第3章「ああん、堅ぁい、凄ぉい。」
天罰が尿管にふさがったヲタが受けた、内視鏡を用いた二度目の内部破砕手術では、全身麻酔が功を奏して例の『親不孝者』は目覚める事無く、無事終える事が出来た。
しかし残念な事にそれは、当初の目的の半分しか達成出来ていなかった。
結石が詰まっていた位置が、内視鏡で届くギリギリの場所(丁度、尾てい骨を通る辺り。膀胱から五センチほど手前)にあった為に、完全に砕き切る事が出来なかったのである。
もっともそれは担当医師にも予想されていた事であった。
破砕しきれなかった場合は、尿管にチューブを通して、壊れかけの結石を腎臓内に押し戻して安定させ、改めて当初受けていた『超音波破砕施術』を再開する事になっていた。
腎臓という臓器は、簡単に言うと腎臓は体内を流れる血液を濾過し、老廃物や塩分を尿として身体の外へ追い出してくれる大切な仕事をしてくれる器官である。。
また、他の内臓と違い、ほとんど肋骨に守られていない上に、剥き出しと言ってもおかしくないくらいに外皮に近い、背筋の直ぐ下に在る為、古武道の世界では、俗に言われる『三年殺し』を仕掛ける為の必殺の急所として知られている。
それ故か、腎臓は他の内臓と比べて圧倒的な肉厚を誇っていた。
自らの存在理由の重大性を良く理解していると思えるくらいに、新陳代謝に欠かせない空豆によく似たその左右一対の内臓は、意外にも丈夫な造りをしているのである。
その丈夫さに着目した治療法こそ、先述の超音波破砕施術なのである。
腎臓内で安定した結石は、普通なら超音波の衝撃波で簡単に粉砕出来るのだが、その破片は破砕された時に消え失せるハズもなく、飛び散って内臓の内壁に突き刺さってしまう。胃壁程度なら簡単に突き破ってしまう程の衝撃が生じるのだ。
ここで先述の通り、腎臓の肉厚振りが幸いするのである。
加えて、内部には尿が溜まっている事もあり、破砕の衝撃が水分によって衝撃が更に中和されるのだ。
結石を押し上げてから数日後のレントゲン検査で、腎臓に戻された壊れかけの結石は、更に崩壊が進んだらしく、最初に発見された時とほぼ同じ大きさになっていた。
医師は、この大きさなら超音波破砕を施さなくとも、自然に出ると見て体力がある程度したところでヲタの退院を許可した。
普通ならこの後、結石が出てきて万々歳なのだが、一度降りた激痛の神様はそう易々と戻らなかった。
二度目の内視鏡手術の際、結石を押し上げる為に使われたチューブは、そのまま膀胱内に残されたままだった。
何故、残されたままなのか。
それこそ、尿路結石になってしまう最大の原因に、理由があった。
そもそも、結石はどんな人間でも発症する病気なのである。
脇腹や背筋に激痛を覚える症状がない健康体の者でも、レントゲン撮影で結石の影が映る場合もあるのだ。
では何故、全員が患者にならないのか?
答は実にシンプル。
「症状を覚える間もなく、自然に流れ出てしまう」からである。
なのにどうして発症する者が存在するのか?
これも答えはシンプル。
「腎臓から尿道までの尿路が狭すぎる」からなのだ。
体内に残されたチューブは、狭い尿路を広げる為の治療器具でもあった。
尿路は人によって千差万別の太さがある。それが狭いと、尿路結石になるのだ。
尿路結石に罹りやすい体質とは、つまり尿路が生まれつき狭いと言う事なのである。
そんな体質の患者を治療する為に、術後、尿路にチューブを差し込んだままにして暫く放置する。
それにより自然に尿路が広がり、結石が流れやすくなるのだ。
しかし、これが問題の『拡張手術』ではない。
確かに拡張手術の一つとも言えなくもないのだが、一応、このチューブの本来の用途は尿路を確保する事であり、広げると言うより、これ以上狭くならない様にする為に差し込まれるものだった。
実に残念な事だが、周囲の落胆の声が囁かれる中、退院して三ヶ月後の再検査で、ヲタの尿路は医師の予想通り広がっていた。
診察した医師もこの結果には半ば呆れていた様である。
退院後すぐ、このヲタクは、あろう事かとあるイベントの仕事の手伝いで、重さ60キロもある、「疾風!ア○ア○リー○ー」の主役○グナ○エースの着ぐるみの中に入って暴れ回っていた事はお医者様にはナイショでした、うふふ(虚ろげな顔で)。
そのイベントの話は、今は亡き某ホビー誌にも小さく載ったくらいで大したコトではないから割愛させて頂くが、そんな無茶をしてれば当然で、イベントの翌日から40度以上の高熱で三日間もの間、冗談抜きで生死の境を彷徨っていた。
……いやマジでよく生還出来たと思うわ、あは、あははは(顔は笑ってない)
そんな事もあって、絶対悪化しているハズと言い切った担当医師が、そのヲタクに対し、何て悪運の持ち主なんだ、と仰いだその姿を、ヲタは生涯忘れる事は無いだろう。うふふ(以下略)
無論、ヲタの地獄はこんな程度で済むはずもなかった。
尿路が拡大された事により、体内に差されたままのチューブが遂に抜かれる事になった。
腎臓にまで通っている肝心のチューブは、膀胱内で文字通り管を巻いていた。
このチューブもなかなかの曲者で、動く度に膀胱の内壁を刺激する。
だから、歩いているとしばしば尿意を覚えたり、酷い時は、あの親不孝者が妙な刺激を覚えて「言うコトきかん棒」になったりもした。
あれだけ酷い目に遭いながら、まだ使える事自体、奇跡と言える。男って哀しいね。(落涙)
だが、奇跡と言うものは、一度切りだから価値があるのである。
チューブを抜き取る手術は、ホンの数分で終わる簡単なものであった。
再び、両股開きで固定される器具に両足を乗せ、あれの先から針無しの注射器でジェル・タイプの麻酔液を膀胱内に注入し、下腹部に充分痺れさせたところで、再びあの『痛い器具』カテーテルと内視鏡を差し込んで一気に引き抜く。
幸いなのかどうかは判らぬが、どうもあの悲(喜?)劇がトラウマになり、今回は親不孝者は微動だにしなかった。
なのに、それは起きた。
麻酔で痺れている尿道へカテーテルを差し込んだ医師が、突然その手を止めるなり、
「………何?」
医師が憮然とした顔で洩らしたその言葉は、ヲタクが思わず洩らした言葉とシンクロしていた。
但し、ヲタクは更に言葉を継いでいた。
「………痛い」
あろう事が、あのカテーテルが再び尿道に突き刺さったのである。
あの親不孝者は、間違いなく微動だにしていなかった。一体、何がヲタクの身に何が起こったのであろうか?
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