「俺がパチプロを辞めた理由《真意》」
Ⅰ
朝八時半、英国タンノイ社小型スピーカーからマキシマム音量でクラブサウンドが鳴り響く。その重低音を耳にして、少しづつ脳全体が動きはじめた。
頭部を一振りし、半ば以上無理やりな動作で上半身を起こす。
ベッド脇に置いた、紙パッケージを探そうと手を動かすが脳内半分未覚醒なのか、動きが
数十秒後、目当てのセブンスターとZIPPOライターを探し当て、立て続け二本吸い終えると
再び、頭部を軽く左右に揺すりながら見上げた時計は、8時50分を指していた。
「そろそろ、本気で
独り
ともあれ、起床時間を考えれば判るはずだが俺は五年程前から普通のサラリーマン生活をやってない。部屋を目にすれば、誰もが
本来、貸し
機械は勿論、どこの家庭でも目にする一般的な商品やない。一部特定の場所でしか目にするはずがなく知らない人間の方が多いぐらい特殊な
見る人が見れば判る機械の大半は、パチスロもしくはスロットマシーンと呼ばれる
そや。
俺の
裏業界、どっぷり
世間一般に、仕事とは呼ばれない馬鹿な毎日を過ごしてる。別に深い訳もないけど俺なりの原因と理由は存在してるからね。どこからはじめれば、理解しやすいかな。
そや。
まず最初、かなり昔になるけど小学生時代やね。
産まれた頃から住んでいた古民家を、リフォーム建築として建て換えた工事中や。授業が終わると連日、工事進行を確認するために施工場所である自宅に通い詰めた。
当初、ただの好奇心が建方を成すに連れて興味本位から真剣な想いに変化した。
首を周回したタオルで
建設現場の仕事に
「将来、働きたくても仕事がないなんてことがあれば俺の会社に入ればいいよ」
笑顔で手渡され、意味も理解せずに受け取った肩書と所持資格が数多並ぶ名刺。
当時、深く意識せず喜び勇んで仮家に帰宅して早々、両親の前で受け取った名刺を自慢げに見せびらかした。
「あんた、何アホなこというてるの」
激怒した母に、そのまま名刺を取りあげられる。
子供で、そんな一件も忘却の彼方に月日は流れて高校二年の進路希望調査時かな。望む仕事、進む未来が見つからずに悩んだ当時、偶然過去の一件を思いだした。
Ⅱ
結果として、深く考えず「
「なんでや?」
納得いかず、怒り心頭に叫ぶ。
若い教師は確か当時、
「あんな仕事はねえ、キミ。貧乏で頭の悪い、身体だけ丈夫な人間が
へぇ、そうなんか。
確かに、
それに、校内トップクラス位置の成績が
「人間を生まれや職業で差別してはいけない」
そんな寝言を真剣な顔で語る、お前ら教師は自分のこと何様やと思うてんねん。
完璧に、
高校生で、世間体と建前の意味も理解してたし妥協点を思いつき周囲に表向きだけ納得した振りをする。
そや。
当時の、親方みたいな立派な大人を目指せば良いと考え直して進路調査用紙を国立理系に書き換えた。当然、工学部で建築か土木専攻やが表面しか理解しない大人に、考え直した状況と受け取られたらしい。
そして高校三年春、最終進路調査時。
いざ大学選びで、頑張れば国立医学部現役合格可能と話す担任教師、笑顔で見守る両親にはったりをかまし高名な建築家名を掲げ己の意思を告げる。
「僕は、どこの大学でも構いませんが尊敬しているスペインのアントニオ・ガウディ同様の世界的に偉大な建築家を目指したいので、工学部建築学科を志望してます」
その
最初、俺の考えを変えさせるため、よってたかって猛反対した。それでも、持論を曲げない意思の強さを見て「阪大工学部なら」と認めざるを得なかったらしい。
翌春、無事に大阪大工学部建築学科に現役入学を果たす。
在学中、四年間は特別な何かが起こることもなく遊びと勉強を両立できた。
設計事務所を、可能な限り早期開業すると豪語した面白いゼミ先輩の存在もあり、楽しく有意義なモラトリアム期間を過ごせたと思う。
結局、人生を180度転換する結末を迎えたのが就職時。
両親は、
