第5話:初めてのお風呂(R)
風呂が沸くまでの間、2人は黙々とケーキを食べていた。
だが。全くそのケーキの味が分からない。いつもは堪らなく美味しい筈の、大竹の淹れてくれたコーヒーの味も。
だって、これから2人で風呂に入るのだ。
どうしよう。
こんな幸せな事って、あって良いのだろうか。
風呂とか。
先生と風呂に入るとか。
ドキドキしながら、それでも上辺だけは取り繕って「ケーキ、美味しいね」などと言ってみるのだが、大竹の方も上の空だった。
その時、いきなり電子音が鳴り響いて、2人は固まった。
────ピピピッ オ風呂ガ沸キマシタ────
男の声だか女の声だか分からないような電子音に促され、2人はぎこちなく「あ、沸いたね」「そうだな」などと冷静さを取り繕いながら立ち上がった。
「お皿洗おうか?」
「いや、だからお前が主役だろって。俺が洗うから、先に風呂入っててくれ」
「うん……」
自分からお皿を洗うと言ったのに、先に入っていろと言われると、皿なんか後にしてよと言いたくなってしまう。
ケーキ皿やコーヒーカップを手にキッチンに下がる大竹のうなじが、赤い。その赤さを見て、設楽はジワジワと恥ずかしさと嬉しさがこみ上がってきた。
洗面所で服を脱ぎ、丁寧に畳んで洗濯機の上に重ねておく。それから、設楽は洗面所の鏡で自分の体を確認した。
去年、初めて大竹と一緒に塩山で温泉に行ったときは貧相な体をしているとからかわれたのだが、それが悔しくて設楽は今体を鍛えている。胸や腕にはうっすらと筋肉が乗ってきているし、腹筋には僅かばかりではありが、筋が入るようになった。
「よし。さすがにもう貧相とは言われないよな?でも先生だって言うほどガッチガチな訳じゃないじゃん。そういや水泳やってる人って、なんで肩周りは筋肉付いてるのに腰細いんだろう……」
そこが良いんだけど、と思わずニヤニヤしてしまった。
暫く洗面所で大竹が来るのを待っていたが、なかなか来なさそうなので仕方なく1人で風呂場に入った。
先にバスバブルを仕込んであるお風呂は、既に泡が立っていた。お湯の色は乳白で、中に入ってしまうと互いの体が見えないようになっている。
「……先生ったら、こんな抵抗を……」
まぁ良い。先生は先に俺を風呂に入れてしまったのが作戦的に失敗だったと今から思い知るが良い!
暫くすると大竹の姿が洗面所に現れた。うっすらと、服を脱いでいる影が見える。
何だかすごくドキドキする。温泉で服を脱いでいるのとは訳が違うのだ。大竹が服を脱ぐ時間が、ずいぶん長く感じられる。焦らされれば焦らされるほど、設楽の期待は高くなる。
それからまた暫くして、ようやく風呂場のドアが開いた。
「!」
ドアを開いた大竹は、一瞬言葉を発することができずに狼狽えた。
バスタブの中に入って座っている設楽の姿は泡に隠れて見えないが、洗い場に立っている自分の姿は丸見えで、しかも座っている設楽の視線の高さは、ちょうど大竹の腰の辺りに来るのだ。
「おま…っ!ガン見するなよ!」
「なんで?先に風呂入ってたら必然的にこうなるでしょ?」
う~っと口の中で何事か呻きながら、大竹はそれでも体をずらして設楽の視線から自分の体を隠しつつ、掛け湯をして風呂に入……ろうとして、下からニヤニヤと見上げてくる設楽の目を掌で覆ってからバスタブを跨いだ。
「お前……さすがに引くぞ……」
「いやなんかもう、超ご馳走様って感じデス!」
大竹の部屋のバスタブは標準的なサイズで、男2人で入るには相当狭い。横に並んで入ろうとすると足が突っかかるし、縦に並んで入ろうにもそんな長さはなく、かといって手足を交差して入るのはヤバすぎる。
「……設楽、窮屈だから、お前先に出て体洗ってろよ」
「こうして入れば良いんじゃない?」
言うなり設楽は大竹の脚の間に自分の体を滑り込ませ、大竹の胸と自分の背中をぺったりと合わせた。大竹の胸の中に、囲い込んで貰った格好だ。
「わっ!待て設楽!」
大竹の胸が設楽の背中にぺったりと合わさるということは、もちろんその下もぺったりと合わさるということで。
せ、
先生のチ……
いや、間違い!先生のお宝が、俺のおしりに当たってますよ!!
しかも、なんか、口で言ってる事とは全く真逆で、先生のお宝はやる気満々ですよ!
うぅ~、お尻の良い所に当ててやる!!
