第4話 目覚まし&お出迎え
夏休みが明け、中学に行くようになった。
アリスが我が家のアイドルなのは変わらなかったが、彼の方はいつまでも愛玩されている気ではなかったようである。
よく猫は、お腹が空くと飼い主を起こしにくると言うが、アリスはその斜め上をいっていた。
母に朝ご飯を貰ってお腹がいっぱいでも、寝起きの悪い私を起こしにくるようになったのだ。
爪は出さず、肉球で頬をペタペタと。
言い切ってしまうが、肉球は猫の醍醐味の一つである。
その肉球でペタペタ、だ。
堪らない。
惜しいのは、日曜日にも起こされてしまう点であるが、そんな不都合は気にならないくらい、心地よかった。
余談だが、実家を出てからお盆などに帰省した際も、律儀に客間で寝ている私をアリスは肉球目覚ましで起こしてくれたものである。
東京から北海道への飛行機旅で疲れていた私は、「ファッ!」と威嚇して追い払ったのだが、今考えれば忠犬のような奴だ。
何年も帰ってこない私をちゃんと覚えていて、「出かけるんでしょ? 遅れるよ」と健気に起こしてくれるなんて、筆舌に尽くしがたいほど可愛い奴だ。
追い払ってごめん、と通じるものなら土下座したい気分である。
でもけっしてベタベタせず、猫が猫である所の『ツンデレ』は忘れずに、寝る時は少し布団に入ってゴロゴロふみふみ(猫マッサージ)すると、ふいと外に出て何処かで一人眠るようだった。
『ツンデレ』の『デレ』の部分は、主に学校や外出先から戻った時に発揮される。
家に帰って「アリスー!」と呼ぶと、何処にいても飛んできて、尻尾をピン!と立ててお出迎えしてくれた。
猫は機嫌の良い時に尻尾を立てるのだが、その最上級は立てた尻尾をビリビリッと震わせるのである。
毎日アリスは、肉球で起こし、尻尾ビリビリで出迎えてくれた。
ところが、一度だけお出迎えしてくれなかった事がある。
セミロングだった私がベリーショートにして帰った時、アリスはちょうど私を出迎えようと思ったのか、玄関にいた。
ジッ……と私と目を合わせていたかと思うと、アリスは身体のバネを使って全力で跳び上がるようにして逃げた。
「あはは、アリス私の事分かってないよ!」
私が大声で笑うと、アリスは大慌てで駆け寄ってきて、普段はそんな事しないのに、私の足に身体を擦り付けた。
「僕、間違ってないよ?」
そう取り繕っているように思えて、大いに笑ったものだった。
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