第5話トーヤコーチ

翌日は晴天

サッカー日和だ。少し雲があってもいいのになんて思う

今朝の朝食は

「そりゃアジでしょう、さくちゃん大根おろしはいるかい」

「いる、ありがと」

ふっくら焼けたアジと大根おろしとご飯

大根の味噌汁と、きゅうりのぬか漬け

漬物といえば、夏は断然スイカが美味しい

スイカは食べたら白い部分をぬか漬けにする

あっさりしていて大好きだ

「今日は朝から仕事だっけ」

母は急いでいるのか、味噌汁にご飯を入れて食べだした。

「今日はちびっこのサッカー大会、朝から集合で夕方まで」

「言ってたやつね、日焼け止め塗っておきなよ。年取ったらしみだらけに

なっちゃうからね」

なんて言いながらあっという間に食べ終わると、母は

「ご馳走様でした。母さんおいしかった」

「そりゃあよかった。あんたはせわしなさ過ぎだよ」

「かあさんとは生きてるペースが違うからね、はは」

じゃ、行って来るってさっさと出て行く。

「途中でお腹が痛くなればいいのに」

そう言うと楓さんが笑ってうなずいた

今日は休みでパジャマのままの父も

「昔からあれだからなあ、今さらゆっくりになってもなあ」


何かあったんじゃないかって思っちゃうよ

そう言って笑った


8時前にはスクールへ。30分から受付が始まる

「園田さん、昨日はお疲れ様」

トーヤコーチが外に張り出すトーナメント表の準備をしていた

トーヤコーチは川口塔矢といい、スクールの主任で全ての学年の補佐もするし、コーチの指導もしている。

大学時代はユースに選ばれたぐらいすごくて、周りはプロにいくんだろうと思っていたらしいけど、トーヤコーチがしたかったのは子ども達のサッカースクールを開くことだった。サッカースクールを作りたかった上条さん、その息子さんと高校時代同じクラスだったのが縁となったらしい

スクール開設時から働いているゆかりさんからそう聞いたことがあった。ゆかりさんは私と同じ受付で、素敵な先輩だ。

トーヤコーチは子ども達からダントツ人気だ。幼稚園クラスでまだ慣れなくて緊張してる子どもも、トーヤコーチが話しかけると不思議なくらいなついてしまう

魔法でも使ってるんじゃないかと思う

トーヤコーチがボールを持つと、子供達が何人かかってきてもなかなかボールを奪えない。いつ見てもすごい。最後は子供達が服をひっぱたり、足をつかみにかかって取られる

「ずるいぞー」

なんてにこにこ笑ってる。トーヤコーチは知らないけど、ママさん達で隠れファンクラブも作られている


「おはようございます。ビブスは事務室です」

今日使うビブスは赤、青、緑、黄色、白で、各色に付いている背番号が1から5で1チーム、6から10で1チームだ。合計50人分。結構な人数だ。

「わかった、そろそろ子ども達が来るころだから、受付よろしく」

「はい」

他のコーチ達もコート内で準備を始めたりしている。


ちょっとした開会式でトーヤコーチが挨拶と簡単な注意を話して

にぎやかな試合が次々始まる。


フットサルコートが4面

ネット越しにビデオやカメラで撮影してる保護者

大きな声援がこだまする

参加する子達の弟妹たちがちょろちょろと

周りで遊んでる。

ときどき、雑草で作った何かを受付けに持ってきて

「あげるー」

ちょっとしたプレゼントをもらえたりする。


日差しが暑い中

コーチ達も笑顔で走り回っている

なんて

平和なんだろうと思う


受付が終わって大会が始まってしまえば、私の仕事はトイレの場所を案内したり

怪我した子の応急手当をしたりするぐらいだ。




夜、ツナマヨさんからメールが来ていた


件名:参った


「いやあ、練習中に張り切りすぎてやってしまいました。

捻挫!捻挫です。足が俺の足なのかと?というぐらいぱんぱんに腫れています。

病院まで、他のコーチが車に乗せてくれなければ野垂れ死にしてました・・

今日は痛み止め飲んで寝ます

奥さんに「仕事あんのにバカダネー」笑われました(涙)」


ツナマヨさん、捻挫かあ・・メールしなくてもよかったのに

お大事にって返信する。明日仕事なのに大丈夫だろうか


捻挫は梅兄も昔やったけど、氷水の入ったバケツに足をつっこんだまま病院に

行ったっけ。梅兄ってこんな時絶対泣かない

油汗を流して苦しそうな梅兄に、私のほうが泣きそうだったっけ


梅兄元気で頑張ってるのかな

ちょっとだけ梅兄に会いたくなる


ちょっとだけ














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