第23話 実家のお化け

 二年ぶりに実家に帰った。

 アリスはどんぐりみたいに猫目をぐるぐるさせて、帰ってきた私をよく確認しているようだった。

 そしておもむろに、足に齧り付いて猫キックを連発した。

 初めて会う人間にじゃれつく事はなかったから、人語に直せば、「何処行ってたんだよ! バカバカバカ!!」といった所か。

 どっちにしろ、忘れられはしなかったようだ。

 客間で眠る事になったが、アリスは布団の中に入ってグルグルと喉を鳴らしていたので、客間の引き戸は細く開けておいた。

 夜中に目を覚ますと、やはりアリスは出ていったようだ。

 そして朝には、学校に行く時間に肉球で起こしにくるのである。

 アリス、もう高校は行ってないよ。


 何日間か実家に連泊したが、ひとつ、今でも忘れられない出来事がある。

 実家のある周辺は、過去に甚大な洪水被害があった所で、近所の小学校でもお化け伝説がまことしやかに流布していた。

 実際、『授業中にポニーテールを引っ張るお化け』や『朝礼中に後ろから押してくるお化け』は体験済みである。

 お化け伝説を信じていない頃は、「ちょっとやめて!」と後ろの同級生を疑っていたが、席替えをしても続くので信じざるを得なかった。

 また家でも、一晩の内に家族全員が金縛りにあったり、深夜に屋根裏部屋を歩き回る足音が聞こえたりしていた。

 

 帰省中、ストーブがついていて暖かかった為、ついウトウトとリビングのソファで居眠りをしていた時だ。

 壁を叩く音と、鈴の音が合わさったような音がして、う~んと薄目を開けて顔を上げた。

 正面は、玄関の磨りガラスの引き戸だった。

 一瞬だが、長い髪を振り乱して外から玄関ドアを叩く人物が見えた。

 一度閉じた瞳を、ハッとして開けると、もう人影はいなかった。

 固まっていると、タイミング良く何処からともなくアリスが現れて、玄関ドアをジッと見た。

 アリスには、その『何か』が見えていたのかもしれない。

 あるいは、私が恐がっている事を嗅ぎつけたのか。

 どちらにしろ、アリスがいたお陰で私はそれほど恐怖も感じずに、客間に行って再び眠りにつく事が出来た。

 感謝である。

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