そんな気持ち更々なかった俺は、所属ゼミ教授に紹介されて関西で業界五指に入る大手ゼネコン竹下工務店入社を決めて約三ヶ月、つまらなく長い研修が終了した。
夢が叶い現場代理人の道が開けたはずが、配属先は建築資材研究開発部門やった。
確かに、ゼネコンでは最優秀エリートが集う花形部門らしいが興味の欠片もない。
「困ったことがあれば、いつでも相談に来なさい」と研修で説明していた人事部長に
「彼にも、困ったものだ。確かに本気で現場に出たいのだろう。組織として現場施工管理部門に優秀な人材も欲しい。でも阪大の先生と継がりが深いし、何せ彼の父親が
その言葉は、俺の名前で開始されたから馬鹿な俺でも簡単に理解できた。
周囲すべてが、共謀していた
確かに、
盗み聴いて怒りに震えた次の瞬間、会社を飛びだした。
Ⅲ
そのあと数時間は、
とにかく走り回り、疲れて立ち止まった場所が大きなパチンコ店の入口やった。
その
その部分だけ、なぜか
当然、内部的な仕組みなど知らずに細かい状況も意識せず、とりあえず入店する。派手な装飾空間に、目を血走らせたおっさんおばはんが機械を前に並んで座ってた。釘が打たれた台の、右下ハンドルを握り締めてガラス内で跳ねる玉を追いかける。
離れた場所で眺めて、徐々に仕組みが理解できた。打ち出した玉をチューリップ型穴に入れて出玉を増やす遊びかな。玉がなくなると左側設置の投入口に銀貨を入れて再び玉を借りるらしい。
内容が、あまり面白くなさそうやと感じて店内を一回りした。
そして、壁際奥に少し構造が違う機械が設置される状況に気づいた。
それが、パチスロ機であることは頭上に吊られたパネル板に書かれて理解できた。ゲームセンター設置のスロットマシーンと同じ機械で理解しやすいと興味も覚えた。
再び、離れた場所からパチスロ
その
まず景品カウンター横、専用メダル両替機に千円札を投入。貸しメダルと書いてるコインを持って機械に戻る。コインを直接、台右側部分から機械に3枚投入して左側配置のスタートレバーを叩く。
すると盤面スロットルが勢い良く回転を始める。ゲームセンターと異なる部分は、3列スロットル全停止を待たずに3つ並ぶボタン左を押すと左スロットルが停止する仕組みや。
スロットルを停止させ、横か斜め同一絵柄が揃えばメダルが払いだされる仕組みはゲームセンターと同じ。面白そうやと単純に興味を覚え、とりあえず触れるつもりで財布を確認すると1万2千円と小銭だけやった。
その時点で、今後どうするかに思いを
勤務中会社を飛びだした。戻れるはずもなく戻りたい気持ちも
背後から手を回す、親父がいる自宅に帰るつもりもなかった。
運転免許証は所持してるし、未成年でもないから当面大丈夫や。
何が必要か考えて、先立つ物である現金があれば何とかなると気づく。
財布の大手銀行キャッシュカードを確認して、急いで銀行に走る。
大手ゼネコン内定が出て、今後は必要になるやろうと三百万近い大金を個人口座に親父が振り込んでくれた事情を思いだしたからや。
Ⅳ
これだけあれば、当面は大丈夫とほくそ笑み残金すべて引きだした。パチンコ店に戻り両隣が遊戯する狭間に着席して、左右を参考に見よう見まねで打ちはじめる。
当初は、単純に絵柄が並べばメダルが払いだされる事実しか理解しておらず、後に揃う絵柄で払いだし枚数が違う事実に気づいた。盤面右側に、印字された説明書きに目を通して考えながら打つことで理解できた。
最初、勢い良く回転するスロットルの動きに戸惑って適当にボタンを押していた。しかし、徐々に回転中も色や形で何となく絵柄判別できる程度になった。
四千円使った頃か、あまり揃わない子役絵柄が頻繁に揃いだした。7絵柄が、左中リールに並ぶ回数も増えて右も7絵柄を狙う。ピタっと、中段一直線に停止した。
次の瞬間、派手な音楽が機械から流れだし上部パトライトが回転する。
それを見ながら理由も判らず、無闇に嬉しかった記憶がある。
