第3話 命名
その日は確か夏休み、休日だったと記憶している。
家に仔猫を連れて帰ると、その小さな新入りは、たちまち我が家のアイドルになった。
猫用のミルクやほ乳瓶を買い揃え、みんなで世話の奪い合いである。
トイレは教えなければいけないと思っていたが、それは杞憂に終わって、猫砂を敷いたトイレに入れると誰も教えていないのに、一丁前に砂をかいて立派にトイレを成功させた。
拍手喝采。
猫を飼うのが初めてで、インターネットも普及していない頃だったから、欲しがるまま仔猫用の缶詰を与え、お腹を壊して「まだ固形物は食べられません!」と獣医さんに叱られた事もあった。
あの時はごめんね。
問題は、名前である。
私が連れてきたから、私に命名権があった。
ところが、初めて仔猫を飼う人ならあるあるだと思うのだが、いまいち性別が分からない。
犬なら出っ張りがあるので分かるのだが、猫はどうひっくり返してみても滑らかな毛並みが続くばかりである。
出っ張りもにゃんたまも見当たらない事から、たぶん雌だろうという結論に至った。
そこで私の出番である。
命名、『アリス』
私は子供の頃から夢見がちで、将来は歌手か漫画家か小説家になりたいと思っていた。
その夢の中で活躍していた、剣と魔法のファンタジーのヒーローの名前、『アリスクス』から取った名前である。
だから、一見女性名のようだが、実は男性名なのだ。
彼が成長してにゃんたまが分かるようになった頃、親は笑い話にしたものだったが、私は心の中で密かに思った。
(本当は、アリスクスの愛称だから、合ってるんだけどね!)
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