ツナマヨさんへ
さくらえび
第1話目玉焼き
件名:こんばんは
「今日はちょっと大変でした。
あのたタカシくんのお母さんが来られて
タカシくんがレッスン中ず~っと
ご主人のグチを聞かされ続けるはめになってしまったのでした(汗)
ツナマヨさんは明日はやっと週末で
お楽しみですね!」
ちょこっとだけの文を打って、ちょっと考える。
グチの内容は書いたほうがいいかなあ?
それを書くと長くなるし、ツナマヨさんにちょっと迷惑かな?
これで送信しよう。
ツナマヨさんとはネットでやりとりしていて、そろそろ2年になる。
私はサクサクという名前だ。きっかけは私とツナマヨさんがブログを始めた日が同じだったから。
同じってことで何度かお互いのブログを行き来していたけれど、そのうちブログでのやり取りからメールでのやり取りになった。
私が仕事の悩みを書いたときに、ブログに付けていたメールに長い文でツナマヨさんが、いろいろ書いて送ってきてくれて、その返事をメールでしたのが始まりだった。
ちょっとしたひまつぶしだったり、知っている人にはあまり言いたくないけど、仕事の不満なこととか、何気ないことを書き散らす事で、気晴らしにでもなればいいかなんて思ってたのだけど、そのときはかなり感情的な文面になってた
そんな私に穏やかな言葉で、それでいてちょっと笑ってしまうメールをくれたツナマヨさん。
読んだからといって悩みが解決することはないけど、気持ちの持ちようがころっと変わったのを覚えてる。そんなツナマヨさんは自称45歳。うちの母より4つ年下なだけだ。息子のケイゴくんが少年野球をしていて、そのコーチもしている。子どもの顔はおにぎりの絵で隠してブログによく試合の様子をのせている、変な動きをしてる息子くんの写真が多いから面白い。
返事が返ってきた。
件名:おお!
「あのいつもの話題の
タカシくん母ちゃんですかー!
そりゃお疲れだったね。同情するよ。
俺の周りにも結構な親御さんはいるぞ。
野球の車出しで、親が車出すんだからうちの子を
試合に出せ~なんて(笑)
笑えんよ・・
いつもはタカシ君に対するコーチへの不満が多いのに
旦那と何があったんでショ?
そうそう
明日はやっと休みです。ケイゴの調子がいいから
親としてはチョット楽しみ」
ふふ
やっぱり気になるとこだよね、明日書きますよ
そっか、ケイゴくん調子いいんだ。ケイゴくんは小学校5年生でツナマヨさんの下の息子くん。中学1年生の娘さんもいて、こちらはソフトボール部で頑張ってるらしい。娘はだんだんわからんようになるんだろうかとおろおろし始めていて、そこだけは女子の立場としてアドバイスがしてあげられそう。
今日は私からツナマヨさんにメールしたけど、逆もある。決めたわけではないけれど、長々とやり取りすることはなかった
だから続いているのかもしれない。私も結構なめんどくさがりやだから
これぐらいがちょうど良い
パソコンの電源を切る
時間はもうじき11時半。そろそろ寝ないと明日は早い
寝る前に台所へ行くと、楓さんが起きててびっくりした。楓さんは祖母だけど、ずっと楓さんと呼んでいる。
「あら、さくちゃんどうしたの?寝れないの?一緒に一杯やってく?」
一人で晩酌してるし
「楓さん、明日佐藤のおばさんとかと朝から集まるって言ってなかった?」
「そうだよ、いつものメンバーだよ」
焼酎のんでるし、ロックだし
楓さんは今年で75歳になる
「ロックって、胃にくるよ。水割りにすればいいのに」
「生きてんのにさ、わざわざ不味いもん飲みたかないよ。イツキさんの分まで美味しいもの食べて飲まなくちゃ」
