第6話 僕は人間?

 やがてアリスは、私の『子供』から、『兄弟』になっていった。

 この頃のアリスのマイブームは、父の晩酌に付き合ってテーブルを囲む事と、冷蔵庫の上から家族の会話に参加する事だった。


 猫あるあるだと思うのだが、アリスは、父の肴の刺身を狙うでもなく、ただ淡々と椅子に座ってテーブルを囲むのだった。

 あるいはそうしていれば、おこぼれが貰えると分かっていたのかもしれない。

 毎晩テーブルを囲み、酔って饒舌になった父の話を、右から左へと何処吹く風で聞き流しているのだった。

 ちなみに、刺身は新鮮なものに限る、と彼はハッキリ態度で示す。

 手をつける前の刺身は喜んで食べるのだが、父の箸がついた食べ残しだと、これでもかと『砂をかける』事で、きちんと『NOの言える』頼もしい猫なのだった。


 そして晩酌が終わって寛いでいる時、何かの拍子で大笑いになると、冷蔵庫の上から「カカカッ」と歯を鳴らして、自分も加わるのである。

 その姿が可笑しくて、笑いはますます大きくなる。

「アリスも笑ってるよ」

「カカカッ」

 そんな調子で、まんまとアリスの思惑通りに彼も会話に参加するのだった。


 後から我が家の一員になるアメリカンショートヘアの『ラド』は、言わば非常に『猫らしい猫』で、気まぐれで愛嬌たっぷり、時に臭いおならをして家族を笑わせたが、アリスはけして人前で放屁などしなかった。

 目の開かない内から育てているから、自分は人間だと思っているのかもしれない。


 アリスが『兄弟』から『彼氏』に昇格する出来事は、しばらくして起こった。

 もう内容は忘れてしまったが、何かとても悲しい事があった時、私は部屋で制服のまま号泣していた。

 犬を飼っていたら抱き締めたかもしれないが、元より猫に話相手は期待していない。

 突っ立ったまま、しばらく泣いていると、不意に剥き出しの足にザラザラする何かが当たった。

 アリスだった。

 彼が、私の素足を舐めたのだ。

 猫が?

 私はビックリして、涙が止まってしまった。

 その紳士な神対応に、アリスは一気に私の中で『頼れるオトコ』になったのだった。

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