夢オチでいいから!
高校最後の夏休みだと言うのに、俺は友人の補習に付き合わされていた。正確には、補習が終ったから遊びに行こうという友人に誘われて高校に出てきたのだが、補修のさらに居残りを食らった友人のせいで、俺まで席に座らされる羽目になった。
つーか、補習の居残りって何?知ってはいたけど、こいつって本当に馬鹿だったの?
とはいえ、別にする事のない俺は友人が終るのを待ってやろうと、教室の自分の席に座った。何と今回の席替えは大当たりで、一番後ろの窓際だ。
その席でタイムラインなんぞをチェックしながら、たらたら過ごす腹積もりだった。
机にうつ伏せながら、顔だけ上げてスマホの画面を見るが、どうやら目の調子が悪いらしい。ちらちらと目の端に映るものがある。疲れ目か、はたまた飛蚊症とかいうやつかもしれない。
俺が眉間を揉み解していると、本来前から二番目の廊下側の席の友人が、俺の横の席に移動してきた。
「ねえねえ、てっちゃん」
「ん?」
「こっくりさんってあるじゃん」
「紙にひらがなとか数字書いて、十円玉使ってやるあれか?小学生のときはやったよな」
「そうそう、女子とかよくやってたやつ」
「で?」
どんどん目の調子が悪くなっているような気がして、俺は両掌で目を覆い、机の上に突っ伏しながら、適当に相槌を打つ。
「俺一人で居残りだったからさ、暇じゃん?」
「いや、居残りしてるんだから、勉強しろよ」
「でさでさ」
いつものことながら聞きやしない。こうなったら最後まで話させてやるに限る。
「あまりにも暇だったから、昨日ネットで入手した一人こっくりさんってのやったんだ」
「ふーん、で、どうなったん?」
「あれってさ、本当に十円玉動くんだね」
「動いたのかよ……」
いつものこととわかっていても既に疲れてきた。
「まあ十円玉なかったから、五百円玉でやったんだけどさ」
うつ伏せた状態で目だけのぞかせて友人を見る。
「簡単に動く重さじゃねえな、つうか、なんで五百円でやるんだよ」
「え、だって、他に穴の開いてない小銭なかったし」
「いや、だったらやるなよ……、まあいいや、それで?」
「それでね、てっちゃんは俺が何聞いたか想像つく?」
いやいや、それ以前に、今まで聞いた話の内容だけで想像の範疇超えてるから。
まあそれでも、友達のよしみで答えてやる。
「補習問題の答えでも聞いたのか?」
「ブッブー、はっずれー」
うわ、ちょっといらっときた。悪気が無いのはわかっているが、たまに無性に腹が立つことがある。こいつに友達が少ない理由だ。
「教えて欲しい、ねえ教えて欲しい」
「いや、いいわ」
そろそろ俺の理性も限界を向かえそうだ。こうなればさくっと帰るに限る。
「あー、待ってよ、置いてかないでよ。ごめんって、意地悪しないで教えるから待って」
「教えていらんと言っとるだろうが」
俺に腕に縋って来る友人をぺいっと引っぺがして、席を立とうとするが、強い力で引かれて再度椅子に座ることになった。
「まあいいや、言ってみろよ」
「うんうん、えっとね。この辺りで一番強い霊ってだれですか?って聞いたんだ」
「……ふーん、で、どうなった?」
「そしたらね、自分だ自分だって言う霊がたーくさん集まってきて、ケンカを始めちゃったんだ。そしたら教室の中凄い事になっちゃってね、俺も教室から出られなくなったんだ」
「…………っていう夢オチなんだろ?」
「やだなぁてっちゃん、現実見なよー」
へらへら笑う友人の頭を掴み、
「て、てっちゃん?――っいたーい、なにすんだよ、てっちゃん」
思いっきり頭突きを見舞ってやった。
「大丈夫だ、俺も痛い」
ぐっと親指を立てる。
どうやら夢じゃないらしい。
その瞬間、机が何個か吹っ飛んだ。
何かが暴れている。最初は目がおかしくなったのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
狐みたいなのや、犬みたいなのや、狸みたいなのに混じって、落ち武者みたいなのや、猫又みたいなのまで集まって、ケンカなのか大宴会なのかが始まっている。
因みに俺を椅子に縛り付けているのは、こいつらの何かだ。
「これさ、結果が出るまで帰れねえの?」
「うん、そうだと思うけど」
つうかこれ、終わったとして素直に帰してもらえるのだろうか?
この現実離れした光景を前に、俺は再び机に突っ伏した。
もうさ、夢オチでいいから勘弁してくれ。
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