第3話2秒に負ける

ほんで、ビラまきにも色んなエピソードがありまして。


普通にお笑いのライブのビラまいても、道に捨てられて終了なんですよ。

そんで、ビラまきながら、必死に声をかけるんです。

特にお笑いを好きそうな若い女の子!


もう、立ち止まってくれたなら、

「今からどこに行くん?」


「ちょっとだけ、時間ないかな?」


なんて必死に声をかけて。

ナンパですよ!ナンパ!!

なんとか会話を繋いで繋いで、世間話してみたり、今後の予定を聞いてみたりで。

それで相手の反応が、


「えーっ。どうしようかなー。別にこの後、行くとこないしー。」


みたいな感じだったら。

食い下がる!食い下がるしかないんです!

下手したら僕らのライブなんて、集客ゼロです。

ゼロからのスタートなんです!

この一人が、どれだけ貴重か!

神様に見えてきます。

仏様に見えてきます。


「何とか、来て、お願いします!」


もう土下座する勢いです。

いや、現実に土下座したことも、何回もあります。

僕らは、見てもらってなんぼなんです。

見てももらえない事、これがどれだけ辛いか。


ある時、一人の女性がビラまきに引っかかり、


「えーっ。どうしようかなー。」


状態になったとき、必死に食らいついて、その場に約30分

頼み倒したときがあります。

泣き落とししてみたり、実際ネタの一部を披露して、続きが見たかったら是非!

みたいな感じで、あの手この手で拝み倒していたのです。


そこに通り掛かった一人の男。

「おい、原田!なにしてんねん?」


見ると、高校の同級生。

「今、ライブのビラまきしてんねん!」


「ほんまか。大変やなー。」


そんでその男との会話は終了。

結局その女の子は、その後、さらに30分拝み倒してみたけど

やはりライブには来てくれなかった。


その1ヶ月後。

またそこでビラまきしていると、その時の高校の同級生の男がまた、通りかかる。

すると、その横に彼女。


あれ?その彼女は!

僕が約一時間ライブに来てくれと、拝み倒した、あの女性ではないか!


「なんで?」


聞いてみると、あの時、

「おい!原田!」

と、声をかけたその男に一目惚れして、その後を付けていって、告白して、その日の内に付き合う事になったらしい。


「おい!原田!」


約二秒!

約二秒で、その通りすがりの男に一目惚れしやがった!

こっちは、約一時間お笑いのライブに来てほしいと、拝み倒したのに!


その男が偶然声をかけた、その二秒に負けたのだ!


二秒で一目惚れしやがって!(>_<)


せめて、ライブに来てくれていたら、納得できたかもしれない。

そして、その後二人でライブに来てくれていたら。

納得できたかもしれない。


ライブにも来んわ、二秒で通りすがりの男に惚れるわ。

踏んだり蹴ったりやな!


「じゃあな!原田、頑張れよ!」


と、言い去るその二人の後ろ姿を見て、


「さっさと、別れろ!」


そう心の中で叫んだ。

そりゃ叫びたくもなるわ!!

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