「前に進むためのリアル展開《現実》」

 この世界から、早く姿を消したい。


 すべてを捨てて、いなくなりたいと考えたのはいつの日だったか。

 人づきあいは好きじゃないが、誰とも話さない生活を望んでたわけでもない。


 小さい頃、生きるのがつらい時代は確かにあった。


 しかし、年月を経るに従い新たな関係が生まれては消えた。やがて、モラトリアム生活にも当たり前だったが終焉おわり瞬間タイミングが来る。


 就職先は、入社は面倒だが入ってしまえば適当に何とかなる公務員だ。

 しかも、ある意味では趣味の延長で採用された技術職であり国家公務員。


 一部、機密事項も含む特殊な職場なので入職時の調査は厳しかったと思う。

 半年あまりの長期、公安のプロが張りつく状況に気づいたのはいつだったか。


 高校を卒業後、専門校に通いながらクリエイターを目指すために仮の居住地として住所を手に入れるため選んだ、左派系新聞奨学生の過去が悪かったんだろうか。


 まあ、いろいろ調査されたが思想面でボロなんか出るはずなく問題なかった。

 採用通知が届き、家庭問題もあったから希望通りの神戸勤務だが住居は大阪だ。


 それはそれで、都合の良い部分もある。

 一か月間、中野警察学校で行われた研修も得る知識と情報が多かった。


 遊ぶための金は偶然、スロット専門店で拾えたのがありがたかった。

 怪しげな駅前店に、裏モノ機種で有名な初代バニーが生きてたからな。


 しかも、ありえない高設定挙動。本気で驚いた。

 古い友人ツレのあいつが、当時からよく打ってた機種Bモノだ。


 中野の売店に置いてあった小型ZIPPOライター。黒ボディに桜田門マーク。


 決めた。

 ヤツが、ハワイ土産でくれたガン標的ターゲットマークTシャツの礼だ。


 購入して後日、大国町の部屋で手渡すと大喜びしていた。


 バイセクシャルである事実、自覚した瞬間タイミングは子供時分であり別に恥じてもないが性的嗜好でマイナー分野、現代日本社会ではごく少数派だろう。


 勤務場所に、本物リアルがいた。彼は、男しか愛せないんだと宴席歓迎会で呟いていた。


 しかも、同期で年上で「同類」とは本当に面白い同僚だ。

 これが、運命ってモノかもしれない。


 大昔、高名な占い師から25歳までに「水にまつわる死」を迎えると予言された。

 25歳を超えて、俺の人生すべてが嘘くさく感じられて仕方ないし信じられない。



 そして新たに、決断した。

 運命を切り開くため、雪が降り積もる「行者の道」全行程を制覇し未来改変する。


 ゲイだが、正しく生きる権利はあると信じるため「世界を知りたい」と語った彼。

 納得できる理由だったし、俺にも共通する事情だったかもしれない。



「運命改変」

 途中までは、順調だったんだ。


 二人とも冬山には慣れてたし、準備は万端だ。

 申請に立ち寄った山小屋では、絶対に行くなと制止されたが無視して入山した。


 道なき道を上り、頂上付近に辿り着き休憩場所を探した瞬間とき、彼が消えた。


 あまりにも唐突だった。

 全身が、視界から消失したんだ。


 茫然自失ぼうぜんじしつ状態になり、彼の姿を探すため慌てて駆け寄る。


 重力足元が消えた。


 爽快感?

 消失感?


 あぁ。

 すべて終わるんだ。

 すべてが瞬間的に理解できた。



 神は……



 ここまで、白昼夢デイドリーム映像シーンとして見た日がいつだったろうか。


 中学時代から付きあいが続いていた旧友、中村が最期の瞬間に見た姿は何だった?

