第2話黒コショウ
件名:こっちはこれから仕事です
「野球日和なお天気ですね、ツナマヨさんのところもお天気すぎですねー!
暑い中での試合ですね、ケイゴくんが活躍できるといいなあ
さて、昨日のタカシくんのお母さん、ママ仲間に話しててその火の粉がこっちに飛んできたんです
どうも、ご主人がガールズバーみたいなところに行ったのをタカシくんママが知ってしまって、問い詰めたら逆ギレされてしまったらしい。ひどいですね
タカシくんママはえらい怒ってて、
「サクサクさんも、100%主人が悪いって思うわよね!大体うちの人っていっつもこうなんだから!」
いろ~んなご主人の不満を聞かされました(困)コレモ仕事デスネ
レッスンが終わるとママ達とお子さん達はご飯を食べに行ってしまいましたが・・
今日はタカシくんはレッスンないからいいけど、明日は低学年のサッカー大会があるから来ちゃうかな・・タカシくんのパパさんもいつも来るし・・はらはらです
今日は明日の準備があるからちょっと大変なんです。
それではまた」
洗濯機が回っている間にパソコンを開いてツナマヨさんに送る。
洗濯が終わったので、2階のベランダで干し始める。
梅雨も明けて、洗濯物を干している腕にジリリと太陽の日差しが当って、焼けていく音がする。日焼け止めを塗ろうか迷ったけど面倒だからそのまま干してちょっと後悔した。
このまま暑いとすぐにセミが出てきちゃうんだろうな、洗濯干すのが怖くなる季節だなあ・・セミってなんでベランダに飛び込むんだろう
洗濯物は少ないから干すのに十分もかからない。でも首にじとっと汗がにじんで、頭のてっぺんはあつあつだ。あとは簡単に居間に掃除機をかけて買い物へ行く
園田家は昔ながらの町にある。隣り近所も昔から住んでる人がほとんどだ。
日中、細い路地の軒下では、たいてい誰かが座っていて、通る人をつかまえて世間話が始まる。顔なじみの配達員さん以外通ることだってあまりない。ただでさえ狭いのにどこの家も大小様々な植物の鉢植えを置いている。とにかくごちゃごちゃだ。そして同じ町だけど、町の真ん中を流れる小さな川をはさんだ向こう側は、十年前から開発が始まり、家族向けのマンションや戸建が次々建った
少子化の時代には珍しく小学校や中学校も新設された。幼稚園や保育園は5,6園あるはずだ。古くからのこっちに住むお年よりは川向こうの人達を「新しい人」っていまだに言う。ちょっと信用してない感じかな。まあこっちだって、時々古い家が壊されて、少し広い土地だとあっという間に2,3件の建売住宅が出来てしまう。人が増えれば店も増えて、駅前にあった寂れていた商店街は取り壊され4年前に大型ショッピングモールが出来た。そんなどこにでもあるような町で育ってきた
ショッピングモールには行かずに駅とは反対にある昔からの小さなスーパーに自転車で行くことにした。楓さんはこのスーパーで作っているおはぎが好物なのだ
アジを焼き忘れたお詫びに買うつもりだった
「さくらちゃん、おつかいかい」
向かいに住んでいる新藤さんに声をかけられる。水がめの中のカメにえさをあげている。新藤さんは腰がもうじき九十度に曲がりそうなおばあちゃんだ。年も楓さんより多分十歳は年上な感じ。でも口調はしっかりしている元気なおばあちゃん
「おはようございます、ちょっと買い物」
「お釣りごまかしちゃいけないよ」
しませんよ、ていうかしたことないですよ。ごまかしたのがばれて夜まで外で立たされたのは梅兄ですよ。梅兄が小学校5年の時、クラスでなぜかリストバンドがはやって梅兄も欲しくてこづかい稼ぎにお手伝いを頑張っていたんだけど、どうしてもすぐ買いたくて
「お釣りを落とした」
うそをついた
すぐばれた。
楓さんも母も挙動不審の梅兄のうそを見破るなんて造作もなかった。
えらい怒られてたのを覚えてる、めちゃくちゃお尻叩かれてたっけ。
涙も鼻水もよだれも全部流しながら大泣きして謝る梅兄と、鬼のように怒鳴りつける母を見て、一生お釣りはごまかさないって子ども心に誓ったくらい怖かった
結局、しばらくして父がちょっと援助してあげて買えたらしい。父は家族で男は自分と梅兄だけだから、男同士のなんたらみたいなところがあったのかもしれない。
あんなに梅兄が怒られたのを見たのは後にも先にもこれだけだった。もともと温厚な性格で大人の気持ちを先回りして読むタイプだから、よっぽど欲しくて仕方なかったんだろうなと思う。
スーパーに着くと店長の小林さんがペットボトルを並べていた。スーパーの名前は「スーパーコバヤシ」小林さんは二代目だ。ここで買い物をするのはお年寄りが多い。というかほぼ年寄りしかいない。若い人はショッピングモール内に入っている大型スーパーで買い物をする
でもスーパーコバヤシは昔から来てるからどこに何があるかわかるし、店も小さいから大型スーパーみたいに歩きまわらなくていいし、何より私もここのおはぎが好きだった。おはぎは小林さんのおばあちゃんの手作りだ。私が子どもの頃すでにおばあちゃんだった。つぶあんとこしあんでちょっと迷ったけど、どっちも買うことにする。
買い物を終えて家に戻り、買ってきた食品を片付けたら仕事へ行く時間まで暇だ。居間の畳の上でごろっとなって、図書館で読みかけた本を読むことにする。ヒヤッとした畳が気持ちいいし、家の中で一人ってなんか伸び伸び出来る。今読んでいるのは軽く読めるミステリーだ。最近読むのは後に残らないものが多い。重いテーマとか、恋愛ものは読む気にもならない。
ちょっと集中力が無い時期なのかもしれない
あとちょっとで事件のトリックが解決されるかなというところまで読んで、いったん本は閉じる。続きはお昼ご飯を食べながらにしよう
楓さんや母がいると
「行儀が悪い」
絶対させてくれないから一人の時だけの楽しみだ
お昼ご飯の準備を始める。食パンにマヨネーズをぬってレタスと薄っぺらなハムを2枚乗せて、上に黒コショウを結構かける。最近黒コショウにはまっていて、オムレツやお好み焼き、餃子はお酢が多めでコショウをたっぷり。とにかくあいそうなものに片っ端からかけている
コショウのぴりっときいた、サンドイッチを片手で食べながら続きを読んだ。
犯人を当てられたことは一度もなかった
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