4-4. 多忙な日々(4)
*
父とアキトとの間に接触があった。ショウはその事実に愕然とした。
父の帰宅を待ってどうやって手配書を取り下げたのかと尋ねたショウは、そこで父が闇屋を利用したことを知った。
父はアキトに、手配書は痕跡が残ってもいいから早急に取り下げてほしいと依頼したらしい。闇屋には不釣り合いな贅沢な依頼だった。罪状があそこまで重くなければ父も自力で対処するつもりだったらしいが、あれだけの罪を並べたてられては恐ろしく、とても手を出せなかったのだという。
二人の繋がりを知って、ショウはすぐさま父にアキトに会わせてほしいと願った。たとえどんな真実を闇に
軍部長官が何故、闇屋に依頼を出したのか。ヤマキは失敗だと言っていたが、風捕りの全ては消せなかったにしても、すでに消した真実もあったはずだ。それが何だったのか。
そして、アキトは今、何をしようとしているのか。
父は五日待てと言った。五日後にアキトと会う約束があるから、そのとき会えるように取り計ろう、と。
だが、ショウは五日も待てなかった。居ても立ってもいられず、自力で捕まえてやるとショウは家を飛び出した。父に見つけられたというのなら、ショウにも見つけられるのではないかとそう思って、父がお忍びでよく行く店を片っ端から当たっていった。
そうしてしばらく町を駆けずりまわっているうちに、次第に冷静さを取り戻した。
闇屋は顧客を選ぶ。父が見つけたのではなく、アキトが父を顧客として許容したのだ。だから、ショウがいくら探し回ろうとも、アキトが会おうと思わない限り会えるものではない。そんな簡単なことさえショウは忘れていた。
「っとに、最近、こんなことばっかだ」
ユウキがそばにいなくなって、格好つける必要がなくなったというのもあるだろう。空回りばかりする自分に気づくと急に恥ずかしくなり、ショウは慌てて思考の矛先を変える。
休戦の直前、風捕りをなかったことにしてほしいという依頼がなされた。けれど、実際にはそれは失敗に終わり、風捕りは生き残り、彼らが関係する事件もなかったことにはならなかった。
風捕りの暴走によって引き起こされたポロボの事件。
風捕りの存在を消してほしいという闇屋への依頼。
国民の不満が虐殺という形になって顕現した風捕り狩り。
保護された風捕りとその裏で行われていた監視業務。
管理され、人質として利用された里の風捕りたち。
そして、風捕りをネタに軍部長官に接触を図ったマカベ。
罪状を重くしてまでユウキを捕らえようとする治安局の過剰な対応。
過去に風捕りにまつわるこれだけの動きがあったとショウは知っている。
「あれ? 待てよ、何か変……」
何かが頭に引っかかり、ショウはもう一度初めから考え直す。そしてすぐに気づいた。
――国の対応がおかしい。
暴走した風捕りの処刑を明かさずに、休戦の原因が風捕りだとだけ告げた。
私刑は法律で禁じられているにも関わらず、風捕り狩りに走った国民を止めなかった。
風捕りの保護と称して、風捕りを招集し、国の管理下に収めた。
無謀ともいえる要求を押しつけ、逆らったり失敗したりするごとに仲間の命を奪った。
まるで、国は風捕りに死ねと言っているかのようだった。実際、国のこの対応のせいで多くの風捕りが命を落とした。
何故こうも風捕りの命が軽んじられるのか。
それは、もしかしたら国が風捕りの復讐を恐れているからではないだろうか。
ショウはずっと風捕り狩りを止めなかったことが、国の一番の罪だと思っていた。
だが、それは違ったのかもしれない。
国が闇屋に依頼したのは休戦の直前。風捕り狩りより前のこと。その時点で、国が風捕りの復讐を恐れていたのだとしたら――。
鍵となるのはポロボの事件。
ショウの脳裏にはいくつもの可能性が浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返した。
やがて、一つの突飛な考えがショウの頭を占めた。
「んな馬鹿な」
ショウは動揺した。ばかばかしいと切って捨てたいのに、どうしても頭から離れない。心のどこかでそれが真実だとすでに思ってしまっている。
だが、それはありえない考えだった。絶対に事実であってはならないことだった。
まさか、ポロボの事件は――。
そのとき突然、ショウの目の前に人影が立ちはだかった。ショウは慌てて立ち止まり、顔を上げる。
「よっ」
驚き絶句するショウの前に、アキトが以前と変わらぬ様子で立っていた。
ショウはわずかに身震いした。ヤマキに聞かされた闇屋とはどういう存在かという話が、ショウの身体を
「ちょっと付き合えよ、ショウ」
アキトはショウの怯えに気づいているのかいないのか、いつもの気軽な調子で言ってきた。
「……わかりました。こちらもちょうど会いたいと思っていたところです。闇屋のアキトさん」
ショウが自分を奮い立たせるようキッと睨み付けると、アキトは面白そうに笑った。
先ほどショウの頭に浮かんだ一つの可能性。
――ポロボの事件は、風捕りの暴走が原因じゃないかもしれない。
アキトならこの答えを持っているだろう。
そして、もしこれが事実だったとしたら、人々の風捕りや国に対する認識は大きく変わることは確実だった。
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