イツキさんは楓さんの亡くなった旦那さん。私の祖父だ。おじいちゃんと呼ぶと怒るから、祖父のことはイツキさんと呼んでいる。だけどイツキさんの思い出は私にはない。3歳の時に死んじゃったから。梅兄はちょっとだけ覚えてるらしい
「竹とんぼを小刀で作ってくれたの覚えてんだよなあ、あと手がでっかくってさ、ごつごつしてて、あったかかった」
梅兄は梅太郎という、私の2つ上の兄だ。ちなみに私の名前は桜。だからネットはサクラから取ってサクサク。やや不器用な人生を歩いてきてる気がするから、せめてネットではサクサクっとしてたいと思って
でもそんなに人の心の内側って変われないから、地味で暗い感じが文字と文字の間でにじみ出てるんだろう。私のブログはさして面白くはなかった。だから、同じ日にブログを始めたっていうだけで親近感を持ってくれて、今も付き合ってくれているツナマヨさんはありがたい存在なのだ。
「何?どうしたさくちゃん?あたしでよければ聞いてあげるよ」
「違うよ、そろそろ寝るからトイレ」
楓さんはたくあんをぼりぼりかじってる。この年でほとんど自分の歯だからすごい。
「楓さんこそ、今日は夜更かしだね」
「たまにはね、明日何歌おっかなあなんて考えてたら目が覚めた」
もしかして
「朝からカラオケ?」
「そうよぅ、朝だからいいんだよ。腹から声出して歌ったら昼ごはんはかなり美味しいだろう?」
「元気というかひまというか」
「どっちもあるから楽しめるんだよ」
「そりゃそうだ」
楓さんを残してトイレに行って布団に入る
私は楓さんのような年の取り方が出来るだろうか?
無理だろうなあ、第一性格が違うし、生きてきた時代も違うしね。
寝つきだけはいいほうだから
あれこれ考えるまもなく眠りに落ちた
今朝は早い
5時には起きる
起きたら台所で朝食の準備を始める
園田家では朝食は家を出るのが遅い人間が作る。今日は午後から仕事の私が作る。冷蔵庫のカレンダーに各自の予定が書き込まれてるんだけど大体楓さんが作ってくれる。まあ、あんまりいつもだとあれだからね。
梅兄は結構作ってくれるんだけど、出張で来月までうちにはいない。
両親がずっと共働きで忙しかったから、家事は楓さんが引き受けてた。
ちなみに母はとにかく手抜きだし、そもそも料理はど下手だ。料理だけでなく家事全般にそもそも興味がないらしい。素敵なお母さんからほど遠い存在だ
鍋に水を入れて、かつおと昆布といりこをほりこむ。ほんとはちょとつけておくといいんだけど、めんどくさいから火をつける。今日は目玉焼きにするから、みんなが起きてから焼こう。
玄関まで朝刊を取りにいく。誰もいない居間でテレビをつけてコーヒーを作って新聞に目を通す。気になる記事は特にないけど、スポーツ欄でサッカーと野球の記事は読んでおく。野球はツナマヨさんの影響だし、サッカーは私の仕事に関わるからだ。私は自転車で15分ぐらいの場所にあるサッカークラブで受付の仕事をしている。だから、コーチやレッスンを受けに来る子ども達と、ちょっとしたサッカーの話は出来たほうがいいかなっていうぐらいだけど
午前中は主婦層を中心としたフットサル教室で、午後からは幼稚園や小学生を対象とした教室。夕方から夜の10時までは学生や社会人がフリーで借りたり、大人のサッカー教室もやっている。シフトは9時から4時までと4時から夜の11時までだ。今日は4時からだから午前中に洗濯して、楓さんに聞いて夕飯の材料を買いに行くつもり。洗濯も掃除も料理も子どもの頃からやらされていたから、いつでも一人暮らしをする自信はちょこっとだけあるかも