7絵柄が並び、次どうするか理解できず機械を眺めて呆けてたんやと思う。そこで左隣に座る四十絡みのおっさんが話しかけた。俺が座ってから小箱に一杯、あわせて四杯近いメダルを積んでて、にかっとヤニで黄ばんだ前歯を見せたんや。
「兄ちゃん、ツイてんなぁ。その低設定を適当打ちで簡単にビッグ入賞させたんか」
独り
おっさんは、ビッグボーナスゲーム中は毎ゲーム押し順を変えて特定フルーツ柄を狙う打法で、通常の二倍近い700枚弱のメダルを獲得してたはずや。
約二時間後、おっさんがそろそろ帰ると俺に話しかけ一緒に止めることにする。
確か、おっさんのおかげで一万円ほど勝てた感謝の気持ちで声をかけた。
「腹が減ったので、俺が払いますから一緒に飲みに行きませんか?」
「酒か、ええな。俺が、美味い店に連れてったるわ。若いヤツから
しかし、おっさんは気の良い人で笑いながら行きつけらしい飲み屋に入店する。
酒を
プロ仲間に「
さて、そろそろ出発するか。
回想してる間に午前9時を回り、いよいよ出発することにした。
訪れる店は、新装導入された表面的に特徴もない新台がありモーニングと呼ばれる
三枚掛けで左と中リール上段に大きな赤7絵柄が並ぶだけで、ボーナス確定となる単純明快な仕様も人気がある秘訣やった。
Ⅴ
開店前から並んだ昼過ぎ、モーニングセットを奪取し俺と源さんと
店に戻る理由もなく酒を飲め、そこそこ美味しい寿司屋に行くことを決める。
寿司屋に入り、適当なランチセットを頼み中生ビールを一気に空け一息付いた頃、源さんは俺と美夜子を見つめて話しはじめた。
「お前ら、いつ結婚するんや?」
「
俺は、半ば
「でも、似合うてると思うけどな。それに、お前らも俺みたいな年寄りになる前に、こんな世界から足洗うた方がええぞ。年末に基盤再封印されて裏モノは完全撤去や。簡単に稼がれへん冬の時代になる。
神妙な口調で源さんが語る言葉を聞き、隣の美夜子との出会いに想いを馳せる。
源さんやプロ仲間に隠すつもりもなく、割と大っぴらに美夜子と付きあってる。
思い返せば半年前の夕方、最近は珍しくもないが綺麗な女性客で、俺よりも年少に見える女が
当時から抜群の引きを誇る彼女が選んだ台は、直前までは入る気配もない波悪台。移動すれば良いと声をかけるため、隣席を覗き見る。驚いたが打ちはじめ数ゲームでリーチ目、簡単に言えばボーナスが成立した
気づいてないので、右から左手だけで「入った見たいやから、ちょっと見とき」と中段に7絵柄を揃えてやる。
感謝された俺は、色々説明しながら打ち続ける羽目になった。
結局、閉店前まで長時間打ち続け、俺は美夜子から幸運をお裾分けされ十万勝ち、良い波を巧く掴めた美夜子も三万以上の勝利で勝負を終えた。
勝利で、気も大きく美夜子を飲みに誘うと気が抜ける程あっさり了承した。
「仕事、辞めたばかりなの」
酒席で、深刻な悩みを打ちあけたい様子で話しはじめる。
よほど深刻なのか、そんなに飲んで大丈夫か心配してしまう大量の酒を飲んでる。酔いに紛れ、遊んでる風にも見えない美夜子をホテルに誘うと酔っていたかあっさり後ろに続いた。
俺たちは、その日以来の付きあいや。
その後、用事があると金だけを置き源さんが帰るタイミングを見計らい美夜子は、俺の内面を見定めようとして真剣な
「ねぇ、いつまで不安定な生活を続けるつもりなの?」
「俺にも、
俺には本当にどうしたら良いかも判らず、それだけ答えるのが精一杯やった。
俺の返答に、美夜子は「そう」と小さく呟くだけで会話を終えた。
Ⅵ
数日後、いつも通り早めに店を後にして珍しく単独で盛り場を歩いてた。
街に溢れる人間は、職種は様々で仕事の帰りに訪れたらしいビジネススーツを粋に着こなす
夕方の街角で当り前の景色が
しかし
数日前から部屋に戻らず、パチンコ屋に現れない美夜子の居場所に想いを馳せる。
やっぱり、
奇妙な
確か、少し前に通りがかった際は座ってなかったと疑問に感じたはずや。
じいさんも、どうやら彼の姿を見て首を傾げる仕草に気づいたか手招きしてる。
どうやら、
じいさんは、その場に座ってない様子にも見える。それでも奇妙な存在感を同時に漂わせてた。どこか、異質な空気を感じたことが理由かもしれん。
それに、不思議な理由がもうひとつ存在した。
これだけ人通りが多い繁華街で、じいさんを見てるのが俺だけなんや。
普通、これだけ変なじいさんを目にすれば
それが誰も、じいさんを見ようともしてない。
じいさんが座る状況を、誰ひとり認識していない様子に感じられて不思議やった。
少し、
実際、近づくに連れてじいさんから、どこか人間離れした気配を感じた。
しかし、見れば見るほど不思議なじいさんや。
机上に「占い」と書いてるけど、それらしい道具が載ってないテーブルに肘をつき椅子に腰かけてる。蒼白な長髪と
しかも、その姿とは好対照に思える金色に光る両眼をした黒い猫を膝に抱いてる。全体像が、不思議な調和を
「さて、お前さん。何を占って欲しいのかね。最近は、お客さん多いのぉ。お前や」
目前に立つ俺に、ニャーと鳴く膝上猫をあやしながら占い師のじいさんは呟く。
「
じいさんに、どこか親しみが湧き無駄を承知で半分ふざけた気持ちで応える。
「そうか、お前さんの運勢のぅ。なら、もっと良く顔を見せなされ」
すると、じいさんは見てる側も楽しくなる類の人好きする笑みで話しだした。
「
Ⅶ
辻占いは、手相が定番と考えてたんで顔面占いなんてあったかと首を
「そうじゃ。顔さえ見れば、人間の内面は大方判断できるさ。ところで、お前さん。
驚く俺を見て、しばらく考えた後じいさんは厳しい顔つきで話しだした。
「どうやら、
人生で起こった状況と、起こる事件すべて知ってるかの口調で話される。すべてを知られた気がして、なぜか狼狽えながら応じた。
「何で、俺のことが? ほんまに判るんですか?」
「そりゃ、当然だわぃ。
そこで一区切りすると、俺の瞳を見つめて続ける。
「そうさのぅ。ひとついえる言葉があるなら何もかも逆らうんじゃなく、少し相手の気持ちを考えれば良い結果を産むという予測じゃな。自身が、どう生まれ育ったかを思いだせば良いという助言ものぅ、お前や」
聞いた俺は、少し腹も立つが自身を見つめる良い
独りに戻り、じいさんの言葉を最初から考え直すつもりで
「待ちなされ!」
その
俺は、想像もしない怒鳴り声に驚いて、慌ててじいさんを見つめる。
「いやいや、大声を出して済まんかったのぅ。大して占いもしとらん。もらう訳にはいかんのぅ」
照れ隠しか、にこやかな笑みで
「最後に、参考まで助言をするかのぅ。お前さんは半年前に、今後の人生をやり直す一つ目の出会いがあったはずじゃ。この後すぐ今後の人生に可能性を与える二つ目の出会いをする。それに近い時期、今後を決定づける再会をする。いえるのは、今度は素直になれと
「そうですか? また、そのうち占ってもらいますわ」
俺には、じいさんの最後の言葉があまりに深すぎて、すぐには理解できずにいた。ただ、役に立つ助言だと感じたので感謝を込めて伝える。じいさんは微笑みながら、どこか寂しそうな遠い目をして応えた。
「お前さんが本気で、また
俺は、微笑んで会釈した。その後、本格的に動きはじめる
Ⅷ
じいさんと別れた後、懐からセブンスターを取り長年愛用で使い古したZIPPOライターで火を
すれ違いざまに肩が接触した見知らぬ男から、いきなり肩を押さえられて後ろから
驚きに振り返った俺は、男の顔を改めて眺めて
六年も会っていないが、殆ど変わってなかったためすぐに思いだせた。
男は大学三年当時、同じゼミに在籍して仲も良かった先輩やった。
先輩は、成績優秀で請われて大手ゼネコン大正建設に入社したはず。しかし現在、着ている服は聞いたことがない横文字がプリントされた作業着の上下。何があったか話しかける言葉を選んでると、先輩はここがどこであるかも忘れた様子で
「おまえ、生きとった。
俺は、しばらく何も返答できずにいた。
