第2話 幼馴染み♂は俺の嫁 その6
それからさらに何度かの移動を繰り返し、俺たちはオアシスに来ていた。
街外フィールドなので
光の言葉を借りるなら、
『ここは隠れた絶景スポットなんだ』
という場所だった。
俺と光……クラッシュとルミナは萌葱色の下草に二人並んで腰を下ろす。
『なんか、ごめん』
俺はまず最初に謝った。
少しの間を置いて、ルミナの頭上にもチャットの吹き出しが表示される。
『何に対して?』
『え、いや……おまえの仲間に勝手な啖呵を切って、連れ出すみたいなことになっちゃったことを謝るべきかなと』
『それは謝らなくちゃいけないことなの?』
『違うのか?』
俺はしばし考えた後、そうチャットを打ち込んだ。
それに対する返事は……ない。ルミナは黙ったままだ。
『あれ、光? いないのか?』
やっぱり反応はない。
パソコンの前から離れているのかなと思ってしばらく待っていると、携帯が鳴った。液晶を見ると、光からだった。
「光、どうかしたのか?」
俺は着信ボタンを押してすぐさま、そう尋ねた。
ゲーム画面の中にはまだ、クラッシュとルミナが隣り合って座っている。これまでだったら、お互いともゲームにログインしているときに光が電話してくることはなかった。ゲームしているときはゲーム内でのチャットのほうが、光はやりやすいのだろうな……と思っていた。
それがいま、ログインしている最中に、しかもただ座っているだけで忙しい操作を要求されているわけでもない状況で、メッセやメールではなく通話してきている。チャットを打ち込むよりも緊急に伝えなければならないことがあるのかと、俺は身構えていた。
「あのさ、要……」
電話の向こうの光は、少し聞き取りづらい籠もった声音で言う。
「うん、どうした?」
「……明日、暇か?」
「ん? うん……まあ暇だな」
「だったら、ちょっと付き合ってくれないか?」
「どこに?」
「えと……観たい映画があったんだ」
いま、答えるまでに間があったような気がするのだが……と小首を傾げている間にも、光は話を続けた。
「そういうわけだから、明日、駅で待ち合わせな。時間とか詳しいことは、また後で送るから」
「お、おう」
俺が返事したのを聞いたのか、いないのか――通話はそこで一方的に切れてしまった。
……と思ったら、ゲーム画面の中でルミナがチャット発言をした。
『ありがとね』
そう一言だけ発すると、ルミナの姿は空気に溶けるようにして消えた。ログアウトしたのだった。
俺はただ一人、取り残された気持ちにされる。
しばらく待ってみたけれど、ルミナが再ログインする様子はないし、携帯に電話がかかってくることもない。それなのに、一門の男どもからは個人チャットが飛んでくる。でも、チャット欄につらつらと表示される文字を読む気にはなれず、俺もその場でログアウトした。
ゲームプログラムの終了処理が行われている間に、携帯のほうで光に、
『俺もログアウトしたから』
そうメッセージを入れておいたけれど、反応はなかった。
光からの返信があったのは、もう寝ようとして布団に入ったときだった。待ち合わせの時間が書いてあるだけの簡素極まるものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます