第16話このままで
あの頃の私は自分のことしか考えてなかった
若かったから
そんな馬鹿みたいな理由はきっと一生つけられない
竹田君は私にひどいことをしてしまったと謝って
それきりもう二度と私と会ってくれることはなかった
ひどいのは私だったのに、うまく謝ることも出来なかった
竹田君はバイトもやめてしまって、シイナにいろいろ聞かれたけれど
答えようもなかった
あの日、竹田君は避妊をしなかったから私は生理がくるまでおろおろしていた。不安だったけど、もし妊娠したとしても竹田君に言うつもりはなかった。結局いつも通りにはじまってトイレでしばらく動けなかったことを覚えてる。
梅兄に対する想いとは違うけど
私は一緒にいるとほっとする竹田君が本当に好きだった。でもそれは竹田君が欲しかったものと違っていて、竹田君の想いに答えてあげられなかった
それなのに私は自分の気持ちを受け入れてくれた竹田君を心の拠り所にしていたんだと思う。浅はかで馬鹿で、それは今も変わらない
梅兄のことになると
頭の中が混乱した
なんでどうしようもなく梅兄でないとだめなのか
もうよくわからないほど長い時間好きになってはいけない人を好きで
誰にも知られないようにしてきて
もちろん梅兄にもそんな素振りすら見せないようにして
あの熱の日は妹としての甘えだと思ってくれたから大丈夫なはずで
誰にも
自分すら上手に誤魔化してし過ごしてきた
想いは叶わなくていいって思うようにしていた
梅兄が幸せならそれが私の幸せだとそう思うようにしていた
そうやって
穏やかにこれ以上何も起こらないように静かに生きてきた
友達と時々会ってはしゃいで
仕事場の人ともそれなりに楽しくやってるし
ツナマヨさんには愚痴だってこぼせてる
家族だって、普通に仲がいいだろうし(離婚の危機とかないし)
何より楓さんがいる
私と梅兄の大好きな楓さん
これで十分
このままでいい
梅兄は出張が多いし、朝から晩まで仕事だったから今日みたいに急に帰って来るなんて日でなければちゃんと心構えだって出来た
いろいろぶわっと思い出して、少し落ち着いて、外を見ればはっきりと突き抜けた青空が窓の外に広がっている。夏の空の遠くに見える入道雲を見るのが好きだけど
ここから見えるのはただ青い空だけだ
もう大丈夫
待ち焦がれているけれど
梅兄の前ではただの妹のサクでい続けられる
「サク、ボンヤリしてるなら梅の布団でも干しておいて」
台所から楓さんの声が聞こえる
「わかったー」
梅兄が帰ってきたのは夕方で
「途中で寄ってそのまま連れてきた」
「お邪魔します」
スミレさんも一緒だった。早く帰ってきた母と父、楓さんに私も入れて六人での賑やかな夕飯になった。楓さんは梅兄の好物のニンニクと生姜でたっぷり漬け込んだ唐揚げと庭で採れたオクラ、シソ、ナスの天ぷら。大根おろしは私が山のようにすりおろした。他にふわっと玉子の汁物に、キュウリとワカメの酢の物。マヨネーズにお酢と塩胡椒をまぜて作ったポテトサラダとキュウリとナスの漬物
スミレさんは楓さんの料理をとてもおいしそうに食べてた。時々梅兄と顔を合わせてにっこりと笑う幸せそうなスミレさん
好きな人がいて
好きな人も自分のことが好き
どれくらい幸せなんだろう
人生の中で奇跡でも起これば私にも経験できるだろうか
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