俺が、のほほんとパチプロで遊んでた五年間に、先輩は
先輩は、黙り込んだまま
「ちょっと、俺も忙しいてな。あんまり長話できんのや。まぁ、
その言葉を最後に名刺を押しつけると、先輩は
俺は何もいえず、その場に
確か、こんな言葉を話してたはずや。最初に、これから伝える話を良く聞けと。
次に、逃げてた俺に
最後の言葉、半年前に今後の人生をやり直す一つ目の出会いがあったはずやと。
これからすぐ、今後の人生に可能性を与える二つ目の出会いをすると。
これが、一番大事な話で近い時期に今後の人生を決定づける再会をすると。
今度は、自分に素直になることや、と。
じいさんが、深い意味を込めて伝えたと言葉の真意を理解した。
じいさんの言葉は、
Ⅸ
確かに、裏モノが消滅してパチスロで勝ちにくい近未来予想が、この世界から足を洗うタイミングやと最後に源さんも話してたし俺自身も同様に感じる。
それに、今後の人生をやり直すため半年前の出会いは美夜子に間違いなく、人生に可能性を与える二つ目の出会いをこれからすぐにすると伝えた言葉は先輩や。
ここまで、すべて当たってる。
なら、続く言葉が一番大事な話にも感じられる。
近い時期、今後の人生を決定づける再会をする。
自分に素直になれと話してた意味は? 誰と再会するんや?
俺は、慌てて美夜子の部屋を訪問するが相も変わらず誰もおらず、源さんを捜して心当たりの場所を回るが、大事な
途方にくれた俺は、疲れた足を引きずり自分の部屋に戻った。
すると、部屋の前に疲れきった顔をして俺が探し回ったことなど露知らず、帰りを一日中待っていたとでもいいたげな安心した表情を浮かべる美夜子の姿があった。
美夜子は、俺の顔を見つめて一瞬だけ泣きそうな表情を浮かべると、何も訊かずに着いてきて欲しいと告げた。
その後、疑問に思う俺が話しかけても何か答えることもなくタクシーを捕まえて、ある場所まで移動した。その場所は、関西でも
入院してた人間は、驚いたことに俺の親父で付添いの母も
しかも、病状は簡単に推測できた。親父の姿が、五年前から想像もできないほどに
親父の姿を見た俺は何もいえず、ただ立ち尽くした。
母は、疲労のためかテーブルに突っ伏して眠っており俺が訪れたことにも気づいてないし、この部屋に俺を連れてきた美夜子は俯いたまま立ち尽くして泣いてる。
親父は、何も話さず俺の顔を
「久しぶりやな。あの頃のお前は、子供のままやったが結構苦労した様子も伺える。
親父の言葉を聴いた
そうや。
美夜子は、十年以上前の話になるが親父に未来の結婚相手と笑いながら紹介された東北辺りの
美夜子は、親父に頼まれ偶然を装い俺に接触したんやろう。
ただ、俺を連れ帰るだけならば何もかも正直に話すはずや。
その時点で、はじめて親父が語る言葉の真意に気づいた。
好きな仕事をしても良いから、という言葉を伝えたいんや。帰ってこいの言葉も。
占い師のじいさんから
「長い間、御迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。できるだけ早く、可能なら今週中にも自宅に戻る予定です。それと、独立して設計事務所を経営している大学の先輩を手伝う状況になりまして今後、美夜子を泣かすつもりありません。近いうちに美夜子の両親に
少しだけ考えて、言葉を聞いた親父は弱弱しいながらも
それに、美夜子も俺を見て
その
お前さんは、この世界で大きな役割を果たすために選ばれた人間なんじゃ。
じいさんが放った言葉を深く考え、ひょっとしたらあのじいさんは本物の神様かと推測する自分がいた。
そこまで考え、心の中では
俺は、自分で可能な限り他人の役に立つ仕事を死ぬまで行い続ける。少しでも神に対する恩返しに繋がるならばそれで良い。そんな、自分に都合良い勝手な解釈をして改めて美夜子の温もりを意識した。
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