第20話 芸なんかするもんか

 猫と犬の扱いの違いについては前述したが、違いは性格にもある。

 芸はおろか、言いつけすらなかなか聞かない事だ。

 猫好きに言わせれば、そのツンデレこそが猫の魅力なのだが、犬好きには理解され難い。


 友人宅の猫は例外で、オヤツを見せると後ろ足で立ち上がって前足を合わせ、上下に動かし拝んで「お願い」をする。

 遊びに行った際は必ずオヤツをあげるが、芸達者な猫である。

 前世は、犬か僧侶だったのかもしれない。


 教えようと思った事もなかったから、アリスもラドも何も芸をしなかった。

 規則とは無縁で、カリカリがいつも出してあるのに、何故か三角コーナーの野菜クズを漁っては母に怒られていた。

 まるでご飯をあげてないみたいじゃないか。

 恥ずかしい。


 芸ではないが、アリスにはお決まりの言動があった。

 抱っこは嫌がって暴れるので、アリスとスキンシップを取りたくなると、私は彼の両手を掴んで座った膝の上に仰向けにし、身動き出来なくしてその玉虫の瞳の色を楽しんだ。

「…………にゃあああぁぁぁああん!!」

 十秒ほどは我慢しているが、しばらく経つとアリスは、風呂の時と同じくらい大声を上げた。

 アリスにとっては切実なのかもしれないが、何でそんなに嫌がるかが可笑しくて思わず、

「もう一回!」

 とリクエストして鳴かせていたものである。

 鳴くと離して貰えるのを理解していて、仰向けにされると暴れはせずに大騒ぎした。


 ラドは、人懐こくてスレンダーボディだったから、まれに肩に乗ってきた。

 芸と呼べるとしたらそれくらいである。

 キッチンに立っていたりすると、あっという間に登ってくる。

 ジャンプの勢い+爪をかけて登るので、冬は良いが夏は生傷がたえなかった。


 ある時二匹と遊んでいると、どっちかの爪が手首に引っ掻き傷を作った。

 いつもの事だったので特に気にもせず生活していたのだが、買い物をした際その手首でお金を渡すと、店員さんがビクッ!と反応した。

 ……あ。躊躇い傷だと思われたんだ。

 ようやく赤くなったその傷のリスクに気付き、絆創膏を貼った。

 飼い主を殺すなんて、いい度胸の猫である。

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