54話 命の重さ
目の前を塞いだのは大きな斧、持ち主を見るとこちらも斧に負けないぐらいの大男だった、しかも男は一本でさえ持てるか怪しい斧を二本も持っている。
男は俺を一瞥すると、邪魔だと言わんばかりに斧を振るう。重さなど感じない様に軽く飛ばされる。
「うわぁ!?」
飛ばされた瞬間に強化する、それと同時に背中を壁に思いっきりぶつかり意識が飛びそうになる。
「がっ!? っ!」
「アイツは私のだよ! ベルモンドっ!」
セリエは俺が飛ばされたのを見て大男の隣にいる男に怒鳴る。
「セリエ、契約だ。そもそも時間内に仕留められなかった自分のせいだ」
「チッ、分かったわよ…… 」
話を聞く限り、やはりセリエは自分の事を狙いにここまで来たらしい。変な奴に目をつけられた事もそうだが、コイツらは何のために危険を犯してまで攻めて来たのか。
聞いても答えるとは思えないけど…… 。
身体の痛みに耐えながら奴等を見ていると、大男の袖の隙間から見えてしまった。
白銀の鎖、そしてそこに付いているのは緑の宝石。
ーーーあぁ…… 、アイツも使徒なのか……
一瞬、心が折れそうになった。
ただでさえセリエに絡まれ、その上アルテミシアの元に行くとすればあの男が出てくる。遠目で見ても分かる威圧感、間違いなく強い、今の自分じゃどれだけ手を尽くしても届かないだろう。
嫌になる、前の魔族にも似たような事が有り、少しは近付いたと思えばコレだ。
最近は周りの力がインフレ気味なんじゃ? と思う事もある。
「はぁ…… 、ーーー次に会うまでに死なないでね?」
「…… 死ぬつもりは無いぞ…… 」
「そうね、楽しみに待っとくわ」
「あぁ、ずっと待ってろ。会いに行かないけどな」
「遊んでないで帰るぞ」
「…… 分かったわよ」
ベルモンドの言葉に苛ついた様子でセリエが返事を返し何故か無事だった窓をぶち割り出ていった。
「何でわざわざ窓ガラスを割った…… 」
「「コウタ(さん)!」」
結界が解けてグリムとフランが駆け寄ってくる、所々痛む体を起き上がらせ手を振る。
「すまない…… 結界が無ければ助けを入れられたんだが…… 」
「…… 何とか生きてるから心配すんなって」
グリムは眉を下げ申し訳なさそうに言う、心配させない様に笑いかけようとすると体の至る所から痛みが発せられ思わず声が出そうになるがギリギリの所で抑える。
「ーーー コウタさん!」
「タクト…… 」
後ろには他のみんなもいるようでどうやら大きな怪我は無いらしく、手を振って無事を知らせると何故か皆が驚いた表情をする。
「…… どうかしたか?」
「コウタさん…… それは…… ?」
タクトがこちらに少し怯えた様な視線を向ける、何故そんな視線を向けてくるのか不思議に思いながら自分の体を見下ろすとーーー 。
「ーー あれ……?」
体は真っ赤に汚れていた、手を見てみるとこちらも同じ様に赤い何かで汚れていた。
赤い何か? いや、違う。 これが何かは知ってるはず、自分がよく知ってるはず……
ーー止めろ、思い出すな。
確かこれは、外で……
ーー思い出せば後悔する。
確か衛兵が誰かに殺されてる所を見てそれで……
ーーーあぁ…… 俺、人を殺したんだったな……
思い出した途端に気分が悪くなり、もう乾ききってる筈の血が妙に熱く感じる。
剣を握っている手からは斬ったときの感触が今になって出てきた。
頭が真っ白になっていく。感情が、言葉が、色々な物が表に出そうになる。
でも、ここで全てを出したらきっと剣を握れなくなる、戦えなくなる。
そう思い一生懸命押さえ込もうとするが押さえようとすると意識してしまうのか不快感が増していく。
「あっ…… 」
目の前が真っ暗になりかける。
すると手にホッとするような温かさが伝わり、ふと前を見るとルルが俺の手を優しく握っていた。
「コウタさん、凄い汚れてますね。お湯を用意するので部屋で待ってて下さい」
ルルはいつもと変わらない口調と笑顔で言った。
ーーー正直助かった。情けない話、あのままルルが手を握ってくれたから堪えられ、何も無かったかの様に話し掛けてきてくれたお陰で落ち着いた……
ルルに手を引かれ部屋まで戻り風呂で汚れを落とそうとするが中々血が落ちず暫くシャワーを浴び、やっと流した。
「クソッ…… !」
血、汚れを流したのは良いが感触やらの気持ち悪さはまだ残っていた。
お湯に手を浸け小擦り合わせるが一向に消える気配が無く思わず悪態付く。
暫く手を洗い続け不快感が消え、ひとまず落ち着いたのは良いが寝る気分にはなれなく椅子に座り夜空を眺めていた。
「…… 少し歩くか……」
部屋を出て中庭に出ようとすると話し声が聞こえた。
覗いて見るとタクトとユミが話している。 よく見るとユミが泣いている様だった…… 。
異世界に来たけど、どうする? ほうれん草オバケ @SRD88
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