第2話 ドッペルゲンガー

・中学校


 屋上。天気は曇り。対峙するわたしとあたし。


 わたし「もう一人の……わたし!? 」


 わたし、ありえないものを見たかのような驚いた表情であたしを見つめている。


 あたし「おっ、いい反応してくれんじゃん。その顔、もーらいっ」


 あたしはポケットから携帯を取り出して、わたしの顔を撮った。


 わたし「それ、わたしの携帯!? 」


 あたし「そう。これはあんたの携帯……(人を小馬鹿にしたような顔)では、ありませーん! 今日からあたしのものでーす 」


 わたし「意味が分からない。あんたは何者なの? なにが目的なの? 」


 あたし「何者? ほんとはわかってるくせに。 我は汝、汝は我。(自分に指をさして)あたしはもう一人のあなた。(わたしに指をさして)あなたはもう一人のあたし」」


 わたし「説明になってない。結局、あんたは何者なの? 」


 あたし「うーん……人間の言葉で言うと、そうだなぁ……あっ、あれだ。ドッペルゲンガーってやつだ」


 わたし「ドッペルゲンガー? 」


 あたし「あっ、もしかしてドッペルゲンガー知らなかったりする? 突然、自分と同じ顔をした人間、ドッペルゲンガーを見た人は近いうちに死ぬってやつなんだけど? 」


 わたし「じゃあなに? わたしはあんたに出会ったことで近いうちに死ぬってことなの? 」


 あたし「死ぬってのはちと違うね。実際はドッペルゲンガーにその人の概念が移行されていくんだ」


 わたし「移行? 」


 あたし「そう、移行。あんたがこれまでしてきたことはあたしがしたことになるし、友達や家族もそれ以外の人たちもあたしのことをあんたのように扱う。つまりはあたしがあんたになるんだよ」


 休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴る。


 あたし「(頭をかきながら)あっちゃー、授業遅刻だなこりゃ」


 わたし「(ドカドカとあたしに近づく)そんなこと……どうでもいいでしょ! あなたがわたしになるですって? ふざけないで! そんなこと信じられるわけないじゃない! 今すぐわたしの制服と携帯を返して! そして、私の前から消えてッ! 」


 あたしは、わたしの腹部にスタンガンを当てて、使った。


 わたし「うっ……!? 」


 わたし、うつむせで倒れる。意識がもうろうとしている。


 わたし「うっ……」


 あたし「あれれ、あまりの快感でイッちゃったかと思ってたけど。やりますねぇ。じゃあ、その忍耐力に免じてさっきの話のおさらい。(わたしの背中を片足で踏んづけて)あたしはあなたになるここまでは説明しましたね。では、あなたはそのあとどうなるのか。簡単です。消えます。綺麗さっぱりと」


 わたし「(驚いた表情)そんな……!? 」


 あたし「あたしがあんたを襲ってから一週間だから……5日と13時間ってとこかな。ちなみに、どうあがいてもあんたの消滅は回避できないから。」


 あたし、わたしを踏むのをやめ、校舎の方へ歩き出す。


 わたし「待ちなさい……よ……」


あたし「大丈夫、あんたの代わりはあたしがしてあげるから」


 わたし、気絶した。





・河川敷


 夕方。わたし、目を覚ます。そこは河川敷。


 わたし「ここは……? 」


 わたし、起き上がる。


 チェルシー「みゃー」


 チェルシーはわたしに近づく。


 わたし「チェルシー。こんなところで何してんの? 」


 おばさん「珍しいね。その子があたし以外の人間になつくなんて」


 と、声がした。声の主は見知らぬおばさん。その横にはリアカーがある。リアカーには空き缶の入ったゴミ袋がいくつも積んである。おそらくホームレスだ。


 わたし「あの、もしかしてわたしがどれくらいここにいたのか知っていますか? 」


 おばさん「知っているよ。誰があんたをここまで連れてきたのかも知ってる。あんたがここに捨てられてからずっと、あたしはあんたを見守っていたからね」


 わたし「見守っていた? わたしをですか? 」


 老婆「ああ、そうさ。ここは河川敷。その辺に生えてる雑草がここがどんな場所なのかを物語っているだろ? 」


 わたしはあたりを見回す。人の背丈ほど伸びた雑草が生い茂っている。


 老婆「草の手入れもされていない場所。草の手入れをする者でさえ、訪れない。そんな場所なのさ、ここは」


 わたし「そんな危険があるかもしれない場所に捨てられたわたしに誰かが何かをしないようにあなたは見守ってたよいうことですか? 」


 老婆「まぁ、正解ちゃ正解かね。あんたが何かされたら、あたしが助けて、お礼を貰うって予定だったんだけど。まぁ、何も起きなかったわけだね」


 わたし(なんなのこの人……)


