「その後の彼女と俺の生き方《幸福》」
へっ。なになに?
結局あの後、俺が何してるかやて?
しょうもない話やけど、聴きたいんか?
どうしても聴きたいなら、話すことはいくつかあるけどな。
あの日、すべて
あのまま彼女の部屋に、半ば以上無理やり強引に押しかけてな。
アホやて? 俺も、わかってるがな。緊急事態やったから、仕方なくな。
それで、連絡先を手に入れた翌朝すぐに動いて新しく働きはじめたんやで。
ハローワークが、社会福祉の一環として行ってた制度を利用してん。
講座を受講しながら、彼女の部屋のすぐ裏にあった障がい者入所施設に潜り込んで「生活支援」実務やわ。
もちろん、何も知らん初心者やで。
でも、若い男が少のうて特殊な業界やったから妙に重宝されてしもうてな。
しかも自宅は目の前、嫁同様の相手もいてたから「悪いことはしない若者」やとか法人上層部から信用とか信頼されてん。気がついたら施設長とか管理者とか呼ばれる社会的立場を手に入れてたし地元では、いつしか先生とか呼ばれてたんやわ。
それも含めて、いつかは書いてみたいと考えてた己の半生を日々の
業界紙の片隅とか、最初は誰も知らんコラムやったはずが、ある日「大手出版社」編集者から法人に直接連絡が入って、ブログをまとめる形式で書籍出版されてな。
いつしか、新聞とか雑誌取材も受けて福祉世界の専門家扱いされててん。
正直に話すと、インチキみたいなもんやけどな。テレビの福祉討論会とかで、識者評論家としてマスコミ露出が増えたおかげかな。
そんなタイミングで細々と書き連ねてた駄文が、長い歴史の立派な文藝賞に勝手なノミネートされて作為的に祭り上げられたおかげかな、大昔の有名作家の名を冠した末端の賞をいただいたんや。
リストラされて路頭に迷う寸前から、気がつけば周囲に先生なんて呼ばれる立場に祭り上げられた。その後は、誰もが知る「作家」先生やとか笑うしかないネタやろ。
バカにつける薬、本来ないはずが人生は不思議なもんやで。
俺の中身なんて、あの日からこれっぽっちも変わってないんや。
そのはずやけど、この裏話は絶対誰にも内緒にしてくれよな。頼んどくで。
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