第16話 好きなもの

 アリスが好きなものは、沢山ある。

 三つあげると、スルメ、冷蔵庫の上、猫草。


 スルメは、お正月のお年玉代わりだった為、大量に買って貰えるのだ。

 アリスは袋を開けると当然と言わんばかりに、自分の分が出されるのを、行儀良く目の前に座って待つ。

 だが『猫にイカをあげすぎると腰を抜かす』という都市伝説から、そんなに沢山はあげられない。

 私が食べているとアリスも欲しがるので、自然、スルメは盗み食い状態になるのだった。


 冷蔵庫の上は、アリスの定位置。

 洗面台でワンクッション置いて、一気に上までジャンプ。

 浅く座っている時などは、冷蔵庫のドアが開閉するのに合わせて、猫じゃらしのように爪をかける。

 そして誰よりも高みから家族を見下ろして、物事が順調に運んでいるか、監視するのだ。


 猫草とは、毛繕いで飲み込んだ毛玉を、纏めて吐き出しやすくする為の草だ。

 陽当たりの良いベランダの鉢植え棚で栽培していると、アリス用に空けられた空間に跳び乗って、そのまま旨そうにシャクシャクと食べている。

 何しろ鮮度が命の天然のサラダバーみたいなものだから、美味しさは折り紙付きだ。


 極めつきは、トイレだった。

 猫のトイレでなく、人間のトイレだ。

 これも猫あるあるだと思うのだが、猫というのは、何故か飼い主がトイレに入ったのを何処かから察知していて、ドアの前にやってくるのである。

 引けば開くのを知っていて、力業でえいやっと開けると、用を足している膝の上に乗って、実に幸せそうにゴロゴロふみふみするのだ。

 人間は落ち着かないが、猫にとっては天国のようである。

 何でトイレなのか……飼い主が閉じこもってしまう空間が何なのか知りたいとか、飼い主と二人っきりになれる空間で思い切り甘えたいとか、諸説あるようだが、謎である。

 一通りゴロゴロふみふみすると、満足して去って行くのも不可思議だ。

 ツンデレにしたって、もうちょっと時と場合を考えて欲しいものである。

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