第2話 捨て猫
中学生の私は夏のある日、友人たちと手持ち花火をして遊んでいた。
無論、花火なので、親に許可を貰って暗くなってからである。
公園で花火を終え、帰りがけ、ふと隅の東屋に置いてある段ボールに、誰かが目を止めた。
鳴き声はしなかったように記憶している。
それほど彼は、衰弱していたのだろう。
中身を何気なしに覗いて……ちょっとした騒ぎになった。
中には、まだ目も開いていない、小さな小さな仔猫が一匹、蹲っていたからだ。
公園の街灯が当たる場所でなければ、その姿は見えなかったかもしれない。
彼が、夜の闇の色と同じ、黒猫だったからだ。
もう夜も遅かった為、友人の一人の家に全員で泊まる事になり、仔猫も連れていっった。
まず蒸しタオルで身体を暖め、温めたミルクを協力して与えてみた。
ところが、仔猫は飲む素振りさえ見せない。
一人が身体を支え、一人が仔猫の頭を押さえ、もう一人がミルクを口元に運ぶといった要領で無理やり飲ませようとした。
そうしなければ、死んでしまうと思ったからだ。
今ならば、まず砂糖水を与えてみるとか幾らかの知恵があったが、この時はみんな必死だった。
やがて何とか、少量のミルクを飲ませる事に成功した頃には、深夜になっていた。
ひとまず仔猫と一緒に寝るのは、私になった。
仰向けに寝た胸の上に仔猫を乗せると、彼は気持ちよさそうに寝息を立て始めた。
先ほどまでの衰弱した様子ではなく、ぺったりと甘えるようにくっついて、スヤスヤと。
それを目にした私は、どんな手段に訴えても、この黒猫を家で飼おうと決めた。
黒猫は不吉だなんて言い伝えもあるが、その闇に溶け込む黒い毛皮は、私にとってはとてつもなく美しく見えたのだった。
「よしよし」
起こさないように、胸の上に乗った小さな命を撫でると、グルグルと彼は機嫌良く喉を鳴らして応えてくれた。
翌朝。彼を家族の一員に迎える決意を新たにする出来事が起きた。
まだ目が開いていないのに、仔猫を一メートルほど離れた所に置き、一斉に「おいで」と声をかけた所、何度やっても必死に私の所に来るのだ。
寝る時に、声をかけたのが良かったのかもしれない。
完全に、仔猫は私を『親』だと認識したようである。
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