第2話魂
猫を飼っていると、もしかしてこの猫は前世で私と結婚していた人かもしれないと思うことがある。
何匹かいて、どうして特定の猫をそう思うのかわからないが、とにかくそう思えるのだ。
その猫はノン太という。
生後4か月ぐらいの時に、突然我が家にやってきた。
うちは野山に囲まれていて、時々だが猫を捨てに来る人がいるらしい。
朝、納屋にいくと、小さな黒白の猫が佇んでいた。
大変だ!うちには子どもが三人おり、かねてから犬か猫を飼いたいとせがまれていたのだ。
子どもに知らせると、案の定飛んでやってきた。
「うわ!なにこの子?どうしてここにいるの?」
「お腹空いてないかな?ねえ、牛乳あげようよ。」
「どこから来たの?行くとこないの?」
「ねぇねぇ、この子どうする?飼おう、飼おう!」
そうよね。そうくるわよね。
私は「飼うのなら、ちゃんと病院で検査して、注射して、病気だったら治してあげないといけないしね・・・」と言うと、「いいよ、ちゃんとしてあげよう。じゃ、飼ってもいいよね!」
そしてその日から、ノン太は我が家の家族となった。
ノン太という名前は子どもたちがつけた。
ノン太がいた納屋には、夫のノンアルコールビールを置いていたから、だという。
ノン太は野良猫なのに人間を恐れない子だった。
ただ、片足を引こずって歩いていて、もしかして人間に虐待されたのかと思った。
でも病院に連れて行った時、ちょっと前に高い所から落ちて、骨が折れてそのままくっついた状態であること、野良であった期間は結構長かったのではないかと言われたので、虐待ではなく野山で過ごしすうち、落下事故にあって骨が折れたのかもしれなかった。
あれから三年。
言うまでもなく、ノン太は推定三歳。
結構な体格になった。
風貌も、うちに来た頃とは印象が違ってきた。
どちらかというと、いかつい感じの猫に仕上がったが、声が子猫のように高くてか細い。
好きなカリカリは猫ぐらし。
猫ぐらしを最初にあげたからか、他の銘柄のは絶対に食べない。
私がいる時は、手の平に乗せてやらないと食べない。
構ってられない時は、皿に新しいカリカリを少しだけ足して、すぐにその場を離れる。
子どもたちにもなついていたが(というより、好き好んでそばにいたのではなく、されるがままに仕方なくじっとしていた)、私を母猫だと思っているのか、後を追ってきたり、膝の上に乗ってきたり、とにかくよく甘える猫だった。
六月、田植えも終わり、苗が空いたところに追加の苗を植えに行った時だった。
家から田んぼまでは道路を挟んで広がっている。
通りの少ない町道であったが、念のために田んぼに出る時は、家に猫を閉じ込めて出ることにしている。
だが、その日はとてもいい天気となり、猫も私のそばにいるならと思い田んぼに連れて行った。
作業中、畦に寝そべり、私のことをずっと見ていたノン太。
いつしか、ノン太は寝てしまっていた。
私はトイレに行くために、寝入っているノン太をまたいで、家に帰った。
そして、一緒に作業していた夫から携帯がかかってきた。
「おい、大変だ。ちょっと来てくれ。」
ゆっくりトイレもさせてもらえないかと、渋々田んぼに戻ろうとしたその時、道の真ん中に黒白の物体が横たわっているのを見た。
大変なことって、このことだったんだ。
夫は私がショックだろうと、気を使ったのだと、その時初めてわかった。
すぐにノン太のそばに行った。
目は開いていて、頭から血を流していた。
体は柔らかく、とても温かい。
今なら、すぐに病院に連れて行けば助かる?
でも、もう呼吸をしていないし、鼓動は止まっている。
頭をやられたから、もうだめだ。
ついさっき、私はこの子が寝ているのをまたいでトイレに行った。
つまり、私がまたいですぐに目を覚まし、私の後を追って道路を渡った。
そして偶然にも滅多に来ない車が来て、はねられた。
どうして、一緒に抱きかかえて家まで戻らなかったのか。
私が気をつけていれば、今もまだ元気な鳴き声が聞けた。
もっと何年も一緒に過ごすことができた。
子どもたちは悲しむだろう。
ごめんね、ごめんね・・・・
理由はわからないが、前世で夫婦か、恋人だったような気がしたノン太。
この世では三年しか一緒にいられなかったけど、来世私は猫になって生まれるから、それまで待っててよ、ノン太。
ノン太がさっきまで寝そべっていた畦に、猫ぐらしを一握り置いた。
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