第2話 ―桃―
何だか胸騒ぎがする。
ラナリスの泉に到着すると、謎の光が浮いていた。
白き光から、不思議な温かさを感じる。
少しずつ、白き光が小さくなっていく。
少しずつ・・・
少しずつ・・・・・・
少しずつ・・・・・・・・・
!?
やがて、白き光は何かの形を形成していく。
自分に良く似た形に・・・・・・
でも、どことなく違う形に・・・・・・
「君は・・・」
「?」
何だろう、なんて言ったら良いのだろうか?
生き物なのはわかるのだが、目の前にいる不思議な生き物から目が離せないでいる。
俺は、たまらずに声をかけた。
「君は誰なんだ?」
「・・・わからない・・・」
「えっ?」
「・・・わからないのよ・・・
おしえてよ、わたしのなまえ・・・
しっているのでしょう?・・・」
いきなり、なんなんだ。
聞きたいのは、こっちなのに・・・
何故、逆に質問責めに合わなきゃならないんだ。
この生き物は一体・・・・・・
「ゴメン、俺にもわからないんだ」
この生き物は、記憶が無いようだった。
「・・・そう、なんだ・・・」
落ち込む生き物・・・
何も覚えていないってのは、辛いものと辛くないもの・・・
二つあるって、じっさまが言っていたのを思い出した。
この場合は・・・・・・
この生き物が、前者。
俺が、後者ということになるのであろう。
「まずは、君に名前をつけなきゃだな」
不思議な顔をしている。
「なんで?」
「何か、名前があったほうが呼びやすいだろ」
「そっか・・・・・・
じゃあ、わたしになまえをつけてくれる?」
どうしよう。
何も考えないまま言ったから、期待の目で見つめて来る。
「そうだなぁ・・・・・・
なんだかわからないものだから、生き物ってのは?」
「・・・そんなへんなの、きゃっかよ・・・
それに、わたしおんなのこよ・・・」
生き物は、女の子という生き物らしい。
世の中には、男と女に分かれているものがあるって・・・・・・
じっさまの言葉を今、思い出した。
ふと・・・・・。
女の子の方に視線を向けてみる。
一箇所を覗いて、白い・・・
唯一、髪の毛の色が違うだけのようだ。
女の子の髪の毛の色は、薄い桃のような色・・・・・・
「そうだ【ラナリス】ってのはどうだい?
君の髪色が、ラナリスの果実にソックリなんだ。
まあ・・・・・・
果実が成るのはだいぶ先だから、まだ見られないけれど、すごくいい香りがするんだよ」
「じゃあ、それにする。
わたしのなまえは、ラナリス」
喜んでくれたようで「あなたは?」
「は?」
「あなたのなまえよ、わたしはラナリスになったけど、あなたはなまえあるの?」
しまった・・・・・・
まだ、俺の名前を伝えてなかった。
「俺の名前は、ネラだよ」
「ネラかぁ・・・・・・
よろしくね、ネラ」
にかっと笑った顔が、ものすごく可愛らしかった。
この時、トクンっと胸が高鳴ったのは内緒である。
だけど、次の瞬間・・・・・・
ラナリスの口から、とんでもない言葉が飛び出した。
「・・・ネラ・・・
わたしをころして」
「な、何言ってるんだよ。
訳がわからないよ」
「わたし、ラナリスは・・・・・・
かの者にネラを選び・・・・・・
わたしを殺す【ライヴル】とする」
まるで、ラナリスの中に別の誰かがいるのではないか・・・・・・
そう思ってしまっていた。
「・・・はひ?・・・
ネラ、どうしたの?」
元に戻ったようだ。
「何だか分かんないけど、何でもないよ」
誤魔化しておこう。
とりあえずは、当初の目的の通り柄杓で朝露をすくい、水袋にいれ柄杓を祠に戻した。
ラナリスの事をじっさまに報告せねばなるまい・・・・・・
「家にくるか?」
手を差し伸べると、ラナリスの小さな手を握る。
「うん、わたし・・・・・・
ネラのおうちいく」
こうして・・・・・・
俺は、ラナリスを連れて家路につく事になった。
殺してと言われた事など、忘れて・・・・・・
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