第17話 嫌いなもの

 アリスが嫌いなものは沢山ある。

 三つあげると、車、お風呂、ミカンの皮。


 車は、動物病院に行く時しか乗らないから、見慣れない白衣や痛い注射が待っているとちゃんと分かっていて、何とか逃れようと車の中を歩き回る。

 空が見えるから後部座席の上に逃げる事が多いが、透明な壁に阻まれて、結局いつも白衣のおじさんに好きにされてしまうのだ。


 お風呂は、大がつくほど嫌い。

 幾ら黒くても、一ヶ月にいっぺんくらいは綺麗にしないと嫌われる。

 この世の終わりみたいな声で鳴いても、免除はされない。

 濡れたアリスは、短毛だが幾らかしぼんで、均整の取れた体付きをしているのが分かる。

 タオルで拭こうとするとスルリと手の中を逃げ出して、家中を水浸しにする事がたまにあった。

 ドライヤーは天敵だと思っている節がある。


 ミカンの皮は、超がつくほど嫌い。

 父の足と喧嘩するのが日課だが、足の上にこれを乗せられてしまうと手が出せない。

 スルメの匂いにつられてきても、汁をプシュッと一吹きされると、堪らずに逃げていく。

 この世にあんな臭いものがあるなんて、信じられないのだ。


 極めつきは、地震。

 北海道内陸はほとんど地震が起きないけれど、一度だけ大きく揺れた事があった。

 私は怯えたアリスが何処かに行ってしまうんじゃないかと思って、部屋に入れて鍵をかけた。

 地震がおさまってすぐに出したが、ビュッと風を切るようにして飛び出していき、リビングで家族全員集合するように立ち止まった。

 すると地震はもうおさまっているのに、ハッキリと分かるほどアリスの身体がブルブルと震えていて、地震は何処へやら、大笑いになってしまった。

「アリス、震えてる!」

 動物は、地震の際に生じる電磁波を感じ取るらしい。

 後から知った事だが、ペットに対するある実験では、犬に電磁波を照射すると「出かけよう」というように散歩のリードを銜えてきたり、猫では普段しないのにやはり同様の意味で洗濯物の中から靴下を持ってきたりしたという。

 本能的に「逃げたい」と思う状況下で、閉じ込めてしまったのが、よほど恐かったのだろう。

笑ってごめん、アリス。

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