設楽が自分の腰を動かして、わざと狭間に大竹のを挟み込むと、大竹は声にならない呻きを漏らし……それから、急にザバリと風呂が波立ち、体中に強い衝撃を受けた。
「……せ、先生……?」
最初設楽には、何が起きているのか分からなかった。大竹に抱きしめられているとは理解できなかったのだ。
「お前な…、さすがに俺の理性にも限界はあるんだぞ……?」
大竹の声が掠れている。なんて声。腰に当たる大竹自身が、更に硬度と大きさを増した。
「要らないよ、そんな理性なんて」
胸に回った大竹の腕を、設楽は抱きしめた。それから手の甲を握りしめ、大竹の指を口に含む。
「……チクショウ……っ!」
大竹は後ろから覆い被さるようにして体を捻り、設楽の唇を貪った。喰らい尽くされそうな、激しいキス。大竹の舌が設楽の舌を絡め取り、きゅうっと痛いほど吸い上げていく。
「せんせ…っ!」
設楽も体を捻って、大竹の背中を掻き抱いた。
あぁ、夢みたいだ。
先生の裸の胸に、俺は今抱かれているのだ。
設楽の体はいつの間にか反転して、大竹の下に敷き込まれていた。バスタブの縁に頭を乗せ、狂おしいほど抱きしめられながら、設楽は夢中になって大竹のいきり立った物を扱き立てた。
先生のだ!
先生のを俺、今扱いてるんだ……!!
「くそっ、俺が今までどんな思いで……っ!」
大竹の唇が喉元を掻き切りそうな勢いで吸い上げる。
「先生、先生を全部俺にくれよ!俺を全部先生にあげるから……!!」
設楽が自分の後ろに手を這わせ、中をほぐそうとしたら、その指を大竹が上から握りしめてきた。
この期に及んでまだ止めようというのか……!
だが、大竹は設楽の耳元で「これ、何か使わなくて大丈夫なのか?」と小さく囁いた。
「バスバブル入ってるから、多分大丈夫……。ね、先生、やり方知ってる?」
「……一応、ネットとハウツー本で調べた」
調べてくれてたんだ……!
それだけのことが設楽にとってどれだけ嬉しいことか、きっと大竹には分からない。
「先生、もう、もう俺我慢できないよ……!ね、挿れてっ!早く欲しい……!」
それでも躊躇いがちに、大竹の指が設楽の後孔を押し開き、ゆっくりと中に入ってくると、設楽の脳天まで衝撃が走った。節ばった指の関節が中にグリグリと当たるたび、設楽の体は歓びに跳ね上がる。
「あぁ…っ!先生……先生っ……!!」
もう我慢できなくて、大竹の指の上から、設楽は自分の指も中に押し込んだ。大竹の手の甲に自分の掌を当てながら、指の数を増やしていく。
「設楽、そんな急にして、大丈夫なのか……?」
「このままで置かれるよりはずっと良いよ。先生、もう大丈夫だからっ!お願い、もう、俺……っ!」
設楽がねだると、大竹の指は設楽の指を連れて体の外に出て行った。
「くそっ、後1年ちょっと我慢してれば卒業だったのに……っ!」
まだ拘っているらしい大竹の口ぶりが、それでも欲望に彩られている。設楽は先程自分で育てた大竹を掴んで、そのまま蕾に導いた。
「先生、俺が上に乗った方が良い?それとも……」
設楽の台詞が終わるのを待つよりも早く、大竹は設楽の体の上に覆い被さり、力一杯設楽の体を抱きしめた。
「すまん、何か、注意点あるか?」
「無いよ!何にも考えずに、いっぱい愛してくれればそれで良い!」
言った瞬間に、大竹の切っ先が設楽の中にねじ込まれた。
「あぁ…っ!」
「くっ、きつっ…」
ミチッと中が拓いていく感触に、大竹は「うわっ、なんだこれ…っ!くそっ!このまま達きそうだ……っ」と、初めての感覚に途惑いを隠せない顔をした。
「先生、俺の体、良い?」
「あぁ、すげぇよ。くそっ、我慢きかねぇ……っ!」
そのまま大竹はぐっと体を押し進めてきた。
ジワジワと、体の中が大竹でいっぱいになっていく。
それは体の快楽ではなく、魂の快楽だ。
「あぁっ!んっ、先生!」
先生が俺の中にいる……っ!今、俺と先生1つになってるんだ……!!
大竹の屹立が設楽の中の最奥にぶち当たると、設楽は声を殺すことができなくなった。理性などいらない。湯が波立ち、泡が設楽の口元に押し寄せてくるが、そんなことも気にならなかった。
「先生っ!先生っ!!あぁ!嬉しいっ!先生と俺、やっと……っ!!」
「設楽っ!設楽……っ!!」
大竹の低い声が耳を刺激する。
「設楽、好きだっ!設楽……っ!」
設楽は体をびくびくと震わせながら、大竹という奔流に、ただ飲み込まれていった──── 。
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