6時を過ぎると母と父が起きてくるから味噌汁を作ってしまう。今日はキャベツをざくざく切っただけにする。キャベツって火に通すと甘くなるから好きだ。あと、うちは必ずワカメは入れる。ネギも入れよう
「お、早いなあ、今朝はさくのごはんか」
「おはよう」
先に父が起きてきた。父は今年で確か53歳、近眼も老眼もあるから遠近両用の眼鏡をつけている。母にレーシックにでもすればいいのになんて言われて
「目の中を切るなんて想像しただけぞっとするよ、僕は眼鏡で十分だなあ」
「いやだ、怖がりねぇ」
そんな母の視力はよかったけど、仕事でパソコンを使うから目が疲れるってぼやいてる。
私は味噌汁に火を弱めて、フライパンにベーコンと卵を4つ落として目玉焼きを作る。ご飯は昨日炊いた残りだ。炊いてすぐに保温を止めると2日目のご飯の独特なにおいはしなくなる。あったかいご飯を食べたい人は自分でレンジでどうぞだ
「オハヨー、あら、目玉焼き」
「母さんおはよ、今日は私が朝食」
起きてきた母はすでに着替えていて、化粧も終わらせている。父はパジャマのままで新聞を読んでいる。楓さんも起きてきた
「おはようさくちゃん、なんだい手抜きな朝食だねぇ。そこは母さんに似ちゃいかんだろう」
楓さんは今日は焼き魚の気分だったらしい。そういえば冷蔵庫にアジの干物が入ってたっけ。気づかなかったことにしておこう
「やだお母さん、さくは私より全然ましよ」
母と父は楓さんをお母さんと呼ぶ、父にとってはお義母さんか。サザエさんでいうマスオさん、結婚が決まった時に楓さんが
「お金を貯めるなら同居しなよ、子どもでもできればえらいかかるからね。貯まったら自分達の家を借りるなり、建てるなりすればいい」
母は結婚しても仕事を辞める気は全くなかったから、生活費は出すから家事は勘弁してと楓さんに懇願したそうだ。父はというと
「僕は母子家庭だったから、家族が多いのはなんだかわくわくするね」
結婚してすぐに母は梅兄を妊娠して出産、2年後に私が産まれて子育てはほとんど楓さんがしてくれた。その頃すでに病気がちだった祖父のイツキさんも随分子育てに関わってくれたらしい。覚えていたかったな
4人そろってご飯を食べ始める。いつもとはいかないけど、楓さんは揃うときぐらいは一緒に食べておいたほうがいいんだよって、
それにみんな一緒のほうが美味しいから
でも、1日1回でも家族が揃って食卓を囲むことが出来る家族って、どのくらいいるんだろうか。朝は早くて夜は遅いお父さんなんて、小さい子と一緒になかなか食べることって出来ないんじゃないんだろうか。サッカー教室でいろんな母子を見てるとそんなことを思ってしまう。小さな子どものいる家族の、多くの平日は母子家庭が圧倒的だ。
「次はもうちょい黄身がとろっとがいいわ、さく」
「私は火が通ってるほうが好きなんだもん」
母さんは卵にはうるさい。炒り玉子にしちゃえばよかった。
「お母さんだって、とろっとがいいでしょ」
すぐ楓さんに振るし
「どっちでもいいよ、焦げてなければね、あんたもさっさと食べないと仕事に遅れるよ」
楓さんはもう食べ終わってる。母さんは仕方ないかってソースをかけて食べてる
私は塩コショウで、楓さんと父は醤油。楓さんはお酢をかけることもある
目玉焼き一つとっても揃わないもんだ。ちなみに梅兄はマヨネーズが大好きなので、ソースにマヨネーズ派だ。冷蔵庫には大きいマヨネーズが置いてあって梅兄専用ってマジックででかでかと書いてある。
食べ終わると父と母は仕事へ、楓さんもカラオケに行ってしまった。
さて、洗濯回すとしますか
こんな感じで園田桜の1日は始まる
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