第35話 ペットショップ
近所のショッピングモールには、犬と猫がガラス張りの広い部屋に放された、ペットショップがあった。
部屋は二つあり、犬と猫がそれぞれ放されている。
猫の方には壁際に階段があり、上がっていくと犬の部屋を覗きに行く事が出来るようになっていた。
ペットショップが開店した当初には、猫が上から犬を覗き込むという狙い通りの光景が見られたが、その内猫は棚を伝って下まで下りるようになった。
犬の中に猫が混ざって走り回り、飽きると、犬が飛び越えられない五十センチほどの高さの仕切りをひらりとかわして猫の部屋に戻るのである。
犬猫の棲み分けはだんだん意味をなさなくなり、ケージに入れられた犬が猫の方の部屋にも幅をきかせるようになった。
ところが猫はそんな犬にはお構いなしに、猫同士じゃれ合ったり電動式の猫じゃらしで一人遊びしたりと自由奔放だ。
ショッピングモール内の歯医者さんに通っていたから、早めに行ってそこで猫たちを眺めるのが日課になっていた。
ロシアンブルー、アメリカンショートヘアといったメジャーな種類は知っていたが、ブリティッシュショートヘア、ノルウェージャンフォレストキャットといったちょっとマニアックな種類の猫はここで知った。
ある日いつものように時間を潰していると、二匹の猫が、左右にフリフリとお尻を振っては、互いに飛び付いてじゃれ合っていた。
遊びはエスカレートし、出会い頭に猫パンチしてはパッと跳んで離れ、またフリフリ……である。
まだ仔猫の二匹だから、飽く事なくその遊びは続いた。
見ている方も、大いに楽しんでいた。
ところが、程なくして困ってしまう。
出会い頭に猫パンチして大ジャンプした一匹が、縫いぐるみなどが詰まって物置とかしたケージの中に縦にスッポリと入り込んでしまい、もう一匹は、バックヤードに続く扉と犬用の仕切りの十センチほどの隙間に挟まってしまったからだ。
もぞもぞ……。
二匹が動いているのは分かるが、一向にそこから出てこない。
店員さんは中にいない。
ペットショップで『見てるだけ』の身としては、店員さんに声をかけるのはちょっと勇気がいるものである。
「あのー……」
「いらっしゃいませ!」
「ショーウィンドウの中の猫ちゃんが、挟まっちゃったみたいなんですけど」
「ああ! ありがとうございます!」
気後れする私にも店員さんは明るく接してくれ、仔猫を救出すると、ショーウィンドウの中からにっこりと笑顔を送ってくれた。
何故だか恐縮すると共に、何処か恥ずかしくなって、私はぺこりと頭を下げるとその場を後にした。
嬉しさは後からじわじわやってくる。
見てるだけだったあの可愛い仔猫たちに、少しでも関われた事が喜びだった。
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