1-2. 少年の見たもの(1)

          *


 ジャンが倒れて二日。ようやく容態が落ち着いた。昨晩までは顔を歪めたり、咳き込んだりと苦しむ時間も長かったが、今朝は静かに目を閉じている。

 その穏やかなジャンの顔を確認してからユウキも仮眠を取る。ずっと休んでいなかった体はだるく、頭は鉛のように重かった。

 目を閉じると気を失うように眠りに落ちた。



 眠ったのはほんの一、二時間だった。

 目を覚ましたユウキはまだ眠たい目をこすり、まなじりが濡れていることに気づく。覚えていないが何か夢でも見たのかもしれない。心なし鼓動も早まっていた。

 深呼吸をして呼吸を整えると、重い体を引きずるように布団からい出す。それから恐る恐る隣のベッドへと目を向けた。

 ジャンは変わらず青白い顔をして眠っていた。かけられた布団はわずかに上下しており、ユウキはほっと息をついた。


 それから台所へと向かう。コップに水をくんで一気に飲み干し、食料庫にしている木箱の蓋を開けた。


「そうだよね……もうずっと買い物行ってないもんね……」


 空の木箱をのぞいてため息をつく。

 元々まとめ買いできるほどの金銭的余裕はなく、ジャンが倒れてからはジャンにつきっきりだったのだから、中身が空っぽなのも当然だ。


 けれど、ジャンに元気になってもらうには食事も欠かせない。まだ重湯すら食べられるか怪しいが、果汁くらいは用意しておきたかった。

 それに、自分も何かしらお腹に入れなくてはならないだろう。今は空腹を感じていないが、あとで動けなくなっても困る。ジャンのそばにはユウキしかいないのだから。


 ユウキはちらりと寝室を振り返る。本当は一時たりともジャンのそばを離れたくなかったけれど仕方ない。

 本当に本当に仕方なしに、ユウキは買い出しに行くことにした。


「……おじいちゃん、調子はどう?」


 小声でそっと声をかけると、すぐにジャンが身じろいだ。起きていたのかもしれない。


「ちょっと買い物に行ってこようと思うの。行ってきて大丈夫?」


 ジャンはうっすらと目を開け、頷くようにまばたきした。


「ホントに大丈夫?」

「……あぁ」


 重ねて聞くと、今度は声が返ってきた。声を出しても咳き込まないジャンに少しだけ安心する。


「……じゃあ、行ってくるね」


 ユウキは後ろ髪を引かれつつも家をあとにした。

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