第21話 回答速報
猫は伸びる。
普段も多少胴長のイメージのある猫だが、必要に迫られると餅のように伸びる。
ゆうに二倍は伸びるんじゃないかと思うほどである。
これまた猫あるあるだが、家の猫は、センター試験の季節に伸びる。
そう、テレビでやる試験回答速報である。
何故伸びるか?
答えを解説する支持棒の赤い先っぽに、特にラドが夢中なのである。
家はリビングテーブルが椅子に座るタイプなので、目線を合わせる為にテレビも高めのテレビボードに乗せているが、この日ばかりはそれに合わせて猫が伸びるのだ。
「このように、αに……」
支持棒が画面上を走る度に、猫たちはそれを捕まえようと画面を叩く。
アリスは何回かラドに付き合うと、『捕まえられない』事を理解して去っていくが、ラドは飽きる事なく最後まで受験生に付き合い、番組が終わると自分もひと仕事終えた気分で、下僕たち(家族)に新鮮な水を催促するのである。
あまりにも楽しそうなので、自分は受験に関係なくとも毎年、試験回答速報を入れるようになった。
今でも偶然、それに行き当たるとラドを思い出して昔話に花が咲く。
過ごした時間は短かったが、実に沢山の思い出をくれた猫だった。
自分の受験の時はどうしたかというと、猫が気になって答え合わせどころじゃないのも手伝って、友人宅に何人かで集まって一緒に見た。
「合ってた!」
「嘘ーすごーい!」
そんな風に、一問ごとに一喜一憂したものだ。
私の得意技は、『秘技・丸暗記』である。
今でも文章を書くくらいだから、現国は強かった。
この技が威力を発揮するのは、歴史の年号や数学の公式、生物、政治経済などである。
文字通り、参考書を何冊も、『丸ごと暗記』するのだ。
究極の一夜漬けである。
この秘技のおかげで、下から数えた方が早かった成績の私が、地元の進学校に受かる事が出来た。
合格の報を持って中学に行くと、男性担任に抱き締められそうになって逃げたのは、記憶に新しい。
それほど『駄目なコ』だったのだ。
この担任はインコを何十羽も部屋で放し飼いにしている変わり者だと評判だったので、猫派の私からしたら天敵である。
と、理由付けしておこう。
多感な時期だったので、猫と一緒で、抱っこなんかご免だったのである。
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