなら、電話すればいいじゃん。声を聞けば、綾も少しは元気出るんじゃないかな。」
目を閉じて伸びをする。ああ、火照った体に夕暮れの風が心地いい。
「ううん?綾のことだから住所も知ってるんでしょ?だったら会いに行けるじゃない。どうして我慢しているの?」
目を開けると、友乃が顔を目の前まで近づけてきていた。視界一杯に友乃の顔を見せ付けられ、思わず後ずさる。おい、間違えてキスしたらどうする気だ。
「あんなに仲良かったじゃない。好きなんでしょ?昌平君のこと。何か理由でもあるの?」
私は顔を背けようとしたが、友乃が両手で顔を固定してそれをさせなかった。全く、これだから困る。友乃はいつも一生懸命だ。他人事のはずなのに、こんなにも私のことを考えてくれている。いつもふざけた態度をしている癖に、このひたむきさ。そのギャップにか、たまに見せるこの一面に私はやられてしまう。ああ、私が男だったらほっとかないよ。
じっと見つめ、答えが出るのを待っている。私が言うまでずっと待っているつもりらしい。それを受け止められず、目を逸らす。本当は顔ごと背けたかった。だけど相変わらず顔は固定されたままなので、これが精一杯の抵抗だ。
「だって、しょうがないじゃない。」
ポツリと呟く。それと同時に、私の顔を固定している手が少し強張った。友乃の顔を見てはいないが、きっと悲しい表情を浮かべてるんじゃないだろうか。やっぱり全部言わないといけない、かな。
「もう、近くに住んでる幼馴染じゃないから。」
私は観念して口を開いた。
「会いにいっても、何しに来たんだって言われたら何て言えばいい?前だったら、何となくでも会えた。気が向けば会いに家まで行ってたし。でも、ただ何となくで、気が向いたからって、何十分も掛けてわざわざ会いに行く?行けないよ。会いに来た理由を聴かれても、私答えられない。会っても何て言えばいいのか分からない。昌平が引っ越して、近くに住んでる幼馴染じゃなくなったら、会う理由も無くなっちゃった。」
話しているうちに、切なくなってきた。気づいたらあえない理由、言い訳を必死に考えている。ただ、会いに行く勇気が無いだけなのに。それに気付いているのに、やっぱり勇気が無くて行けない。何か理由が欲しくて探して、でも会いに行くだけの理由が無い。見つけられない。なんか、すごく惨めな感じがする。私は、実はとても情けない人間だったらしい。
友乃はうん、と一度頷くと私の頭を開放した。離されたては、代わりに私の頭を撫で始めた。
「よしよし、やっと素直になった。ボクの前で強がろうたって無理なんだから。」
本当ならこの年になって頭を撫でられるのは、恥ずかしいしむかつく。でも友乃に撫でられるのは別だった、とても落ち着く。そして、頭を撫でられた後にされることも分かってる。それもされると落ち着くのだけど、さらに恥ずかしい。
突然頭の後に手を当てられたかと思うと、友乃の胸に抱き寄せられた。私の顔に柔らかい胸が押し付けられる。苦しいわけではない。あくまで優しく、暖かい温もりに包まれる。こういう時、友乃をお母さんのように思えてしまう。まあ、うちの母親は間違ってもしないけど。
「会いたい、それだけで良いんじゃないかな?そう思うよ。昌平君だって嫌な顔はしないよ。今までだって、ずっと仲良かったじゃん。会いに行けば、きっと昌平君は喜んでくれると思うだけどな。」
うん、と頷く私。でもまだそんな勇気は無い。そう、会いに行くには勇気がいる。ちょっと、その勇気を貯める必要があるかな。
「ちょっとだけ待って。もう少しだけ整理したいことがあるの。」
胸のモヤモヤ。私と昌平の間にあるこの変な感じ。昌平のことを好きなのは確かだ、間違いない。それが友達としてなのか、恋なのか、はっきりさせてから会いたい。そう思ったのだ。でないと取り返しのつかないことになりそうな気がした。
「うん、ずっとボクの胸の中にいていいよ。」
冗談なのか本気なのか、凄いことを言ってきた。
「いや、そういうことじゃないんだ。これは気持ち良いんだけど、恥ずかしいからもう開放して。お願い。」
見えないけど周りからの視線が痛い。あと何やら囁き声が聞こえてくる。絶対、変な誤解されてるよ。
まあ、噂にならないことを祈るしかないか。
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