第3話 幼馴染み♂を売る その11

『どうしたの? 本当に風邪だったりする?』


 ルミナが個人チャットで聞いてくる。文字だけでも、ルミナの――要の心配げな様子が伝わってきて、俺は返信のチャットを打ち込みながら、自然と口元を緩ませてしまう。


『平気だよ。明日提出の宿題があったのを思い出していただけ』

『あ、だったらもう今日は落ちる?』

『うん。でも、その前に……』

『その前に?』

『お嫁さんからのお休みのキスとか、ないのかな?』

『馬鹿』

『ないの?』


 少しの間があって、


『ちゅ(*˘ ³˘)』


 顔文字付きの一言。そしてすぐさま、照れ隠しのような速度で、


『これでいいだろ。なにやらせんるだよもうばか!』


 と続いた。

 後からログだけ見てもいまいち盛り上がらないかもしれないが、俺も光もいまはこれが限界だった。


『はは、悪かったよ。でもありがとう、これで宿題が頑張れそうだ』

『なに言ってるのさ、ほんと馬鹿!』

『ははは。じゃあな、また明日。おやすみ』

『うん、おやすみ。旦那さま』


 そしてハートを飛ばす感情表現。

 個人チャットは二人にしか見えないけれど、感情表現は周りにも見える。だから、ルミナの頭上にハートが浮かぶとすぐ、周りから冷やかしのチャットが飛んできた。


『おやおやー? 二人で内緒話してたのかな、やらしー』

『あー暑い暑い』


 そんな冷やかしに混ざって、タラカーンからの個人チャットも飛んできた。


『いまのログ、後で見せてくださいね』

『分かってるよ。明日な』


 俺は返事を返すと、これ以上余計なことを言われる前にさっさとログアウトした。

 ふぅ、と溜め息が口を吐いたところで、携帯がぶるっと震えた。見ると、光からのメッセージだった。


『宿題、頑張ってね』


 俺はうっかりその文章を、ルミナが微笑みながら言っているように脳内再生させてしまうのだった。

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幼馴染み♂がネトゲ嫁! 雨夜 @stayblue

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