第15話 外の世界

 ラドがいなくなって、更に直接命に関わったのが自分だった事もあって、私は次の日、学校を休んでしまった。

 その日は通常の授業ではなく何かの式典で、私は重要な役職についていたから現場は混乱したと、私が落とした、、、、仔犬の飼い主である親友に苦情を入れられた。

 (だが彼女は数年のちに仔犬を亡くした時、「学校を休む気持ちが分かった」と言ってくれた)

 止めどなく涙が流れた。

 ラドの眠る段ボールに庭の花を山盛りにして、父と山に行ってラドを埋めた。

 最後に撫でたラドの毛並みは、まだ艶々として心地よかった。


 アリスはと言えば、私がタクシーを待っている間は側についていてくれたが、その後はいつもの生活を送っている。

 弟分の死を悼む風でもなく、飄々としている。

 猫にとって、死は悲しむべきものではないのかもしれない。

 避ける事の出来ない別れが、早いか、遅いかくらいの感覚で、もっと哲学的にとらえているのかもしれない。

 冷蔵庫の上で薄目を開けて瞑想しているアリスを見ると、そんな風に、死は神秘的なものに思えるのだった。


 この頃のアリスは、一度事故にあって後ろ脚を脱臼しているとは思えないくらい、活発に動き回って雀もとっていた。

 事故が恐いなら猫を閉じ込めてしまえば良いのだが、一度外の世界を知ってしまった猫を閉じ込めるのはあまりにも可哀想だったし、当の猫も出せと言って玄関で鳴くのだった。


 家の玄関ドアは古くて、重い引き戸タイプだった。

 家の中のドアはひょいひょいと爪をかけて開けてしまうアリスだったが、このドアだけは歯が立たなかった。

 だから、出る時と入る時、大声で催促する。

 あまり猫らしく鳴かないアリスの声が聞ける、貴重な機会だった。

「にゃあぁぁん!」

「はいはい。出るのね」

 二十秒後。

「にゃあぁぁん!」

「もう入るのー? あ、雨降ってる。お母さん、洗濯物しまってー!」

 こんな調子である。

 雪の日には、最速ラップ五秒を叩き出す日も多い。

 冷たいと分かっているのに出たがって、案の定我慢出来ずに磨りガラスの向こうから、声を張り上げるのである。

 天邪鬼とは、猫の為にある言葉かもしれない。

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