ピアッサー
山賊をやっつける。
ことの外形だけを見れば確かにそうだ。
レイフォルスは生命と財産を脅かすならず者どもを返り討ちにしたにすぎない。
同じような状況で、ミシェル自身他者の命を奪ってきたばかりだ。
どう違うのかと訊かれて、明確な答えを出せる自信はミシェルにはなかった。
だが――
「これ以上はやりすぎです」
レイフォルスを見据えて言った。
「彼らは既に戦意を失っています」
後方の山賊達に視線を送る。
“ピアッサー”の脅威を目の当たりにした彼らの表情に、生気はない。
逃げ出す気力も失っているようだ。
ミシェルは語を継いだ。
「もはや抵抗はしないでしょう。このまま捕縛して、村に連行すれば良いかと存じます」
「困ったなぁ」
うーん、とレイフォルスは腕組みをした。
「山登りしなくちゃならないんだよねぇ」
「……は?」
予想だにしない会話の流れに、ミシェルはつい失礼な反応をしてしまった。
「ほら、おやつをきみにあげちゃったでしょ? お腹が空くと臍を曲げちゃうから、山に入る前に腹ごしらえしなきゃならないんだけど……」
あげたと言われても、彼から贈られたものといえば、ミシェルには一つしか心あたりがなかった。
「まさか――」
これまで目にした光景、レイフォルスの言動。
様々な事柄が今、ミシェルの脳裏で繋がり、“華の剣”は身構えつつ口を開いた。
「臍を曲げるのは、その『針』ですね?」
「そうだよ」
魔針の主は、相棒を軽く上げて見せた。
「こいつは何日か『吸わない』でいると扱いにくくなってかなわないんだよ。まぁ、腹ペコでなければ僕にも『お裾分け』をくれたりするんだけど」
“ピアッサーの針”。
それはいわゆる呪われた武具のたぐいなのだ。
貫いた相手の血――生命そのものを吸い、持ち主に力を与える。
並外れた膂力もそれならば得心がゆく。
ミシェルの背を、嫌な汗が流れた。
「だからね」
場違いなほど朗らかなレイフォルスの声。
「山に入る前にもう少し『吸って』おきたかったんだけど……ああ」
レイフォルスが見ていた。
真っ直ぐにミシェルを。
「きみでもいいかな」
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