第12話 猫と犬の違い
そんな頃、当時の親友が仔犬を家族に迎え入れた。
テツヤを飼っていた事があり犬も好きだった私は、たびたび成長を覗きに行っていた。
でも保育園の頃の話だった為、失念していた。
猫と犬の違いを。
猫は私の二段ベッドの上にも軽々と飛び乗るし、どんな体勢で落としても、必ず足から着地する。
それが当たり前になっていた。
「抱いても良い?」
私は親友に許可を得て、ふさふさの長毛の仔犬を抱き上げた。
そして思う存分もふもふさせて貰い、
「キャイン!」
「何するの!?」
私は猫と犬の違いを説明し、悪気はなかったと平謝りする結果になった。
保育園の頃からの幼馴染みで、いまだに親友付き合いをしてくれている友人だが、この時ほど友情の危機を感じた事はない。
何とか許して貰い、猫と犬の扱いの差の注意を肝に銘じた。
犬は受け身を取れないので、そっと床に下ろさなくてはいけない。
犬未経験の方は、是非とも覚えておいて欲しい。
玄関前に繋いである犬や、野犬さえ恐れずに頭を撫でていた私だが、その後、犬恐怖症になってしまう。
例えるなら猫アレルギー、犬が好きなのに触れなくなってしまったのだ。
猫は無用な怪我を避ける為、威嚇したり軽い猫パンチで、相手を追っ払うのが原則だ。
怪我を負うほどの喧嘩は、縄張り争いや発情期の雌の取り合いくらいでしか見られない。
牙をむく前に、必ず「それ以上やったら……」という枕詞的な行動が入るのだ。
その点、犬は短気な方だと思う。
ある日私は、例によって無防備に、玄関先のゴールデンレトリバーを撫でていた。
ゴールデンと言えば大人しくて賢い犬種、という先入観から、がしがしと頭を撫でた。
ところが機嫌が悪かったのか、はたまたまれに動物に嫌われる事がある私と波長が合ってしまったのか、彼は私に噛み付いた。
余談だが、十五年ほど前に私は、店先に看板鳥として出されていたインコに近付いた所、「ファッ!」と毛を逆立てて威嚇された事がある。
現在の旦那で当時付き合っていた彼からは、いまだに馬鹿にされる。
「人懐っこい筈の看板インコに嫌われるなんて、きっと後ろに何か憑いてるんだ」
と、事あるごとにせせら笑われる。
この時も、
ゴールデンレトリバーは、私の左手に噛み付いた。
嫌われてしまっては仕方ない、と私は踵を返した。
ところが……出血している事に気が付いた。
すぐ止まるだろうと高をくくって帰路についたが、血が止まらない。
提げていた買い物のビニール袋を真っ赤に伝って底に溜まり、後から後から溢れてくる。
出血量自体は大した事はなかっただろうが、そのヴィジュアルに、私は恐くなってしゃがんでしまった。
休日だったので父に電話をして車で迎えに来て貰い、飼い犬に迷惑がかからないよう、「野良犬に噛まれた」と言って病院で休日診療して貰った。
その行動は正解だったらしく、化膿止めを渡されて、包帯でグルグル巻きにされた。
動物の噛み傷は、バイ菌が残る為、化膿するのだという。
そんな訳で、つい最近まで犬に触れなかった。
克服したのは、介助犬の募金の時だった。
盲導犬や介助犬には興味があり、見付けると必ず募金するのだが、たまたま介助犬を実際に繋いでいる所があったのだ。
「あの……撫でても良いですか?」
精一杯の勇気を振り絞って言った。
繋がれていたのは、あの日と同じ、二匹のゴールデンレトリバー。
「どうぞ」
「か……可愛いですね」
十年以上続いた犬恐怖症は、この日、終息を見せた。
お赤飯を炊きたい気分だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます