第2話 村人Aの傾向と対策
「勇、者、?」
「呆けた顔して大丈夫か?村人A。すんごい悲鳴だったもんな。よっぽど怖かったんだな。よしよし……」
鷹神少年、中学二年生に、よしよしされてる俺は、高二なんだが?ていうか、
「ちょっと待て。何で俺が村人Aなんだよっ」
「え?何でって、その格好から察するに、お兄さんも転移者なんだろうけどさ、ゴブリンに怯えて悲鳴あげちゃう程度のスキルってことでしょ?それってつまり、名前もつかないモブってことじゃん」
「モブ……」
何なんだよ、この理不尽な設定は。これ、俺の夢の中なんだろう?なのに、自分、何でモブ?何で村人A?どんだけ自分を低く見積もってるんだよ。思わずため息が出る。まあ、百歩譲って、俺が村人Aだとして、どうにも納得が行かないのは、
「
話の様子からすると、中二、とかいうぐらいだから、同じ日本人で、同じ学生で、多分、同じ風に転移したんだろう。スタート地点は同じなんだよな?
で、俺は、村人A。
こいつは、勇者。って、
「……納得いかねぇ」
運動神経だって、頭の出来だって、高二の俺が、リアルでは中二には負けないハズだ。
そこはあれ、なのか?
選ばれし者的な?
……主人公補正的な?
「う~ん。何でと言われれば、そ~だな。まあ、順応力?」
「何だよそれは」
「そもそも俺は、勇者になりに、ここに来てんだもん」
「なりにって……勇者なんて、なりたいからなれる、なんていう、お手軽なもんじゃないよな?」
「う~ん、難しいことはよく分かんな~い」
そんなとこだけ中二頭かっ。
「で、身を守る術のない村人Aのお兄さんは、これからどうすんの?俺は、王都に行く途中なんだけど。次の街ぐらいまでなら、送ってってあげないこともないよ?」
……思いっきり上から目線、だよな~……
そりゃ、勇者と村人Aで、どっちが上なのか?って言うまでもないんだけどさ。
「……一つ言っておく。俺は村人Aじゃなくて、
「クリス……さん?って、おい、かっけ~なっ。お前、ハーフなんかっ?」
「……いや、純潔日本種だがな」
「え~、日本人なのに、なんでそんなけったいな名前なん?」
かっけ~からの、けったいって、どんだけ株大暴落なんだか。
「けったい言うな。親の趣味じゃわ」
生まれたばかりのく~ちゃんって、それはそれはもう、ウルトラ可愛くってねっ。きらっきらに光り輝いてたのよぅ。クリスタルみたいにキラキラ~って。
だから水晶?で、クリスタルじゃ長いから、クリス?確かに、かっけ~のは認める。だけど母さん、日本人には微妙だと、思わなかったのか?思わなかったんだろうな~。俺の名前、しっかり水晶だもんな。
「ちなみに、クリスさんて、どんな字書くの?そのまんまカタカナ?」
「水晶って書いて、クリスと読ませる……無理やりだがなっ」
自虐的にそう言うと、勇者八広は、キョトンとした顔をしている。
「いや、だから、無理やりなのは、良く分かってるから……」
自己紹介の度に繰り返されるこのやり取りは、相手が適当にツッコんでくれないと、かなりせつない。
「みやま、すいしょう、さん?」
「ああ、それで、みやま、くりす、なのっ!」
「あ、ああ!それじゃ、あのお姉さんが探してたのって、お前のことか~」
「え?探してた?お姉さんが?俺を?」
「うん。
……どこのお姉さんだろうか……
「多分、あのお姉さんも、転移者なんじゃないかな~クリスさんと違って、モンスターとか、ダースでなぎ倒してて、スゲ~って感じだったけど」
……ダースでモンスターをなぎ倒す、チートなお姉さん……って、誰っ?……
「知り合いに、そんな奴いたっけかな?」
「えっとね、ショートボブで凛とした感じの、体育会系っぽい感じの人だったよ?」
「ショートボブで凛とした……」
『絶対に、逃がさないから』
「あ……」
あの子か、と思う。
意識飛ぶ前に、見た。
まあ、夢って奴は、過去の記憶を整理するために見るって言うしな。出て来ても不思議はないのか。にしても、
……まさか、本当に追い掛けて来た訳じゃ、ないよなぁ……
「それ、いつどこで会った?」
「ついさっき、だけど、魔法かなんかでシュンって、姿消しちゃったから、もうこの辺りにはいないんじゃないかなぁ。あ、そう言えば、とりあえず王都行って、情報収集しようかしらって、言ってた」
「王都か……よし、今から俺は、お前の従者な。ということだから、王都まで一緒に連れてけ」
「え~、俺、こんなにレベルの低い従者なんかいらないよぉ」
「レベル低い言うな。お前より三年余計に生きてんだ。何かの役には立つ」
「何かって、何だよ?」
「何かは、何かだ。そのうち分かるっ!(ということにしておく)」
ぶちぶちと不満を漏らす八広を先輩の圧力で黙らせる。
忘れてはいけない。
そもそも、これは俺の夢、なのだ。
だから当然主役は俺。
勇者なんて便利なもんは、俺のボディガードにするに決まってんじゃん。
YES,I CAN.(よしっ)
「で、王都ってどっちだ?」
ようやく立ち上がって、制服についた泥を丁寧にはたいていると……
『不意に、ごおっという風鳴りが聞こえた。次の瞬間、頭上を巨大な影が過った。八広が空を仰ぐと、そこにはドラゴンが……』
「え……」
視線の先の空間に、また文字が浮かんだ。
「ほら、ぼおっとしてないで、行くよ、クリスさん」
横から声を掛けてきた八広に確かめる。
「なあ、おい、八広。これって……」
「え?何?」
八広が怪訝な顔をして、目を凝らす。って、まさか、
「見えてないのか?これ……」
「これって?」
「何か、文字、みたいなのがここに浮かんでるんだけど」
「え~何?そんなのどこにも…」
……って、もしかしてこれ見えるの、俺だけ?……
「不意に、ごおっという風鳴りが聞こえた。次の瞬間、頭上を巨大な影が過った。八広が空を仰ぐと、そこにはドラゴンが……」
俺は、八広には見えていないその文章を読み上げた。その刹那……
ごおっ。
耳に不気味な風鳴りが聞こえた。え?と思う間もなく、大きな影が頭上を横切ったのが分かった。
……おいおい、嘘だろぉ……
イヤ~な予感一杯で見上げた空には、絵に描いたような立派なドラゴン。って。
「「まじか~」」
思わず呟いた言葉が、八広とハモった。で、八広が俺の顔をまじまじと見て言う。
「お前、予言者かよ、すっげぇなっ」
……予言者……?……
まあ、村人Aに比べれば、大出世だが。ていうか、こんなに大きなドラゴンにロックオンってどうすんだよ。念のために言っておくが、予言者かも知れなくても、俺は無力だ。
「八広、お前、勇者なんだから、こういうのも、退治出来んだよな?当然」
真剣な顔をしてドラゴンを目で追いかけている八広に、一応、大丈夫だよな、を前提に確認する。
「う~ん、微妙?」
八広が苦笑いする。
「はっ?微妙、なの?」
「俺、まだ勇者の剣、手に入れてないから、このナマクラじゃ、歯が立たない系?」
いきなりピンチなんですが、これは悪夢なんですか?
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