第31話 看板猫
一時的に実家に帰った私は、アリスのお墓参りに行きたいと言ったが、それは何かと強引な父に却下されてしまった。
明確な理由もないままの却下で、本当にお墓らしきものを作ったのかと疑ってしまった。
今まで数々のペットを勝手に捨てられ、「逃げた」と嘘を吐かれていた前科があるので、人間不信なのである。
トイレのドアに、開閉する度にコロコロと音を鳴らす鈴の飾りが付いていて、それが聞こえる度にアリスを思い出した。
私がそう言うと、母もそうだったらしく、やがてその鈴飾りは外された。
父の病気に悪い為、他にアリスを思い出すようなものは全て捨てられていたが、一軒家を並びで二軒、渡り廊下で繋げている我が家は、その渡り廊下に猫トイレを置いていたので、そこを通る度にアリスとラドを思い出した。
実家に帰っても、猫(を探す)散歩は止めなかった。
でも田舎は餌付けをする家も少ないのか、なかなか野良猫に出会う事は出来なかった。
そんなある日、普段は顔も上げないような一軒の店のショーウィンドウに、灰猫がいるのが目に飛び込んできた。
迷わず入店である。
個人経営の小さな、作業着や軍手などを売る店で、どおりで今まで気付かなかった訳だ。
品の良い初老の婦人がいらっしゃい、と声をかけてくれたので、「猫ちゃん、触って良いですか?」と訊いてみた。
婦人は笑って、猫目当ての私にも優しく接してくれた。
灰猫はショーウィンドウから、陳列棚へとやってきて、商品の上に長く伸びて寝そべった。
撫でて、と催促しているようである。
婦人がニコニコと眺めている所を見ると、これが茶飯事なのだろう。
私は、灰猫のご機嫌を窺うように、顎の下や耳の後ろを優しくかいた。
すると、ゴロゴロと喉を鳴らして、自分から頭を擦りつけてくる。
品物を買いもしないのに長居しては迷惑だろうと、三分ほどで切り上げたが、帰りがけに「可愛いですね」と言うと、婦人は嬉しそうに手を振ってくれた。
猫バカの見解だが、猫好きに悪い人はいないのだ。
誰が何と言おうとそうなのだ!
しつこくない程度に気を遣って、私がその店に通うようになったのは、言うまでもない。
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