 本当リアルフィクションか判らずにいた数日後、旧友ツレの一人である林から連絡が入った。



 東通商店街で待ち合わせて飲み、近いうちに東京に行くと意表を突く言葉。

 自分が退職予定の設計派遣会社で、正社員にならないかと驚きの誘い文句だった。


 少し後、派遣社員として勤務中造船会社と契約満了する予定。

 見通し立たずの状況で、派遣先で知りあった須磨で個人設計事務所を経営しながら新開地で有名な風俗店も他人名義で運営する若者の才覚を見た。

 否応なしに、自身の能力値と限界を悟らされたばかり。


 林に誘われた会社は、淀屋橋時代の別部署上司が勤務している。実務もやりやすく当面は派遣でなく内勤らしいが、給料遅配が当たり前のブラック企業に間違いない。

 一度、入社するとアリ地獄同様の未来予想図しか描けない仕事で会社だ。


 林に、何のため東京に出るのか尋ねたが、なぜか答えが明確ではない。

 キタのキャバクラ嬢を介し、知己を得た関東の実業家。口ひげを生やした、西上か西神かカネ周り良い男で新宿勤務らしいが話を聴くだけで妖しさしか感じられない。


 少し考えてみた「未来予想図」は、設計技術職ではないだろう。

 これから何をやるか、ゆっくり考えることを決めた。


 林から紹介された再就職話を断り、再会を約束したまま十年以上が経過している。


 数年後、用事で連絡した携帯も実家も音信不通――



 四半世紀前、俺たち三人が各自の物語となる空想世界を構築していた昭和時代。


 クリエイターを目指して、互いに切磋琢磨せっさたくましあった関係でもないが彼らは漫画を、俺は小説を創作クリエイトしていた。



 すべてが、突発の単車事故アクシデントで変わった。いや、終わった。


 あの日、入院先で見つけた「少女向け小説誌」だ。

 平均的と記されて、才能はないと評価された封筒が後日届いての結論だった。



 しかし、仕事が落ち着いた何年後だったか、再び新書小説を手に取る。

 デビューから欠かさず読んでいた冒険ファンタジー小説未読、全巻購入勢い読破。


 その後、インターネット世界と巡りあえた。仮想現実チャット世界と出会った。



 そして、時代は流れた。様々な経験、段階を踏んでの再会だったのか。

 現実リアル世界ワールドで、リアルに直接対面した関係ではないが、すぐ目の前にいた。


 中村の、師匠マスターである高名な漫画原作者の大先生。

 当時、口をっぱくして中村が俺に伝えていた記憶がある。


 どこかで絶対に出会う相手。創作世界、この業界内で最重鎮さいじゅうちんだ。


「必ず、大先生と呼んで敬えよ。何があっても何をいわれても敬意を示すんだぜ」

 それだけは、絶対に守れよと何度も何度も俺に伝えていた。



 そして――

 パチスロライター来店イベントに参加、取り返せない負債をらった後だ。


 深夜のミナミ界隈、商店街を通り幹線道路を越え寺院が並ぶ寺町を抜けた住宅街。

 長い階段の手前にいるはずがない人間、あるはずがない「異世界」が見えた。



 何もない路地に、占いとだけ書かれた粗末な机。椅子に腰かけた白髪に長い顎鬚の占い師が座っていた。膝上に黒猫がたたずみ、金色の双眸で俺をめつけてたんだ。


 占い師のじいさんは、恐れる理由はないからと淡い笑みを浮かべ手招きしている。


 大昔、俺が創造クリエイトしてえがいた姿形、すべてが空想世界ファンタジーそのままの登場人物キャラクターだ。


 なぜ、目の前に存在してる?

 俺の創った妄想話が、現実リアルに存在しているはずがない。


 信じられない。

 現実なのか?


 神の啓示が、俺にもくだるのか?

 しかも、幸せに至る「助言アドバイス」で――



 覚悟を決めた。いや、ずっと待ってたのかもしれない。


 先に待つ、明るい未来。

 トラックにかれ転生なんて妄想は、あり得ない現実リアルだが人間誰しも夢は見たい。



 俺は、一歩を踏み出す。新たな幸せに向けて――

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