第26話 散歩道の住人
散歩していると、色々な野良猫や飼い猫に会った。
でも触らせてくれるのは稀な事で、どの猫もツンと背を向けて塀の上や茂みの中を行くのである。
そんな中、いつも通らない狭いスナック街に入った事がある。
まだお昼頃、スナックの住人たちが出勤前の時刻だ。
そこで、一匹の黒猫に会った。
アリスを思い出すので、黒猫は特に好きだった。
黒と一概に言ってもアリスは闇のように真っ黒だったが、スナック街の彼は、ブラウン混じりの黒だった。
勝手知ったる場所のようで、陽だまりでお腹を見せてよく眠っている。
「にゃ!」
まずは驚かさないように、挨拶である。
彼は、尻尾を一振りして応えただけだった。
恐る恐る近付いて触れると、ゴロゴロと喉を鳴らす。
おおっ?! 猫充のチャンス?!
試しにお腹も撫でてみた。
「にゃあ!」
「あ、ごめんごめん。お腹は嫌だったか~」
猫と話す不審人物の誕生である。
だがお腹以外、顔周りや背中、肉球は触り放題だ。
普通猫は、寝ている所を邪魔されるといい加減機嫌を損ねて何処かへ行ってしまうものだったが、彼は夢うつつに身を任せ、いつまでも触らせてくれるので、帰る機を逸した。
気付けば、まだ陽の高いスナック街の路地で、三十分も経っていた。
その人懐こさから、おそらくスナックのお姉さんたちに可愛がられているんだろう彼に、渋々別れを告げて散歩の続きに勤しんだ。
今まで出会った猫は殆ど、身体も大きい立派な雄猫だったが、一回だけ雌猫に好かれた事がある。
それも散歩中の事だった。
路地から出てきた華奢な彼女に、いつものように挨拶をした。
すると返事をしてくれ、延々と猫会話が続くのだ。
ちなみに雌だと分かったのは、お尻から出血していたからだ。
世にも珍しい、猫の生理の瞬間だったのである。
もしかしたら、その人懐っこさは、発情期特有のものだったのかもしれない。
首輪もしてないのに足にスリスリと身体を擦り付け何処までもついてきて、感動したのを覚えている。
「にゃあ」
「にゃあ」
二人仲良く鳴きながら、五百メートルほど、束の間の道連れを楽しんだ。
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