第5話 本能
家では、動物大好き一家らしく、庭にバードテーブルもあった。
主に雀に、古米をあげていた。
ベランダに出て声をかけると、遠くから雀が集まってくる。
その逆に、雀がバードテーブルをコンコン!とつついてご飯を催促する事もあった。
夜中と言わず昼寝中と言わす、アリスがドアを開けて入ってきてしまう為、私の部屋には内鍵が取り付けてあった。
ある日、学校から帰って昼寝をしていると、いつもよりしつこくドアの向こうでアリスが私を呼んでいる。
でも眠かったので、放置しておいた。
昼寝を終えてドアを開けると……そこには、哀れな雀の姿があった。
アリスにしたら、初めて狩りが成功したので、褒めて欲しくて見せにきたのだろう。
猫が獲物をとった時、叱ってしまうと獲物を銜えたまま逃げ回るようになるというので、いつかそんな時は褒めてあげようと思っていたのだが、その機会はないまま、初めての獲物のお墓を作る羽目になったのだった。
その後私の目論見は外れ、父が叱ってしまったので、家中雀の羽だらけになる日がたびたびあった。
後から知った事だが、猫が獲物を持ち帰る場合、「これでお前も狩りの練習をしなさい」という意味があるという。
もしかしたら、中学生の私の年齢を飛び越して、親心で持ってきたのかもしれない。
一方、私はその頃マイブームがあった。
アリスの尻尾で遊ぶ事だ。
尻尾を猫じゃらしに見立て、はっしと捕まえる。
するとアリスはわざと、右に左に尻尾を揺らして、私をじゃれさせる。
私は仔猫のように、不完全にその尻尾を捕まえる。
その繰り返しだ。
これも最近の猫ブームで知った事だが、それはまさしく、親が仔猫を遊ばせる方法らしい。
やっぱり、アリスはいつの間にか、成長の遅い人間を追い越して、親心だったのかもしれない。
そして猫は、狭い所と高い所が好きである。
あと何故か、箱と袋も。
そこに箱と袋がある限り、猫は突っ込まずにいられないのである。
家では、段ボールはすぐに父が片付けてしまう為、袋が主にアリスの遊び道具だった。
ビニール袋や紙袋を、床にわざと放置すると、何処からともなくアリスがやってくる。
うずうず……と、足踏みをして狙いを定めた後、袋に突っ込んで中で丸くなる。
そこをすかさず持って、私が壁にかける。
「にゃあああああぁぁぁあああん!(出してえええええぇぇぇえええ!)」
その繰り返し。
何度壁にかけられても、アリスは袋に突っ込んでいくのだった。
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