 わたし、呆れた顔でそう思った。


 わたし「でも、お礼は言っておきます。ありがとうございました」


 おばさん「いえいえ、そんな礼はいらないよ。同じお礼でもあたしはお金や食料が欲しかったからね。あっ、そうだ。あんたに一つ聞きたいことがあったんだよ」


 わたし「なんですか? 個人情報以外なら答えますが」


 老婆「そんなこと聞かないよ。ただのちょっとした疑問さ」


 わたし「で、その質問とは? 」


 老婆「あんた、自分と瓜二つ人間に会っんじゃないかい? 」


 わたし、驚く。そのあとに無関心を装う。


 わたし「ドッペルゲンガー? さぁ、なんのことでしょうか」


 おばさん「とぼけるのは勝手だけど、時間が経てばそれだけあいつはあんたからたくさんの物を奪っていく。ほっとけばそのうち……」


 わたし「だから、知りませんってそんなこと! わたし、帰りますから。それでは」


 わたし、その場を去った。


 おばさん「(行ってしまう私の背中を見て)そうかい。まぁ、あんたにまだ帰る場所があるといいね」


 老婆は小さくつぶやいた。





・市街地


 わたし、歩いている。家に着く。扉を開けて家に入ろうとしたが、鍵がかかってる。


 わたし「お母さん、まだ帰ってきてないのかな……」


 わたし:わたしの家は共働きだ。お父さんはサラリーマン。お母さんは昼からパン屋のパート。だから、わたしが一番早く家に帰ってくることが多い。普段は鍵を持ち歩いているが、今日は持っていない。そんなときは……


 わたし、ポストを開ける。その中には何通か封筒が入っていて、青い封筒を選んだ。そして中に入っている家の鍵を取り出す。わたし、鍵を使って家に入る。靴を脱いで、家にあがる。


 わたし「シャワーあびたいかも」


 わたし、浴室でシャワーをあびている。


 わたし(さっきのおばさんは何者だったんだろう……。ドッペルゲンガーについて何か知ってるかような口調だったっけど……。いや、何をまじめに考えてるんだろう……。わたしが消える? そんなことあるわけがない)


 わたし、シャワーを止めて浴室を後にした。頭を拭きながら自室に入り、着替える。ベットに寝転がる。


 わたし「あっ、そうだ」


 わたしは自分の机の中を漁る。


 わたし「あった」


 わたしは財布を手に取った。


 わたし「よかったこれはあいつに取られてなかったんだ」


 母「ただいまー」


 玄関から母の声がした。わたしは自室から出て、玄関に向かった。


 わたし「おかえりー」


 母はキョトンとした顔でわたしを見る。そして、持っていた買い物袋を二つ、その場に落とした。


 わたし「お母さん、どうしたの? 」


 母「あなた……誰……? 」


 わたし「えっ……!? なに言ってるのお母さん、わたしだよ? よく見てよ! 」


 母「あなたなんて知らないわよ! そんなことよりもウチで何してるの!? 」


 わたし「(近づいて)お母さん、わたしだって! 」


 母「辞めて! 近づかないで! 警察呼ぶわよ! 」


 わたし「何でよ! 娘の顔も忘れたの? 」


 母「あなたがわたしの娘? なにを馬鹿なことを言ってるの? 」


 玄関の扉が開き、あたしが入ってきた。わたし、驚愕する。


 母「わたしの娘ならここにいるわ」


 あたし「(わざとらしく)どうしたのお母さん? 」

 

 母「近づいちゃだめ! 家に知らない人がいるのよ! 」


 あたし「えっ、そうなの!? あたし警察呼ぶね」


 わたし、二人の会話を黙って聞いている。そして、ふたりをのけて外に出た。わたしがあたしの横を通り過ぎる瞬間、あたしは悪い笑みを浮かべていた。わたし、走る。


わたし(なんでよ! 今朝までは普通だったのに、なんで。なんで! )


わたし、あたしの言ったことを思い出す。こっからわたしの回想


・学校


屋上。


あたし「あたしがあんたになるんだよ」


回想終了。


わたし(移行ってこうゆうことなんだ……。じゃあ、これからわたしは誰なの? )


 わたし「(泣きながら)ああああああああああああああああああああああッ! 」


 わたし:このとき、初めて実感した。わたしがわたしでなくなっていくこと。あいつがわたしになっていくこと。しかし、この時のわたしはまだ知らなかった。この時のことなんて、この先に起こる悲劇の序章に過ぎないということを。


 完全消滅まで5日と6時間

 

 

 

 


 


 

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